第七章 (2)
更新ペースも亀のようですが、お話の進度も亀のごときです。ワズまでが遠い。
こんなのんびりペースで銀河の統一までたどり着けるのでしょうか? 自分でも不安になって来ました。でもがんばります。見捨てずによろしくお願いします。
自 2011年9月1日
至 2011年9月3日
修正 2013年6月8日
地区本部基地から最前線基地までの途中、敵の追撃を受けた地点を二ヶ所通過した。当然のことながら敵の姿は既になかったが、戦闘の名残りである破損した機体や部品が未だ回収されず散らばっており、そこが戦場であったことを明瞭に示していた。
「あの機体とかって、ずっとああやって宇宙空間を漂っているわけ?」
艦橋から外を眺めながら、マリーが誰にともなく問う。
「いや、いずれ軍によって回収される筈だぜ。だろ、エリナ」
ミックが答え、エリナに確認する。
「うん、敵の機体とかは戦力の分析に役立つし、味方の機体は部品が使えるし、何より物資は貴重だから使えるものは何だって使うわよ。それに航路にあんなものが散らばってたら邪魔だし、危険でもあるしね。まあもっとも撤退した戦場とかの場合は危険過ぎて回収に行けないけど…。その場合は敵側が回収するでしょ」
長引く戦の中、物資はいつだって不足しがちなのだ。前線から遠い位置にある工場は流石に敵の攻撃を受けることはないが、物資の輸送路は長くなる。勢い前線までは中々物資が届かなくなってしまう。かといって前線の近くに工場を造れば、そこは敵のかっこうの目標になる。実際、そうやって多くの工場やドックが攻撃対象となり、激しい攻防戦が繰り広げられて来たのだ。
「軍にはさ、軍艦の他に補給船、調査船、病院船、回収船と四通りの船があるのさ」
リオが解説する。このうち病院船だけが、戦闘機能を持たない。病院船には攻撃を加えないというのが鉄則である。無論、戦場を航行する以上、流れ弾に当たる可能性は常にあるが、民間機と同様に船としての武器はない。攻撃をするということはすなわち反撃されるということでもある。攻撃してくる相手を自動的に追撃するようなシステムも存在している。攻撃されたくなければ、こちらからの攻撃もするべきではないのだ。
「結局、二度とも連盟側は撤退したんだよな」
ショウがたずねる。
「撃破されたっていうデータはないから多分そうだろうな」
カールが答える。立場上はレーダー部門の長だが、こうしたデータの分析にはいつも立ち会っている。敵や味方の配置を確認しておくのも大事な仕事なのだ。敵の接近の監視や、周囲の確認(航路上の漂流物とか…星々とか)は、下の者が行えば良い。リーダーはそれらのデータを迅速に判断し――特に戦闘時には瞬時の判断が求められる―ー適格に報告しなければならない。そのためには現状を正しく認識しておく必要が常にあるのだ。
「多分って…はっきりしてないのか?」
「撤退したっていう明確なデータは我々に提示されていないからな」
「ホラ、何ていっても上層部は秘密主義だから…」
二人の会話に茶化すようにエリナが口を挟む。けれどその目は笑ってはいない。戦場で生き延びるためには正しい情報が欠かせないのだが、上層部は何だかだといってその情報を出し惜しみする傾向がある。戦略のためというのが、その主な理由なのだが、本当のところはかなり怪しい。前線で命を的に指揮をとっている多くの指揮官達に言わせれば、何が重要で何が重要でないのかがちーっともわかっていないということになる。本部のエリート達は現場というものがわかっていないのだ。いや中にはちゃんとわかっているものもいるのだが、いかにせん数が少なく、発言が通りにくいのである。
「成程な、一応こっちは推測で動くしかないってわけか」
周辺情報を集めれば、ほぼ確定しているとも言えるが、表向きはそういうことになる。
最前線基地で丸一日休みをとった。基地を出れば以降はずっと第二戦闘配置のままになる。充分な休みは当分取れなくなるのだ。とは言え、翌日には出発する為、流石に羽目を外しすぎてダウンするようなものはいなかった。それだけ皆、軍人としての自覚も出て来たということだろう。それにわずかの気の緩みが死につながるということを誰もが――少なくともワズを脱出した時のメンバーは――身に染みて知っていたからでもあろう。船外へ出たものも夕刻にはみな船に戻っていた。いつもは終日開いている食堂も今日だけは早終いである。皆、明日からの任務に備えている。その晩、エリナが部屋でくつろいでいるとトントンと誰かがノックをする。
「はあい、誰? ってバーディ? どうしたの、こんな時間に」
こんな時間…とは言っても、いつぞやエリナがカールの部屋を訪ねていた時ほど遅い時間ではない。まあ、そのことを知っているのは今のところ、マリーだけだが…。
「ん、たまにはゆっくり姉貴と話したくてさ。明日ここを出たらそんな時間取れなくなるだろ?」
確かにそれはそうだ。そもそも普段、詰めている部署が違うし、それを抜きにしてもエリナはいつも忙しそうなのだ。――いや実際忙しいのだが…――ワズを脱出後、地区本部基地まではまだ未完だったシステムの完成やデータの分析、破損箇所の修理、艦橋での戦略サポートと正に休むヒマもないくらいだった。今度の任務を引き受けてからは、技術部のメンバーも増え、全体の仕事量は減ったが、マルコフが艦を降りたことによって、参謀としての必要性はより高くなり、日中は艦橋を離れられなくなっていたのだ。
「まあ、それはそうね。入って」
中に入ったバーディはすとんっとベッドの端に腰を降ろした。
「姉貴さあ、もう大丈夫? 親父のこと」
「えっ、ああそうか。ワズに戻るから?」
「うん、やっぱ思い出したりするかなって…」
「心配してくれてるわけね。でもまあ大丈夫よ。それにどうしようもないことだったし…」
そう…正にどうしようもなかったのだ。それをどこまで理解してもらえるかはわからないが…。
「それはそうなんだろうけど…。俺もさ、今はリーダーだろ。そのうち仲間の死に出会うのかなって…」
そうなった時の為に、その時の気持ちを少しは知っておきたいと思う。姉貴は戦場で多くの死に出会っている筈だから…とそう思う。ききたいのは父の死に直面した時のことだけではないのだ。
「そうね、いずれそうなるでしょうね。それは確かにしんどいことだけど乗り越えなきゃならないものよ。戦場に出ればどんな立場であれ、必ず死とは直面するわ。誰も死なない戦争なんてあり得ないのよ」
きれいごとは言わない。どんなにすぐれた名将であっても一人も部下を失わずにすべての戦いを乗り切ることは不可能である。それに仮に自分たちが無傷であったとしても、敵には被害が出ている筈だ。双方ともに被害がゼロなんていうのは、おままごとの世界である。エリナにそう言われてバーディは深い溜息をつく。戦闘機隊を預かることになった時から、一応その事は自覚してはいたが、ここまでの戦闘で死者が出なかったので、少し甘い見通しを抱くようになっていたのだ。がっくりしているバーディに何と声を掛けようかとエリナは思う。そんなことないわよと言ってやれたらいいのに…。でも、嘘はつけない。ついたところですぐにその現実に直面してしまうだろう。そうしたら傷はもっと深くなる。バーディはしばらく黙り込んでいたが、やがて意を決した様にきっと頭〈こうべ〉を上げた。
「わかった。覚悟はしておくよ。軍に入ることを決めた以上、今更泣き言は言えないし、言うつもりもないから」
「そう言ってくれると私も嬉しいわ。でも無理はしないでね」
「うんわかった。ところでさ、姉貴」
「うん? 何?」
「カールさんって姉貴の何?」
「えっ…何って? 高校の時の同級生よ。ただそれだけ…」
「ただの友達には見えないんだけどな」
「鋭いわね。でも今はホントにただの友達よ。ん~まあしいて言えば親友に近い…かな」
「親友に近い? 何か変じゃない?それって。それに今は…ってどういうことだよ」
「男と女だからってこと? でも私達、ホントにいい友達なのよ。親友に近いってのはね、お互い相手の内面にちょっとだけ踏み込めるからよ」
内面に踏み込めるというのは、それだけ深い付き合いがあるということだろう。それで…友達?
「内面にまで踏み込める付き合いなのに友達? 恋人じゃなくて?」
疑問をそのままぶつけてみる。普段の様子を見ていても、友達以上の関係に見えるのだ。
「ん~、そうねぇ、確かに付き合ってた時はあったけど…。友達にしかなれないってわかっちゃったのよね、その時に…」
「でも…それって何か変じゃない?」
「そうかなぁ。私は男女間の友情もあり〈・・〉だと思うけど?」
「それは姉貴の意見だろ。カールさんの方はどうなんだよ」
「え、向こうもそれは納得ずくよ。お互いにそう思ったから友達になってるわけだし…。気になるなら直接カールに聞いてみたら? きっと同じ事言う筈よ」
そうかなぁとバーディは思う。姉貴の方はそう見ていたとしても、カールさんはどうだろうと…。だがこの点において双方の認識にずれはない。あの一件をきっかけに付き合い始めて、その事を認識した。それ以前から確かに互いに引き合っていたのだが、ここに来てその理由について改めて認識し、納得したのだ。今ではもういい友人以上になるつもりはさらさらない。――いや、より正確に言えば、友達以上、恋人未満といったところだろうか。ある程度、互いの内面が垣間見える関係なのだから…――それにこの二人の関係はともかく、男女間の友情なら確かにあり〈・・〉だろう。何よりエリナの豊かな友人関係が如実にそれを物語っている。
「わかった、とりあえず今はそれで納得しておくよ」
これ以上、エリナを追及したところで、これ以上の答えは望めないだろう。ならばここは引くしかないのだ。
「それにしても姉貴、このままずっと参謀でいるつもり?」
「どういうこと?」
「だって、この間初めて知ったけど、戦闘機の扱いだってすごいじゃないか」
戦闘中の自分達の脇をすり抜けていった手腕は只者ではない。あの時は本当に度肝を抜かれたのだ。
「ん~、そうねぇ、でも私、どっちかって言うと一人で突っ走っちゃうタイプだからなあ」
指揮官として優れた才を見せる反面、自分が現場に出ると臨機応変すぎて、周りがついて来れなくなってしまうことを、エリナはよく承知している。すぐ熱くなってしまうのだ。だから少し離れたところで大局的に物を見た方がいいともう経験上、わかっていた。
「周りが見えなくなると、自分よりも周囲を危険に巻き込むことになるから…」
ああそういうことかとバーディも納得する。確かにあのスピードで戦場を飛び回られたら、敵はおろか味方すら混乱してしまうだろう。要は適材適所ということなのだ。
「技術があればそれでいいってわけでもないんだね」
「そういうこと」
明日に備えていい加減休まねばということで、バーディはエリナの部屋を出た。カールとのことは今一つ釈然としなかったが、この件については一応カールの方にも聞いてみて改めて考えることにする。
次でようやくワズに到着します。ワズの様子はどうでしょうか?
入力 2012年10月16日
校正 2013年6月8日




