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第六章 (4)

 だいぶ遅くなってしまいました。お待たせしてすみません。第六章の続きです。ここでようやくみんなの処遇が決まります。


自 2011年7月16日

至 2011年7月19日


「会議はどこまで進んだのかしら」

「さあな、どっちにしても一番苦労してるのはエリナだろうがな」

 サラのつぶやきにエドナーが答え返す。いつだって皆の為に損な役回りを引き受けてしまうエリナのことは、良く承知している。何より今回、民間人たちを軍人として登録したのはエリナである。彼らがその任にふさわしくないと判断されれば、エリナの立場は苦しいものになる。

「俺達も任を解かれたままになるのかな?」

「可能性はゼロではないな」

 ショウの問いにはミックが答える。一応、新造艦のプロジェクトメンバーではあるが、本来なら充分な取り扱い訓練を受けてから任される事になっていた訳で、そこのところに突っ込まれれば反論の余地はない。

「エリナは四分六って言ってたわよね」

「ああ、他の部署の連中には五分と言ったが、実際は恐らく良くても四分六だろうって」

 マリーの問いに答えたのはカールだ。エリナとともに情報の分析をやっていたから、この辺のことには詳しい。

「良くてってことは、もっと悪い場合もあるってこと?」

「最悪だと三・七だってさ」

「うわー、それはキツイわ。何? それをひっくり返そうとしてるの? あの娘は…」

 マリーとカールの会話にサラが割り込む。本当にいっつもいっつも無茶をするんだから…。そう思う。

「そんなんで勝算あるのか? まあ俺はどっちでも構わないけどよ」

 軍を解任されれば、また元の様に定期船のパイロットにでもなればいい。退屈はするだろうが、命を預かる重さは軽減される。旅客ではなく貨物を選べば特に…。ベンはそう思っている。

「いや、でもファルコンでの任が解かれたって、軍からは抜けられないんじゃないか?」

 リオが考え考え口に出す。

「どういうことだよ」

「だって俺たちどっぷり軍事機密に浸かっちゃってるんだぜ」

 問い返したエルにそう答え返す。軽い様に見えて結構思慮深いだけに現状を的確に分析して見せる。この指摘は正しい。現に彼らはもとより、大して新造艦の中身なんぞ知っちゃいない筈の民間人達ですら、基地内に留め置かれて外出もままならないし、外部とのコンタクトも禁じられている有様なのだ。ファルコンでの任を解かれたままだとしても、軍を抜けることはできないだろう。彼らはファルコンの内部事情を知りすぎている。軍を退役させれば、その情報は外部に流出する可能性が高くなるのだ。艦橋を預かるだけあって、皆それぞれ状況の分析は鋭い。その能力はこれまでの戦闘をへてさらに磨かれてきている。

「まあ、勝算に関しては切り札があるからって、エリナは言ってたぜ」

「切り札? 何だそりゃ?」

「一つはこの船の学習システムだと」

「ああ、成程ね。それはわかるわ」

 学習システムを作ったのは父だが、それをシステムに組み込んだのはサラである。当然その内容については詳しい。個人に特化する今回の学習システムでは、使い手が替わると使いにくくなってしまう。

「一つはってことはまだ切り札があるってことか?」

 ミックはカールに更に問う。学習システムについては艦橋メンバーは簡単にではあるが、説明を受けているからそれが切り札と言われれば納得もするが、それ以外の要素については想像もつかない。

「みたいだな。まっ詳しくは話ちゃあくれなかったが…」

 学習システムについては明言したが、そのあとはまっそれだけじゃあないしねとしかエリナは言わなかったのだ。そのまま皆遠い目をして宙を仰ぐ。会議中のエリナを思って…。


 地区本部での会議は既に三日目に入っていた。初日に軍本部での会議におけるやり取りが伝えられ、――これを聞く限り、本部でも相当もめたあげく二つの案を出して来た様だった――二日目はマルコフが艦長として、ワズから地区本部に到るまでの状況を――二度の戦闘も含めて――説明した。今日は開発責任者でもあるエリナが現状について報告し、今後についての意見を述べることになっていた。

「えーと、では開発責任者として、先ずは軍本部の意向をあらためて確認させていただきます」

 エリナはそう言って手元の資料に目を落とす。

「軍本部としては、このまま取り扱いに慣れた現行のメンバーに、不足している補充要員を加えるという案と、より高度な専門レベルの要員に、全てを入れ替えるという案の二つのうち、どちらかを選択するということでよろしいでしょうか?」

「そういうことだ。だが本部としては後者の方がより有効ではないかという意見の方が大勢を占めているとのことだ」

 エリナが確認するのに対し、地区本部司令がそう釘をさす。要はそっちの方で決めろと、暗に指示しているのである。だが、エリナの方は大人しくその意向に従うつもりなどさらさらなかった。

 軍事機密に関わってしまった以上、ファルコンでの任を解かれたからといって、現行のメンバーが軍を退役できるわけがない。そもそもあまり軍向きじゃない人間の方が多いのだ。別々の場所にバラバラに配属されれば苦労するだろうことは目に見えている。ワズを無事に脱出する為に止むを得なかったとは言え、彼らを無理矢理軍に引きずり込んだのは、他ならぬエリナである。その責任は何としてもとらねばならない。現行のままファルコンを預かることができれば、基地など上層部との折り合いはともかく、内部はかなり自由な形でやれるだろう。軍規にうるさい連中に対応する時だけ、きちんとしていれば何の問題もない。

「確かにまっさらの状態でしたら、専門レベルの要員というのはベストの選択と思います。ですがあくまでもそれはシステムがまっさらの状態であればということです」

 エリナはそう言って会議室に集まった面々をゆっくりと見回した。その態度は威厳にあふれ、二十一歳という若年をまったく感じさせない。無論、中将という立場もその態度に威厳を添える一つの要因ではある。

 現在会議室にいるのは、エリナとマルコフの他、基地司令のマーガスと副司令、それに本部からこの為に派遣されて来た総合幕僚本部の中堅幹部の二人の少将である。ファルコンの今後についての決定権はこの中堅幹部の二人が握っており、要はこの二人を説得しない限り、現行のメンバーを残すことはできない。その二人はエリナの発言を聞いて、互いに顔を見合わせる。軽くうなずいてチェストナット少将の方が口を開いた。

「エリナ中将殿、そのシステムがまっさらの状態であればというのはどういうことでしょうか。我々にわかる様にご説明願いたいのですが…」

 今回の任命権が自分達にあるとは言え、階級的にはエリナの方が上である。若年ながらその実力は軍本部にも知れ渡っており、敬語を使うのは当然のことであった。

「はい、今回我々が開発した新造艦の一番の特徴は、システムに組み込まれた学習システムにあります。もちろんそれ以外のハード、ソフト面での新機能の追加もありますが、何といっても今回のメインはこの学習システムなのです」

「しかし、学習システム自体は以前からありましたよね」

 オーガスタ少将が口を挟む。

「ええ確かに、ですがそれは使い手に使い方を教えるという類のものでした。ですが今回の学習システムでは学ぶのは使い手ではなく、システムの方なのです」

「システムの方?」

 異口同音にエリナ以外の全員から問いが返る。

「そうです。使い手の特徴に合わせてシステム自体が変化するのです」

「えーと、具体的にはどういうことなのでしょうか?」

 問い返したのは基地司令のマーガスだったが、この問いは全員の頭に浮かんだものでもある。エリナの説明では抽象的すぎてよくわからない。

「つまりですね。例えば動体視力とか反応速度とかには個人差がありますよね。そこをシステムが個別に覚えて、それに合わせて動作をするわけです。つまり、使えば使う程、それを扱う個人に合ったシステムになって行くということです」

「つまりファルコンは既に今まで使用して来たメンバーに特化していると、中将殿はおっしゃりたいわけですね」

 オーガスタ少将がエリナの意向を確認する。

「その通りです。もちろん使用者に応じてシステムを変化させる学習システムですから、途中で担当者が変わったとしても、また学習し直すことはできますが、その場合、既に覚えたことを忘れながら次のことを覚える様になりますから、初期レベルから始めるのに比べて倍以上の時間がかかってしまいます。メンバーの変更が一人、二人ならともかく、全員を替えるということですとロスが大きすぎます。かといってすべての学習システムのレベルを初期化してしまえば、現在の水準まで引き上げるのにここまでかかったのと同じ程度の時間が必要になります」

「成程、効率の面でかなり落ちるというわけですか」

 チェストナット少将は腕を組んで考え込んだ。要員を入れ替えた場合、それなりの訓練期間が必要ということになりそうだ。今回のメンバーはやむを得ず実戦で訓練をしてしまった事になる。

「ですので、軍本部として現行のメンバーでどうしても駄目ということであれば致し方ありませんが、私個人としましては、現行のメンバーに不足している要員を補充して頂くだけで充分であると思っています」

「それは開発責任者としての意見でしょうか?」

「いえ、むしろ戦場を見てきた軍人としての立場からです。彼らにはそれだけの能力があると確信しています」

 きっぱりと言い切る。この強気の発言はいくつもの戦場で実際に生き抜いて来た経験に裏打ちされている。チェストナット少将もオーガスタ少将もそのことは充分に良く認識していた。エリナの現在の地位は、技術将校としての技術力だけで勝ち得たものではない。実戦の場で示した才の高さも加味した上で手に入れたものなのだ。しかもその実戦の場の中には、まさに激戦地としか言いようのない戦場も含まれていたのである。であればこそ、エリナのこうした発言はあながち無視できるものではない。若年だからと言って侮れる相手ではないのだ。

「現行のメンバーの能力はそんなに高いのですか?」

 副司令がやや遠慮がちに問い返す。エリナの手腕は噂でしか聞いたことはない。本部から派遣された少将が二人ともその力量を認めている以上、その発言を疑う理由はないのだが、それでも今一つ信じ切れないのである。

「確かに専門の訓練を受けた兵士と比べれば、当然彼らの方が能力は落ちるでしょう。ですが、何の軍事訓練も受けていない彼らが、ここまでの戦闘を無傷で乗り切って来たことは紛れもない事実です。それは充分、賞賛に値することではありませんか?」

 ファルコンはワズを脱出した後、二度の戦闘を経験している。どちらも敵の戦力は侮れないものであったが、何とか切り抜けてここまで来たのだ。その事実は誰も否定することが出来ない。エリナが参考資料にと提出したワズを出てから地区本部へ到るまでの状況報告書を見ればそれははっきりとわかる。

「確かにエリナ中将殿が提出されたこれらの報告書を見る限り、メンバーに選ばれた民間人や技術将校の能力は、一般軍人と比べても遜色ないように見受けられます」

 チェストナット少将はそう言ってオーガスタ少将の方を見やる。オーガスタ少将がうなずくのを見て、エリナの方へ向き直った。

「わかりました。現行メンバーでの運用を認めましょう。不足している要員の補充に関しては、別途報告書をあげて下さい。それに基づいて人員を手配します。それと、その学習システムというのは他の艦にも搭載できうるものなのですか?」

「はい、それは可能です。ただまだこの新造艦で実地テスト中という状態ではありますが、搭載する艦に合わせて手直ししていくシステムでもありますので、各艦の技術部門で運用しながら修正していけばよいと思います」

「それは開発部門の人手はもう必要ないということですか?」

「そうです。仕様書とプログラムリスト、及び実行ルーチンをお渡ししますので、コピーを取って各部署にまわして頂ければOKです」

「わかりました。ではそれも合わせてよろしくお願いします」

 これで現行メンバーによるファルコンの運用が、軍本部によって正式に認められた理由わけだ。エリナもほっと息をついた。しかし、ここで一つ大きな問題が発生した。マルコフ少佐が艦長を降りるといい出したのだ。自分が入るとチームワークを乱すと言うのだ。確かに若手の集団に一人だけ年齢差も大きいベテランが入るとやりにくいところはあるかも知れない。だが経験の浅い若手だけでは今後が心配である。歴戦のベテランなら冷静に判断するところをパニクってしまう可能性もある。けれどそれを指摘したエリナに対して、マルコフは艦橋には君がいるし、イーグルチームにはヤング中尉がついていると言ってのけたのだ。確かにエリナもリチャードもマルコフ程ではないが、実戦経験は豊富である。間違いなくいざという時には頼りになるだろう。結局、押し問答の末にこの提案もまた受け入れられたのであった。



 お盆休みでバタバタしていて更新が遅れてしまいました。待ってくださっていた方には――果たしていらっしゃるのかわかりませんが――申し訳ないです。楽しんでくださいね。


入力 2012年8月21日


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