第六章 (6)
第六章の最後です。この次はそのまま第七章としていますが、ここで第一部が終わったと言えるかと思います。
次から軍の一部隊としてファルコンが動き出します。
自 2011年8月9日
至 2011年8月11日
一部追加 2012年3月29日
食堂を預かっていたメンバーもそのまま軍人として登録され、艦に残ることになった。この件に関してはエリナも納得がいかず、再三彼らと議論を戦わせた。何と言っても彼らこそまさに民間人だったし、ここに至る過程で実戦には欠片ほども参加していない。だが戦艦に乗るということは、状況によっては戦闘に駆り出されるということだ。昨日まで民間人だったからという言い訳は通用しない。まあそれを言えば、戦闘班も技術部門も、メインブリッジさえも多数の旧民間人を抱えてのスタートにはなるのだが…。それは学習システムの問題もあるからで、そうしたシステムとは無縁の生活班のメンバーまで、軍に残ってもらうつもりはエリナにはなかったのだ。
戦場はいつだって荒野だ、死と背中合わせの…。生き残るために人を殺し、また理不尽に殺される、そういう場なのだ。そこに善悪の区別はない。常に生き延びた者だけが正義なのだ。そんな過酷な現場に彼らを引きずり込む権利はエリナにはない。
だが彼らは決して譲らなかった。どうしてもここで働きたいと主張し、結局はエリナが折れた形になった。何もかもを承知の上で、彼らがその道を選ぶというのなら、エリナにそれを止めることはできない。彼らの人生は彼らのものだ。辛い思いをさせたくないというエリナの感傷だけで、それを覆すのは間違っている。最も彼らの方も自分達のその決断がエリナを悲しませることは判っていた。それでも彼らはここでエリナの役に立ちたかったのだ。今エリナを傷つけたとしても、それはきっと償えるだろうから…そう共にいさえすればいつかきっと…。
さてそんな訳でかなりの民間人やそれに近いメンバーが、今回軍人として登録された訳だが、そうなると出発までにそれなりの軍事訓練が必要となる。その為、補充要員が決まり、彼らが赴任するまでの期間を利用して基地で基礎訓練が行われた。無論、既に軍人であったエリナ達はこの基礎訓練には参加していない。基礎訓練は銃器の取り扱いや、基本の操縦方法などの実践の他、報告書等の書き方等の事務、あとは多少の兵法などを含んでいる。兵法を学ぶのは、当面上に立つことはないとしても、少しは知っておかないといざという時に思うように動けなくなるからである。
要員が決まったあとファルコンがどこに配置されるのかは今のところ判っていない。ただ、後方支援などに回されることはないだろうという点で、艦橋メンバーの意見は一致していた。おそらくは激戦地だろうとエリナは思っている。それは艦の能力とこれまでの戦績を考えた上での判断だった。
全員の処遇が決まった晩、基地内のバーに顔を見せたのはエリナとカールである。当分基地を動けないことは判っていたし、翌日から別の意味で忙しくなるのも判っていたから、その前の息抜きという訳である。それに互いにプライベートな話もしたかったのだ。
「会議、お疲れさん」
カールがそう言って、二人は杯を合わせた。
「無事みんな残れて良かったわ」
「良く言うぜ。本当は結構、勝算あったんじゃないのか?」
「何言ってんの。データの分析はあなたも一緒にやったじゃないの」
「データ上の数値はな。けどお前のことだ、どうせ裏工作したんだろ」
「裏工作ってね、人聞きの悪い。そりゃちょっと手回しはしたけど…」
「ちょっと?」
疑わし気に下から覗き込む。ごまかすんじゃねえ、判ってるんだぞとその眼は語っている。
「あーもう、判ったわよ。ええ、ええしっかり根回ししましたとも、でなきゃ階級かさにごり押しするしかなかったし…」
「そりゃ不味いわな」
上層部相手にごり押しは不味い、あとがとてつもなく面倒になる。そういう軍の体質はカールだって承知している。
「でしょ。だからこその根回しよ」
「まあ、だろうな。けど例の件考えたら最後の手段としてそれも考えてはいたんだろ」
「まあね。ただ他のメンバーはともかく、例の件に関しては取り敢えず、あなたと私が艦に残れれば何とかなる話なわけだし…」
「二人ぐらいなら、どうとでもなったってことか?」
「どっちみちシステムの責任者は私よ。補佐の一人ぐらい選べるでしょ?」
「そういうことかよ、成程な。で、根回ししたっつうのは本部から来た幹部にか?」
「どうしてそう思うわけ? ここの基地司令とかとは思わないの?」
「ああ!? ありゃどう見ても無理だろう。そんな柔軟な頭、持っちゃいないだろ?」
カールが基地司令と会ったのは、ここについたあの初日だけである。それでここまで見切ったとは流石だわと思う。
「良く判ったわね。まあその通りだけど…」
「で、その幹部ってのは例の関係者か?」
「違うわ。知り合いではあるけど、父さんの息はかかってないと思うわ。息をかけたとしたら、おそらくもっと上の人間よ」
「ふ~ん。しかし、お前の親父さん、どこまで想定してたんだろうな」
「さあね。それはあたしにも想像つかないわ。相当前から準備してたみたいだし…。頭の出来が全然違うもの。自分の死だって計算ずくだったかも知れないわ」
「まさか…、いくら何でも…」
「ううん、あの父さんの事だもの、それも充分あり得るのよ」
ホントに狸親父だったんだから…と思う。軍の人間の中であの父の本質をわかっていたのはホンの一握りに過ぎないのではないだろうか。おそらく大部分のものは父の地位が、その技術屋としての才でのみ認められたものと思っているのに違いない。実態はかなり違うのだが…。二人顔を見合わせて溜息をついた。そして、それぞれこの話はここまでにしようと思う。突き詰めたらなんだか怖いことになりそうだ。
「で、それはともかく、この分だと激戦地の可能性もあるけど、それでもいいの?」
「今更、何言ってる。片棒担がせたのはそっちだろうが」
「まさか、怒ってるとか?」
「んなわけあるか。どっちみち軍に入る時に腹はくくってる」
実際のとこ、お互い言わずとも判ってはいるのだ。ブランクがあったとは言え、そんな浅い付き合いではない。口に出すのは敢えて確認しようという意図からであろう。
「んっ、でも軍とは別に妙な事に巻き込んじゃった気がするから…」
「巻き込まれたのはお前も同じだろうが。それに元々俺たちそういう風に生まれついたみたいだしな」
「現実主義のあなたらしくないわね。あの伝説を信じるっていうの?」
「どうだかな。けどこうしてお前と出会っちまった訳だし…」
確かにそれはその通りである。まるで謀ったかの様に二人は出会い。舞台もまさに伝説の通りに用意されているのだ。自身がザルドゥかどうかについては疑っているエリナも、もう一つのこの伝説の方は信じるしかないかもと思い始めている。広大なこの宇宙で、よりにもよってこの二人が出会うなんていう偶然は、もはや必然なのではないかとさえ思える。だからこそカールもこれこそが現実なのかも知れないと思うのだ。
「因果…かしらね」
「まあな。それにどっちにしてもなるようにしかならねえよ」
「そうね。もうやるっきゃないんだし…。真実はきっと時が見いだしてくれるわ」
遥かな未来へ思いを馳せる。多分二人の付き合いはこの先長いものになる。そう間違いなく…。
だいぶお待たせしてしまいました。これで第六章が終わったので、また人物紹介を追加する予定です。
また次に進む前に一度読み直してチェックする予定でもいます。第七章が更に遅れるかも知れません。気長にお待ちいただければと思います。
入力 2012年9月4日




