第七章 (1)
第七章スタートです。
第六章までを第一部として、ここから第二部第一章にしようか迷ったのですが、取り敢えずこのまま第七章として続けます。
活動報告にも書きましたが、第五章以降の校正は後回しにします。我が家は受験生を二人抱えていて、これから忙しくなりそうです。ストックのあるうちは更新を優先することにしました。
自 2011年8月11日
至 2011年8月30日
補充要員が決まり、基礎訓練も終わって、ファルコンが地区本部基地を離れたのは、全員の処遇が決まってからおよそ二週間後のことだった。この頃には基地に留め置かれていた民間人達も既に解放され、(流石にワズに戻るわけにはいかなかったが)それぞれの家族の元へ戻っていった。身寄りのないものの中には、そのままこの地に留まった者もいたが、大半はこの星を出て別の星へ向かっていた。確かに彼らはワズという最前線で暮らしてはいたが、およそ戦闘とは縁遠い場所であったから、ここのように戦闘に近い場所での暮らしは落ち着かないのである。まあ戦闘に近いとは言っても、直接、敵が来るわけではないのだが、基地の性格上、軍艦の出入りは頻繁だし、町の中を出歩く軍人の数も半端ではない。地区本部があるくらいだから、当然町の規模も大きくてにぎやかである。そもそも軍基地がなかったとしても、大きな町というのはどこか気忙しいものなのだ。こぢんまりとした町で暮らしていたものにとって、住みやすいとは言い難いのである。
さて、ファルコンが最初に与えられた任務は、一度ワズに戻って、ワズの状況を確認するとともに、ワズを襲った敵がどこから来たのかを割り出すといういわばスパイ活動であった。その為、今回も単独行動である。とは言え、今までの様に戦隊に付け狙われることはもうないだろう。無事地区本部に逃げ込んだ時点で、開発に絡む重要な情報は本部に渡ったと見るのが筋である。となれば、今後狙われるのはその情報の方であり、ファルコンを破壊するより捕らえる方がその目的には適う。敵の戦力を正しく知ることが、戦局を有利にする近道なのだから…。また情報という点を抜きにしても、ファルコンはもう既に連邦軍の一戦力となっている。戦場に出た場合、どこをどう攻めるのかは戦略の問題であろう。まあどちらにしても攻撃対象であることに変わりはないのだが…。今回の作戦に関して言えば、それなりの勝算はあった。連盟側もまさかこんなすぐに連邦軍が――いや、正確に言えば、一度ワズを脱出したファルコンが――ワズに戻ってくるとは思っていまい。実際、生存者の有無の確認に軍から調査船が出ているが、敵と出会ってはいないし、敵が残したらしい偵察衛星等も発見されてはいない。――まあだからといって、そうしたものがまったくないとは言い切れないが…――前回の調査船はいわゆる病院船であったから、仮に敵がそれに気づいていたとしても、手を出して来ないのは当然のことではあるが…。それとは別に被害状況の確認の為に調査船が来るだろうことは、敵も当然想定しているだろう。だが、それがファルコンだとはよもや思うまい。ましてやその主目的がスパイ活動だとは、夢にも考えていないだろう。だからこそファルコンがこの任務に選ばれたのである。
地区基地を出る前、補給もすべて終えたあとで艦橋メンバーはミーティングルームへ集まった。これからの作戦の最終確認の為である。
「ワズまでは脱出時にとったルートを逆に行くことになるんだろう?」
ミックがエリナに確認する。マルコフが艦を降りたことで、メンバー内の会話はかなり砕けたものになっていた。元からの軍人であるミックたちはまだ少しぎこちないところもあったが、他のメンバーの会話はもうすっかり日常会話である。
「まあ大体はね。ただ補給の回数は来た時より減らせるから、もう少し真っ直ぐなルートを辿れる筈よ」
「減らせるってどういうこと? 船の重量はあまり変わらないと思うけど…」
サラが口を挟む。燃料の消費は船の重量に依存する。軍に登録されなかった民間人は全員降りたが、その分倉庫には物資を積み込んでいるし、新たに補充要員も乗り込んでいる。確かに船の重量はあまり変わっていない。というかむしろ増えているかも…。
「まあ、確かに重量的にはね。大して変わっちゃいないけど、前より物資は積み込めるからそちらの補給は減らせるし、弾薬はともかく、食糧はどんどん減っていくから、途中から軽くなっていくわけだしね」
そうしたことを総合的に考えると、来る時より若干ではあるが、補給基地に寄る回数を減らすことができるのだと言う。
「あとね、弾薬類は取り敢えず必要最低限しか積んでないから、その分食糧に回せるしね」
ワズの一つ手前の基地(今ではここが最前線になるわけだが)までは敵に出会う可能性は低いので、こうした作戦をとっている。弾薬類の予備は最前線基地で補給することになっていた。
「ということで、今回の予定ルートはこれ」
メインパネルに航路図が表示される。
「これだと来る時の半分くらいの日程で行けそうだな、エル」
「最前線基地までは…だろ。その先はまだわからないぜ」
航路図をチェックして口を開いたベンにエルがそう答え返す。最前線基地を出たあとは、いつどこで敵と遭遇してもおかしくはない。ワズを出た時は素人だった二人も、すっかり軍艦のパイロットとしての観点を身に付けていた。
「偵察衛星はまだ生きてるんだろ?」
「今のところ破壊されたという報告は来ていないわ」
カールの問いにサラが答える。副艦長として基地との情報のやり取りは彼女が一手に担っていた。
「ということは、そこから敵の動きは掴めるな」
ショウがつぶやく。戦闘班長として敵の動向は常に把握しておきたいのだ。
「まあワズまでは問題なく行けると私は踏んでいるけどね。戦場では何が起こるかわからないから」
状況の正確な分析という点で、この艦においてエリナの右に出るものはいない。(まあリチャードなら並ぶことはできるかも知れないが…)だからエリナがそう言うのなら安全はほぼ確保されたと見て良い。
「次はワズへの進入ルートだけど」
エリナは言いながらパネルの表示を切り替える。
「軍港は既に破壊されてるけど、民間空港の方は何とか使えるらしいから、そこに着陸するわ」
「ちょっと待って、それで大丈夫なの?」
マリーが声を上げる。敵の偵察システムが仕掛けられている可能性だってあるのだ。あるいは罠とか…。
「少なくとも罠はないわ。仕掛けたところで何のメリットもないもの」
マリーの指摘に対して、エリナはそう答える。こちらの動きを見るためのセンサーなどはあるかも知れないが、いきなりの攻撃はない筈だ。まずはこちらの出方を見てから…になるだろうし、エリナ自身はそうした監視体制があるかどうかさえ怪しいものだと思っていた。まあそれは口にする気はなかったのだが…。
「研究所からの脱出口は使えないのか?」
ミックが問う。
「使えると思うけど、それは逆に敵に研究所への侵入口を知らせることになりかねないわ。内部はかなりのとこ破壊されているとは言え、どこに重要な情報が残っているかわからないわけだし…」
できうる限り、データや開発途中の機器などは破壊してはきたが、研究所内をくまなくチェックできたわけではないのだ。――そんな事をしていたら脱出のチャンスを逃してしまっていただろう――
「わかった。じゃあ敵の動きに最大限注意して宇宙港に降りることにしよう」
エリナの方を見やりながらミックがそう宣言する。艦を預かったばかりでまだどこか頼りな気ではあるが、不安を押し殺して毅然とした態度を見せた。ここまで来たらもう後には引けない。やれてもやれなくても、やるしかないのだ。
「そこから先については、実際にワズに行って状況を確認してからでないと動きようがないので…」
ワズに敵艦の残骸が残されていれば、そこから何らかの情報が得られるかも知れない。だが、それも現地に行ってみないとわからないことである。
「とにかくまずはワズに着くことだな」
「その前に最前線基地で状況確認でしょ」
ミックの言にサラが追加する。彼女もだいぶ戦局が読める様になって来ていた。このあとメンバーは細々とした作業手順の打ち合わせを済ませ、各部の部署ミーティングへと散っていった。平常時のシステムを確立しておかないと戦闘時にフレキシブルな行動が取れなくなる。どこの部署も新たな補充要員を迎えていたから、こまめなミーティングはどうしても必要だった。
ここからいよいよファルコンがメインで動き出します。
しばらくは戦局の方が大きく動くことはないかと思います。メンバーの動きを追いつつ、物語は進んで行きます。
入力 2012年10月11日




