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第八章 (1)

 第八章がいよいよスタートします。敵陣に乗り込んで行くファルコンには何が待ち受けているのでしょうか?


 まずは戦場の現実から…。


自 2011年10月8日

至 2011年10月14日


 話は少し前に戻る。研究所の調査を終えて一行が艦に戻って来た時のことだ。格納庫に戻って来たエリナはバーディに声を掛けた。

「研究所についての報告をするから、バーディ、あなたも艦橋に上がって」

「えっ、俺?」

「そう」

 不思議そうに聞き返したバーディに軽く肯定をする。その様子を見ていたリチャードが、艦橋へ戻ろうとしたエリナを呼び止めた。

「おい、ちょっとエリナ」

 振り向いたエリナは、同じように振り向いたカールに軽くうなずいて合図を送ると、リチャードに向き直った。バーディはカールと連れ立って先に格納庫を出て行く。話の内容をおおよそ察知したのだろう。だから先にバーディを連れ出したのだ。

「何? リチャード?」

「博士の遺体は?」

「見つからなかったわ。多分、崩れ落ちた瓦礫の向こうね」

「そっか…、で…それを伝えに…?」

「まあね」

「飛散している可能性についても話す気か?」

「一応ね。黙っているのは卑怯でしょ」

「それは卑怯とは言わず、思いやりというんだが? まあそれはいい。彼奴も連れて行ってもらえないことを気にしてたしな。事情は話すべきだろうな。でもいいのか?」

「良くも悪くも軍人になっちゃった訳だし、この先そういう場面にはいずれ直面するでしょ」

「それはそうだが…。身内のそれはまた別だろう?」

 そう言われてエリナは視線を落とす。確かに姉弟たちにとって、今はそうかも知れない…でも…。

「でも、戦場で共に戦った者の死はもっと重いわ、違う?」

 こう問い返されて今度はリチャードの方が視線を落とす。それは良く判る。生死を共にした仲間との絆は、時に肉親とのそれを越える。当然、その喪失感は大きい。そしてエリナもリチャードも、それを嫌っていう程知っているのだ。

「一人で大丈夫か?」

「カールがいるわ。軍人としての経験は浅いかも知れないけど、その思いはわかっているから…」

「そうか…。じゃあ頑張れよ」

 隊長であるバーディが離れた今、リチャードは副官として可能な限り、ここに詰めている必要がある。現在、第二戦闘体制中なのだから…。カールに任せられるのならそれで良いのだ。エリナを守るのは別に自分でなくとも良いのだから…。バーディと異なり、エリナの周囲の者たちは互いにあまり嫉妬心を持たない。それはエリナに対して、恋愛感情や独占欲を持っていないからだろう。あくまでもエリナはみんなの〈・・・・〉エリナなのだ。その時々でできる人間が、そのサポートをすれば良いのである。


 エリナが艦橋にあがると既にデビーもカールに呼び出されて、メインブリッジに来ていた。メンバーが揃ったのを確認したミックが口を開く。

「揃った様だな。では報告を…」

「はい、市街地での人的被害はゼロですが、軍基地の方はかなりひどい状態です。何より総司令部が直撃を受けて、壊滅状態でしたから…。まあこれは脱出前からわかっていたことですが…。既に病院船によって、その後発見された生存者の収容は終わっていますが、現況死体は回収しきれず、そのままになっています」

 カールが調査隊から渡された資料を確認しながら報告をする。

「敵艦から取得したデータは、現在メインコンピュータールームで分析中です。分析の済んだものから順に艦橋へ上げさせます」

 そこまで言って、カールはエリナを振り返る。それへうなずき返して今度はエリナが口を開く。

「研究所内に敵が侵入した形跡はありません。あくまでもこちらが確認できた範囲では…ということですが…。内部の損傷が激しく、奥の方までは行かれませんでしたので…。それと総司令部への通路も完全に塞がれており、内部の確認はできませんでした。ということでランドルフ中将の遺体の回収は叶いませんでした。ある意味幸いだったかも知れませんが…」

「それは…どういうこと?」

 幸いという言葉にサラが反応する。いや声を上げたのはサラだが、他の三人の姉弟たちもいぶかしげな視線をエリナに向ける。父の死を疑うわけではないが、できれば遺体は確認したい。

「私が脱出したあと何がどうなったかは誰にも判らないわ。爆発や出火や崩壊の可能性はあるわ。その場合、残された遺体がどうなると思う? 直接それを見ないで済んだのは良かったかも知れないということよ」

 実際、通路は崩れ落ちていたのだ。倒壊した建物に押しつぶされてペシャンコになっている可能性もあれば、炎に焼かれて黒コゲになっている可能性だってある。至近距離で爆発でも起きればバラバラに飛散していてもおかしくはないのだ。そう指摘されて艦橋にいた全員が口をつぐむ。だが残酷な話だが、それがママゴトでない戦場の現実というものである。既にいくつかの戦闘を経験したとは言え、そういう状態の遺体に直面したことのあるものはほとんどいない。民間人だったメンバーは元より、士官候補生だったミックたちだってそうだ。

「まっ、艦橋メンバーはそれに直面することはそうはないだろうがな。それが現実だと認識はして置かないとな」

 全員を見渡してカールがたたみかける。同じ士官候補生だったとは言え、その経歴はそれぞれ異なる。ためらいもなくこう言い切れるということは、それを彼は知っているのだ。言葉の上ではなく、現実に…。でなければこれ程冷静に話せまい。

「そうか…判った。各自、持ち場に戻ってくれ」

 何とかミックが言葉を絞り出す。――まだまだ甘いということか――だが甘えている訳にはいかない。曲がりなりにも自分はこの艦を預かっているのだから…。一方、デビーは艦橋を離れる前にそっとエリナに歩み寄る。

「姉さん…僕は話にしか聞いてないけど…六年前もそうだったの?」

 小声で心配気にエリナを覗き込んで問う。エリナはハッとした様にデビーの瞳を見つめ、たゆたう様に視線を反らす。

「…初めて見たのは…ね」

 ためらいながらポツリと告げる。デビーが息を飲んだ。それからちらりっとサラやマリーの方を見やる。二人とも黙ったまま、その視線を外す。では少なくとも、姉さん達は知っていたのだ。どの程度…かはともかく、まともな状態じゃなかったことは…。兄さんはどうなのだろうと艦橋を出て行くバーディを見やる。多分、知らなかったんだろうなと思う。知っていたら何が何でも、エリナのもとへ駆けつけていただろう、あの兄ならきっと。

「そっか…。僕は何も知らなかった。姉さん一人、辛い思いさせたんだね」

「過ぎたことよ。忘れろとも忘れられるとも思わないけど…、とらわれることはもうないわ」

 ならば一応、吹っ切ったのであろう。これ以上それに言及することはエリナを苦しめる。デビーはにこっと笑って艦橋を辞した。


 エリナとカールの言葉は艦橋にいたすべてのメンバーの心に小波を立てた。いや、投げ込まれたのは小石ではなく、漬物石だったのだから、むしろ大波だったのだ。まあ流石に津波という程ではなかったが…。戦場にあることを選んだ以上、それなりに覚悟はしていたつもりだった。でも、その現実を知ってしまうとやはり心は震える。友が、仲間が、或いは自分自身が…、いつかそういう死に方をするかも知れないのだ。そうでなかったとしても自分が敵を…、敵の誰かを…、そういう風に殺していくのだ。戦場で一人も殺さずに済まそうなんてできっこないのだ。直接に誰かを手にかけなくても、戦艦に乗っているという事で、戦争に加担しているのは確かなのだから…。


「俺が一番可能性が高い…よな」

「現実に直面するのが…か?」

 格納庫に戻り、溜息をついたバーディに、脇から声がかかる。バーディは驚いてそちらを振り返った。

「ヤング中尉!」

「リチャードでいいって言ったろ! 俺はお前の副官だ」

 リチャードはそう言って、バーディの頭をこつんと叩く。

「いくら部下でも呼び捨てにはできませんよ。じゃあ、リチャード中尉」

 階級も年齢も上なのだ。呼び捨てには抵抗がある。

「おう、それでいい。ちょっと驚かせちまったかな」

「ええ…、そりゃまあ…」

「で、悩んでるのは遺体の状態か?」

 遠回しに言っても仕方が無いので、はっきりと聞いて見る。どのみち、避けては通れないのだ。この飾らない問いに、驚いてリチャードを見返す。エリナに呼び出された時から、その手の話題が出ることに気づいていたのだと、その表情を見て悟った。姉貴はこうしたことも含めて、リチャードを自分の副官につけてくれたのだろうか。多分きっとそうだろう。艦橋と直結しないこの仕事場では、こまめにバーディのフォローは出来ない。だからこそ信頼の置ける部下を回してくれたのだ。もしかしたら自分の配下に置きたかったかも知れないのに…。

「そうですね。メインブリッジのメンバーより俺の方が可能性は高いですよね」

 リチャードなら答えられるだろうと思い、そう問い掛けて見る。

「そうだな、確かにそうかも知れん。だがこいつばっかりは実際に起きて見んとわからんからな」

 戦場ってのは何でもありの世界だからなと、リチャードは思う。今、それをバーディに伝える気はさらさらなかったが…。こういうのはきちんと自分で経験して、認識するものだ。いくら言葉で言われても、それは本当に理解したことにはならないのだ。それは単に判ったつもりになっているだけでしかない。

「まっ、いずれにしても覚悟はしておけよ。それがあるかないかで、受けるショックの大きさはかなり違うからな」

「前に姉貴にも言われましたし、覚悟はちゃんとしてますよ。今更、逃げ出す気もありませんし…」

「こういうのは慣れだからな。初めはしんどくても、そのうち慣れる。だがな、これだけは覚えておけ。いいか、死体には慣れても、死には慣れるな」

 白兵戦でもない限り、自分の行為が人を殺しているということを、つい忘れがちになる。撃ち落とした戦闘機の中には、誰かがいるのだ。(まあ、まれに無人機もあるが)まして、戦艦一つ撃沈させれば、それが小型であっても、何十人と人の命を奪うのである。それでも死に直面しないため、そのことを失念してしまうのだ。それに実は激しい戦闘の最中〈さなか〉、いちいちそんなことを気にしていたら、やってられないという事情もある。それでもそのことを決して忘れてはいけないのだ。そうでないと単なる人殺しになり下がってしまう。まあ確かに戦争なんぞ、ある意味人殺しには違いないのだが…、それでも無目的の無差別殺人とはやはり一線を画している。(まあこの場合、殺人が目的とも言えるが…)それはともかく、バーディはリチャードのこの言葉をしっかりと心に刻み込んだ。とても大切なことだと思ったから…。


 思えば、遺体の状態なんて考えたこともなかったな。ショウは思う。既に何度も戦闘を経験し、敵を倒して来たが、それはとりもなおさず、人を殺していることに他ならないのだ。その事自体はきちんと認識してはいたが、その時の遺体について思いを馳せることはなかった。間近で味方の機体がやられるのを見たこともあったが、直接遺体を目にはしていなかったからかも知れない。が、しかし、考えて見れば、炎上すれば燃え尽きてしまうかも知れず、爆発すれば飛散してしまうかも知れず、激突すればひしゃげてしまうかも知れない。その事はちゃんと判ってなきゃ駄目だなと肝に銘じる。

 他のメンバーもそれぞれ似た様なことを考えていた。とは言え、ここのメンバーはそのほとんどが、通常であれば、直接、死と関わることはない。ショウを除けば、可能性の高いのはマリーぐらいだろう。一応、戦闘員なのだ。砲術班とは言え、その長という立場から指示を出すことはあっても、直接砲を扱う事はあまりない。それでも場合によってはそうなることもあるだろう。それ以外は白兵戦にでもならない限り、敵と相対することはない。とは言え、艦橋から指示を出すということは、その向こうで誰かが死んで行くという事に他ならないのだが…。まあとにかくそんな訳で、エリナとカールの言葉はここがまさに戦場なのだと、改めてみんなに認識させることになったのだった。

 相変わらず亀のごとき更新ペースですが、できるだけがんばります。気長にお付き合いしてください。


入力 2012年11月1日

校正 2013年7月9日


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