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第八章 (4)

 すっかり亀ペースが板についてしまいました。お待たせしました。ようやく次の話です。


 今回は敵地に乗り込んだエリナとサラの話。


自 2011年11月28日

至 2012年3月15日

(2011年12月15日からしばらく中断。3月15日再開)

一部追加 2012年4月4日


 というわけで、エリナとサラは小型艇で街へ降りた。もちろん実際に降りたのは街から外れた機体を隠しやすい場所である。そこから徒歩で市内に向かう。

「これからどうするの?」

「そうねぇ、とにかく人の集まりそうなところへ行って、情報収集…かな」

「人の集まるところへ行って大丈夫なの?」

「木は森に隠せって言うでしょ。人の多いところの方が逆に安全なのよ。こうした大きな街だと、得てして人は他人の事なんか見ちゃいないわ。小さな地方都市の方が危ないのよ。そういうところでは余所者は目立つから…」

「成程ね、このご時世、小さな町に観光客なんて却って怪しいわね」

「でしょ。と言うことで、私たちもまずは楽しみましょ。こうやってサラ姉さんと出歩くのも久しぶりだし…」

「そんなんでいいの?」

「初めから根掘り葉掘り聞いたら、スパイだって言ってるようなものよ」

 言われて見れば確かにその通りである。なのでサラもここは割り切って楽しむことにした。大学に入ってから学年も専攻も一緒だったから、去年までは良く一緒に出掛けたものだ。でも四年になってからはお互いに卒研と卒論で忙しく、そうした時間はなかなかとれなかったから、一緒に出歩くのは本当に久しぶりである。おしゃべりをしながら、あちこちの店を冷やかして歩く。はたから見てもまずスパイには見えないだろう。しばらくして二人はとあるカフェに腰を落ち着けた。たまたま出会ったお店に入ったのだとサラは思ったが、実はそうではない。街を歩きながら、エリナは人の流れを見、お店の人とさりげに会話をし、街の情報の集まりやすい店を物色していたのだ。

「こんにちは。マスターってここの人? 私たち初めてなんだけど、何か面白いところとかある?」

 カウンターに座って注文を済ませてから、エリナはそう切り出す。

「観光かい? ここに来るなんざ物好きだな。見るもんなんて大してないぜ」

「別に街が目的じゃないわ。ほら、あれよあれ」

 店内に貼られているポスターを指さす。サラは少し驚いたが、素知らぬ振りをして会話はエリナに任せる。ポスターにはミュージックフェスティバルとかかれている。

「あれにお目当てのバンドが出てるのよ。私たちはその追っかけってとこね。でもあれ、明日の夜でしょ。だからその前にちょっと街を見ておこうかなって…」

 いかにも最もなありそうな話である。だが、出場しているバンドのことなど、どこで聞き込んで来たのだろう。今日はまだそんなに別行動はしていない筈なのだが…。それにフェスティバルについて向こうから突っ込まれたらどうするのだろう。心配な事は色々あるが、ここはエリナに任せるしかない。

「ああ、成程。つうことはもしかしてヴェンダーズのファンか? あそこは女の子の追っかけが多いからなぁ」

「あっ、やっぱりわかる? なんかそういうオーラでも出てる?」

「だってあんたたち、割と普通だろ? インダーのファンは派手な連中が多いし、ガランのファンはイッちゃってる奴ばっかだもんな」

「で、マリアージュのファンは男ばっかだから?」

「まっ、そういうこと。もっともヴェンダーズの曲なら、俺も結構好きだけどな」

「マスターは何が好き? 私はね『星くずの街』とか『忘れられた海』とかが好きよ」

「おっ、通だねぇ。俺は『ワンダークラウド』とか『銀河のラブソング』とかだな」

「うわぁ、マスターってロマンチストねぇ…」

サラには二人の会話はさっぱりわからない。それにしてもエリナはどうして連盟で流行っているバンドや曲に詳しいのだろう。ミュージックフェスティバルのポスターを見れば、参加するバンドの名前ぐらいは簡単にわかるだろうが、流石にどんなバンドかとか、どんな曲を歌っているのかはわからないだろう。だがこの口振りだと、エリナはある程度の基礎知識はあるようだ。多分、今名前が挙がった曲を口ずさむこともできるのに違いない。

「にしても街で見るところねぇ。そうは言ってもここは観光都市じゃないからなぁ」

「ここって結構大きな基地があるのよね。だから?」

「ああ…まあそれもあるかもな。あんまり観光客にうろうろされると迷惑ってことなんだろう」

「じゃあ、あまりうろうろしない方がいいのかしら。今日はこのあたりでウィンドウショッピングしてたんだけど…」

 エリナがマスターに水を向けたので、サラがあとを引き継ぐ。

「基地の周辺をうろつかなきゃ大丈夫だろう。特に重要拠点ってわけじゃないらしいしな」

「そうなの? でもさっき随分大きな艦が入ってったけど…」

「ああ、あの程度ならしょっちゅうだよ。前線に行く中継点になってるから」

「前線って、まだずっと先よね。この近くじゃないんでしょう?」

 いかにも怖そうにエリナが口を挟む。

「あはは、心配しなくてもこのあたりで戦闘が起きることはまずないから大丈夫。じゃなきゃ、あんなフェスティバルだってやらないって…」

「だよねぇ。いくら私たちが追っかけでも、前線までは行きたくないもん」

 たかが追っかけで戦闘に巻き込まれたくないという素振りでエリナが話を続ける。

「中継点かあ。じゃあ結構、街に軍人さんって出歩いているの? 前線に行く前とか、戦闘から戻って来た時とか、息抜きするでしょ?」

「そうだなぁ、確かによその街よりは多いかもな。もっとも私服で歩いてると、ちょっと見にはわからないけどね」「えっ、私服とかでもいいの? 軍人さんってみんな軍服かと思ってた」

「軍服じゃ羽根、伸ばせないだろ。もっともいばろうとか思ったら、軍服の方がいいけどな」

「いばるって言えばさ、そんな偉い人とかって来ることあるの?」

「どうだろ。あんまないんじゃないか。まあこっちも軍の内部のことは良くわからないけど…。ああ、そういやちょっと前、やけに基地の警備がキツかった時があったな。あん時にゃもしかすっと要人が来てたのかもな」

 一つの店で、これ以上突っ込むのは危険だ。このあとエリナはさりげなく話題を変え、店を出た。サラをうながして、近くの公園に足を運ぶ。こういう場所は話を盗み聞きされる心配が少ない。開けている場所では、近づいてくる相手は目に付くし、盗聴器とかも仕掛けにくい。まあ一般的に言っても、公共の公園なんぞにそんなもの仕掛けたりしたら、ひんしゅくものではあるが…。もし軍がそんなことをしたら、それこそ信用問題であろう。――まあ、だからといって絶対やらないとも言えないのだが…――

「時期が合うかはわからないけど、少なくとも最近、それなりの要人はここに来たみたいね」

「そうみたいね。重要拠点じゃないってことを考えに入れると、多分、今回の作戦はこの基地で決定されたと見ていいと思うわ。情報の流れがどうなってるのかは見えないけれど…」

 情報を確認したサラにエリナが分析を加える。こちらの機密がどこから漏れたのかはわからないが、その情報がここまで届いていたのは間違いない。おそらくもたらされた情報が重大なものと判断されて、上の者がここまで呼び出されたのだろう。(或いはそれを耳にした上層部が誰かを差し向けたか…)そうして見ると、かなり正確で詳しい情報が伝わったのに違いない。となると、残る問題はそれが誰の手によって、ここまで届けられたのかということだ。ある程度詳しい情報を知り得たのは研究所の中でもごく限られた人間であるが、そのほぼ全員が現在ファルコンの乗員となっている。無論、だからといって彼らの中にスパイがいないとは言えないが、研究所内にいた頃も含めて、疑わしい動きをしたものはいない。少なくともこちらが気づける程には…。もしスパイがいるのだとしたら相当の手練れであろう。元々研究所内の情報管理は機密事項を預かることが多いから厳重なのだ。今回は新造艦ということで、更に注意が払われている。そうしたことを考え合わせると、研究所から直で情報が流れたとは思えない。二人は話し合った末、そういう結論に達した。エリナは密かに父が情報を流した可能性もあるとは思っていたが、それをサラ達に告げる気はなかったし、まして不確かな情報を軍にあげる気もさらさらなかった。

「さてと、夕飯がてらここのサルーンに飲みに行かない? アルコールが入ると口も滑らかになるわ」

 エリナがそう言って立ち上がる。要は適当な相手を見つけて、酔いつぶしてしまおうというのだ。お酒に強いこの二人だからできる作戦でもある。エリナもサラも特に美人というわけではないし、一目で魅かれるようなオーラも持ち合わせてはいない。が、女二人でサルーンにいれば、場所柄もあって声を掛けてくる輩は必ずいる。そして見た目がどれ程平凡であっても、この二人と話し始めれば、すっかり引き込まれてしまうだろう。サラは相手を自分の土俵に引っ張り込むのがうまい。気づかないうちにぺらぺらと重要なことをしゃべってしまっていたりする。エリナは逆に相手の土俵に踏み込むのがうまい。普通なら土足で踏み込んだと思われかねないところまでするりっと侵入してしまう。あっという間に相手の信用を勝ち取ってしまうのだ。何人かと会話を交わし、最終的に軍人らしいグループと合流する。

「へ~え、じゃあやっぱり軍人さんなんだ」

「えっ、わかるのかい?」

「うちらも身内にいるから何となくね。そうじゃないかと思って」

「それにほら、ここって大きな基地があるし…」

「街に軍人も多いだろうってか?」

「ええ」

 さりげに相手を確認する。みなまだかなり若いが、年齢だけで階級を判断することはできない。連邦もそうだが、連盟の方でも長引く戦いの中、軍への志願者は減っている。若手であっても実力が伴えば、高い地位につくことも珍しくないのである。

「戦うのってこわくない? ここは前線も近いみたいだし…」

 相手の行動範囲を探る。それによって質問する内容も変わってくるのだ。ここの基地の人間かそうでないかで、引き出せる情報は大きく異なる。

「前線って言ってもここいらは戦闘空域じゃないからな。たまに小競り合い程度の戦闘はあるけど…」

「あっ、でもついこの間、ちょっと大きな戦闘があったんだよな」

「かなり死者が出たって言うから、大変だったみたいだぜ」

「あなたたちは参加していなかったのね。その口振りだと」

「俺たち三日前にこっちに来たばっかだからな。結構大掛かりな作戦だったらしいけど…」

「なんか、ちょっと怖そうね」

 サラがつぶやく。その瞳には本物の怯えがあった。先のワズの戦闘では、サラは直接死を見てはいない。しかも脱出してからは戦闘でこちら側には死者は出ていないのだ。だがそれは逆を言えば、相手方の損害が大きかったということでもある。ここに来てあらためてそのことを認識したのだろう。

「大丈夫、大丈夫。ここまで戦闘が来ることはないよ」

 その怯えが本物だったからこそ、相手にも届いたのだろう。慌てた様に彼らは一様に大丈夫と口にする。

「そうそう、この星が攻撃されるなんてことは絶対ないからさ」

――絶対…ねぇ。それは口にしちゃダメだと思うけど?――

 エリナは心の中でそうつぶやく戦場において絶対などと言うものはない。こいつら本当にわかってるのかしらとも思ったが、無論そんなことはおくびにも出さない。

「それ聞いて安心したけど、あなたたちはそうした作戦に参加することもあるのでしょ?」

「うーん、まあ確かに…。けどあれはかなり特殊だったらしいし…」

「特殊? どうして?」

「ロマノフ准将が直々に指示したっていうからなぁ」

「ロマノフ准将? その人がどうかしたの? 普通の軍人さんじゃないの?」

「そっ、軍の本隊とかじゃなくて、普段は別働隊を指揮してる人でさ。何でここにいたのかも謎なんだよ」

「ふ~ん」

 ――どうでも良いけど、いくらこっちが素人だと思ってるからって、そんなことぺらぺらしゃべっちゃっていいのかしら――

サラは不思議に思う。これはエリナの話のもって行きかたがうまいのかしら。話を訊き出すのは私の方が得意だからとか言ったけど、エリナの方が遥かにうまい様な気がするわ。今のやりとりもそうだが、昼間のカフェでのやりとりも見事だった。でもサラは気づいていない。エリナが話を進められるのは、それなりの下知識があるからだ。そして話を進めて行く上で、さりげないサラのフォローがあったからだということに…。それは裏を返せば、何も知らずにそこまで聞き出す能力があるということなのだ。一方エリナはまるで関心なさそうに、あいまいに うなずいて話題を切り替え、ひとしきり当たり障りのない話をしてから彼らと別れた。そのまま店を出る。その様子からするとどうやら必要な情報を得たらしかった。



 無事、情報をつかんだ二人でした。次は帰還の様子です。


入力 2012年11月26日


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