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第六章 (5)

 このところ更新が遅れ気味です。いつもお待たせしてます。第二十八話をお届けします。


 この回で第六章を終わらせる積もりでしたが、長くなりそうなので、一旦切って投稿します。


自 2011年8月5日

至 2011年8月8日


 会議室を出て宿舎へと向かう。

「先ずは艦橋メンバーに説明ですね。でも今更ですけどマルコフ少佐、本当に艦を降りられてしまうんですか?」

「引き留める気ですか? エリナ中将殿」

 艦長を降りたことで、マルコフの言葉は上司へのそれへと変わっている。一方エリナの方も、目上の相手に対する口調である。マルコフが艦長を降りたとしても目上の先輩であることに違いはないのだ。

「いえ、少佐のお気持ちが固いことはわかっていますので…ですがもう少し指導してもらいたかったなと…」

「いやいや私など…。私よりよほどわかっておいでではありませんか」

 実際エリナの年齢と軍に入ってからの年数を考えれば、その力量の凄さがわかるというものである。

「経験は少佐の方がおありです。私の言など半分は勘のようなものですし…」

「経験があっても正しい判断ができるとは限りませんよ」

 いたづらっぼくマルコフ少佐は片目をつぶってみせる。それは確かにその通りである。軍にいて、その階級が高いからと言って、軍人としての資質が優れているとは限らないのだ。なまじ出来の悪い上司なんぞに当るとえらい苦労をする羽目になる。その点エリナの素質は申し分なく、上司としても部下としてもまた同僚としても、扱いやすい相手であった。

「それに私がいない方が皆自由に振舞えるのではありませんかな」

 流石によく見ていると思う。今の運用メンバーは圧倒的に自由人が多いのだ。元民間人というだけではくくることができない程に…――ダイナースのメンバーなどまさにそうだろう――

「その方が皆、能力を発揮できるとそうお思いなんですね」

「私はそう思っていますが…、違いますかな」

「いえ、おっしゃる通りです。流石ですわ。ここの基地司令にはわかってもらえないでしょうが…」

「マーガス大佐殿はまさに軍人ですからな。規則通りにしか行動できない…」

 階級上はマーガスの方がマルコフより上であるが、激戦地へ出た場合、生き残れるのはマルコフの方であろう。無論、規則は守られる為に存在する。だが生死を賭ける場面ではそんなものは役に立たない。その場の状況に応じた柔軟な対応が求められるのだ。離れた場にいる上司の判断を待っていたら全滅してしまうことだってありうる。生き延びるためには規則を破らざるを得ないこともあるのだ。当然その状況や場合によっては軍法会議にかけられる場合もあるが、生死をわける場面であれば、大抵の場合、処罰の対象とはならない。ある意味、激戦地から生きて帰ったということはそれだけで賞賛に値するのだ。


 宿舎に戻り、会議の結果を艦橋メンバーに報告する。このまま艦橋を預かれることがわかって、皆一様にホッとした表情を浮かべる。だがマルコフが艦を降りることを告げると、再び落胆の色が濃くなる。

「ということだからゲイル中尉、後はよろしく頼む」

「そんな…、俺にはまだ無理です。どうか考え直して下さい」

 確かに戦闘時には指揮を執ったが、それも後ろにマルコフがいたからこそ、安心してできたのだ。自分一人で指揮を執る自信などない。

「一人で全部こなせなどとは言わんよ。参謀にはエリナ中将殿もおられるし、皆で足りないところを補い合って行けば良い。長引く戦争の中、人材も物資も充分とは言えないのだ」

 物資はともかく、人材の不足はいかんともしがたい。軍への志願者は年々減る傾向にある。それでも実被害のある前線近くではまだそれほどではないが、中央政府のあるような前線から遥かに遠い地域などでは、目に見えて減っているのだ。やむなく軍のスカウトマンが有望そうな若手を手練手管で軍に入れようと躍起になっているという話である。

「それは…そうかも知れませんが、未熟なものが戦場に出れば、命を落とす可能性も高くなるのでは?」

「では、君は自分がそんな未熟者だと思っているのかね?」

 あくまでも食い下がろうとするミックにマルコフはそう返す。

「私は君には充分それだけの力量があると思えばこそ、一人立ちして欲しいと思っているのだが…」

「う…」

 買いかぶらないで下さいと言おうとして、でも…と言葉に詰まる。ここまでの信頼にはやはり応えたいではないか。自信などない。ないが、ではどこまでサポートしてもらえば自信がつくのかと問われれば、答えようがない。自信などいつまでたってもつかないかも知れないのだ。たゆたう視線がエリナを捕らえる。エリナはニコッと笑ってうなづき口を開いた。

「私だって自分に絶対の自信なんかないわ。でも現場に出たらそんな事言ってられない。できるかどうかではないわ。やるかやらないかなのよ。そしてやらなきゃ死ぬだけ…、要はやるっきゃないのよ」

 自分に絶対の自信なんかない。エリナだけではなく誰でも皆そうだろう。むしろ自信のある奴の方が危ない。それは自分の力を過大評価しがちになるからである。それは時に無謀な行動に結びつく。時にはわかっていて無茶をしなければならない場合もあるが、それは向こう見ずに飛び出すのとは本質的に異なるのである。エリナの言を聞いてミックも心を決めた。いや、それはここにいた艦橋メンバー全員に言えることでもあるが…。

「わかりました。やって見ます。というよりやるっきゃないんですよね、結局」

「そういうことだ」

 マルコフだって絶対の自信があってやって来たわけではない。それでもいつだって誰かがやらなければならないのである。


 各部署のメンバーの反応はおおむねやったーっというものだった。マルコフが艦長を辞めるという話も、案外すんなりと受け入れられた。そもそも各部署のメンバーはマルコフと直接つながっていたわけではないから、その不在に不安を感じる要素は少ない。自分の直属の上司が正しい判断をしてくれれば、トップがどう変わろうが問題はないのだ。だがその上司に正しい判断をさせるのに艦長が大きな役割を担っていることを知る何人かは若干の危惧を抱いた。その一人、リチャードはそっとエリナを呼び出す。

「マルコフ少佐が艦を降りるって聞いたが大丈夫なのか?」

「一応引き留めてはみたんだけどね。自分がいない方がみんな自由に振舞えるからって…」

「気ぃまわしすぎだぜ、少佐ってば。まっ確かにその通りだけどな」

「やっぱ気づいてた? 要はそういうことなのよ。で、さっきの質問だけど、後はもうやるっきゃないってこと」

「荒療治ってわけか。まあ確かに人材は不足気味だしな」

「そっ、後はリチャード、あなたと私がいるからって」

「つまり俺には意地でも残れってことだな」

「降りたかったら降りてもいいのよ?」

 社交辞令ではなく、本心からエリナはそう告げる。確かに今、リチャードに抜けられるのは痛い。だがもともとリチャードは後方支援の技術部の防衛が任務だったのだ。積極的に前線に出る幕僚本部の所属ではない。どれ程その技術力がすぐれていても、主たる戦闘員として登録することにはためらいがある。

「馬鹿言うなよ。乗りかかった船だ。最後まで付き合うさ」

「いいの? 本当に?」

 エリナに心配される程、リチャードにこだわりはない。それにここを降りて変な上司のもとにつくぐらいなら、ここでバーディの下にいた方が気が楽である。形式上はバーディの下だが艦橋の下と考えれば、広い意味でエリナの配下になる訳だし、それは単純に嬉しい。この三年、ワズでエリナの下にいてそこがどんなに居心地がいいか実感したし、今回の戦闘でエリナの能力も再確認した。ミックの艦長としての能力はまだ未知数だが、エリナが参謀を務めるのなら、それなりに安定感があるというものだ。

「構わないぜ。それに俺の力が必要なんだろ?」

「まあね。じゃ、イーグルチームは頼むわ」

「任せとけ。お前の弟は俺が一人前にしてやる」

「ありがと…。感謝するわ」

 ――本当は戦士にしたいわけじゃないけどね――エリナは心の中で独言つ。それでも戦場に出る以上、一人前の戦士にならなければ生き残ることはできない。ならこの流れは仕方のないことなのだ。


 一方でマリーはアレックとケンに呼び出されていた。

「マルコフ少佐が艦を降りるということは、ミックが艦長になるってことだろ?」

 アレックが口を開く。

「そうだけど。何? 不安だとか言うわけ?」

 既に配下として接して来たので言葉使いも遠慮のないものになっている。元々年も近いのだ。砲術班はこの二人とモリを除けば、それなりの経験のある軍人であり、――あっロッドは違うが――当然年も少し離れているのだ。

「不安っていうか…そりゃミックは元から艦長候補だった訳だし…」

「それなりに力があるのは認めるけどさ」

 マリーの問い返しにケンが答え、アレックがそれに補足する。言葉は濁したものの言いたいことはマリーにも伝わる。本人でさえ不安がっていたのだ。周りが気にするのは当然だろう。

「まあね、本人も自信なさげだったし…。でもエリナが言ったわ。こうなったらやるかやらないかだって」

 やるかやらないか…こう言われれば、軍人としてワズに来た二人には、その意味するところがわかる。

「つまりやるしかないってことかよ」

 ケンが天を仰いでポツリとつぶやく。アレックは何も言わない。だが死にたくなければやるしかないとちゃんと判っていた。

「そういうことらしいわ」

 マリー自身はエリナの言葉を完全に理解したわけではない。そもそも戦場に出るのはこれが初めてなのだ。しかもエリナ達の目から見れば厳しい現場だったかも知れないが、表面的には難なく乗り越えて来てしまったのだ。正直まだ実感はあまりない。その分どこか人事ひとごとのような返事になってしまう。それでもマリーもそれなりにちゃんと腹はくくったのだ。



 次回で第六章が終わります。ファルコンのメンバーも確定して話はまさに銀河戦争に突入します。


 連日暑い日々が続いていますね。学生さんはそろそろ夏休みの終わりが近づいて、大変な時期でしょうか? 体調を崩さないように気をつけてくださいね。


入力 2012年8月27日


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