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第六章 (3)

 第二十六話です。会議が進む中、ファルコンのメンバー達はやきもきしながら、その行方を追っています。


自 2011年7月19日

至 2012年3月29日


 後半部分の二ヶ所が3月29日に追加したところです。

 会議が始まってからは連日エリナとマルコフはそちらに詰めており、残ったメンバー達はそれぞれの部署ごとに会議の行方を気にしつつ、日々を過ごしていた。

「この先、俺たちどうなっちまうのかなぁ」

 つぶやいたのはサダだ。しゃべる時はしゃべるが、普段はあまり口の軽い方ではない。その彼がこんな発言をするくらいだから、如何に皆が自分達のこれからを気にしているかがわかる。

「姉貴の話だと、五分五分ってとこらしいけどな」

「残れる場合はいいとしてさ。残れなかったらどうなるわけだ?」

「いや、元の世界に戻るだけだろ?」

 トニーの問いにアーサーが答え返す。だが、何もなかった顔で今までの生活に戻れるのだろうか。元々軍にいた戦闘機乗りたちはまだいい。配属される部署が代わっても、戦闘機乗りであることに変わりはない。でも自分達は? 一度戦闘機のスピード感を味わってしまった以上、もう普通の小型艇では満足できないだろう。ダイナースのメンバーは皆私大の学生である。このまま学校へ戻ったとしても、学業を続けていけるのだろうか。結局は中退して軍に入ってしまいそうな気がする。

 そんな中フロルは一人皆から外れてぼんやりと窓から外を眺めていた。もう一度生き直すと決めた以上、ワズにいた頃には戻れない。と言ってそれ以前にいた世界に戻るのにはためらいがあった。

「お前さんにとっちゃ難儀な状況だよな、フロル」

 不意に脇から声を掛けられてフロルは驚いた。振り向けばリチャードがそこにいる。

「ヤング中尉! 一体何を…」

「リチャードでいいよ。エリナから多少のことは聞いている。詳しくは知らんがな」

 話しぶりからすると、宇宙〈そら〉へ出なくなったあの一件について聞いているのだろう。恐らくチームの中で誰か一人はそのことを知っていて、フォローできる様にとエリナが配慮したのに違いない。本来なら隊長であるバーディに伝えておくべきなのだろうが、彼には無理だと判断し、リチャードを選んだのだろう。事情を判った上で、ちゃんと距離を保つためには、似た様な経験のあるリチャードの方が適任である。

「エリナさんから? そうですか…。彼女はいつもそうなんですよね」

 かなり抽象的な言い方だが、フロルの言わんとすることはリチャードにはわかった。

「ああ…いつもよく目が行き届くよな」

 いつだって周囲に気配りをし、先手を打ってくる。それも自然体で…。

「そのくせ、いつも自分の事は後回しですよね」

「あきれる程にな。今も必死こいているんだろうよ」

 軍の上層部相手に皆の為に踏ん張っているだろうエリナを想い、二人溜息をもらす。あれだけ先が読めるのに損な役回りばかり引き受けて――いや、読めるからこそかも知れないが――、だからエリナを知れば知る程、周囲〈まわり〉は放っとけなくて、側を離れられなくなってしまうのだ。


 「システム自体は完成しちまったし…そういう意味じゃあ、俺たちもう用済みなんだよなぁ」

 マックがつぶやく。元研究所員としては、それは正直な感想なのだろう。本来なら完成したシステムを組み込んだ時点で、お役御免になるはずなのだ。

「でも、メンテナンスの必要があるじゃありませんか。それとも僕やエリナ姉さんの下で働くのは嫌だとでも…」

 エリナ姉さんの下はともかく、自分の下だというのはそりゃ嫌だろうなと思う。デビーにしたって自分に本当にそれだけの力量があるなんて思えないのだ。

「別にお前の下が嫌だなんて誰も思っちゃいねぇよ。エリナの判断を信じろ。お前はもーちっと自分に自信を持った方がいいぞ」

 切り返したのはロフスだ。当初、頼りなさそうに見えたデビーが、不慣れながらもたどたどしくサブブリッジの指揮を執るのをずっとサポートして来たから、その潜在的な指導能力に気づいている。――コイツに足りねえのは自信なんだよな――と内心秘かに思っている。

「俺はできれば現行の体制で行きたいっすよ。ちょっと前までは自分が軍人になっちまうなんて夢にも思っちゃいませんでしたけどね。今の立ち位置は結構気に入ってるんすよ」

 カムリはエリナの後輩にあたる。大学に入ってから趣味の外部サークルで知り合ったのだが、その博識に惚れ込んでずっと後を追い掛けていたのだ。今回ワズに居たのは本当に偶然だったのだが、ゆくりなくもエリナの配下に入ることになり、感激したのである。この立ち位置は誰にも譲れない。

「皆そう思ってるよ。エリナの下で働くのは楽しいからな」

 楽ではない。彼女は結構人使いが荒い。出来ない事を要求することはないが、各自の能力の最大限を要求してくる。だからいつだって仕事は大変だ。でもやりがいはあるし、能力は正当に評価してくれるし、体調にだって気を配ってくれる。というか、その点に関してはみんなの体調より自分の体調の方を心配して欲しいものだが…。いつだって自分が一番無理をしているのだから…。そんな上司の下で働くのが楽しくないわけがない。

「確かにな。けどきっとエリナが何とかしてくれるよ」

 マックがそう希望的観測を述べて、この場はお開きとなった。不安は決してぬぐえないが、今はただ待つしかできないのだ。


「どうせならこのまま残りたいよな」

 ポツリとライアンがつぶやく。ライアン・ブルース、現在はレーダー部門でカールの副官を務める男だ。

「そうね。ワズに配属された時は余りの辺境におののいたけど、今となって見ると幸運だったのかも…」

 まあ、このまま残れるとしたら…であるがとメイリン・フォンは思う。彼女は現在リオの副官を務めている。この二人を見る通り、ここにはファルコンのレーダー及び通信部門のメンバーが集まっている。元々研究所で同じ仕事をしていたので、ファルコン内で部門が分かれたとは言え、皆それなりに仲は良い。人数の関係もあり、宿舎も現在は一緒だから何かあればこうして集まってしまう。

 実際、自分達はとてつもなく幸運だったのだと思う。もちろんどんな場合でも自分達で任地を選べる訳ではない。だからこそワズに配属された時はほぼ全員がお先真っ暗だったのだ。余りにも辺境すぎたからだ。そもそも研究所の防衛というのは基地の勤務に比べて単調だし、上に立つ技術将校の質に寄って働きやすさも大きく異なってくる。技術将校の大半は確かに軍人ではあるが、研究所にいる様な輩はおおむね現場を知らない。セオリー通り、マニュアル通りの対応しか出来ない。まあ実際には研究所が単独で攻撃を受けることはそうはないから、事なきを得てはいるが、単独攻撃を受けたり、任地の基地の能力が当てに出来なかったりする場合、それでは心許ない。

 今回彼らが任ぜられたのはかなりの辺境だったのに、選ばれたのは精鋭とも言える様なメンバーばかりだった。余程、重要な研究所だと思われたのに場所が場所であり、何かあった場合どう考えても基地の兵力は当てにならない。こんなところで教本通りの対応しか出来ない上司では命がいくつあっても足りない。ところがいざ引き合わされた上司はランドルフ中将といい、エリナ中将といい、どちらも実務面で何の問題もない極上の上司だったのだ。だからこそ彼らは皆無傷でファルコンに退避できたのでもある。そうしてファルコンに乗り組んで、改めて上司になったカールもリオもまだ経験は浅いものの、それなりに信頼できる上司であったし、何よりその上にはエリナがいる。この安心感は大きかった。だからこそこのままここに残りたいと誰もが思っている。

「研究所の防衛に比べりゃ、過酷だろうけどな」

「紛れもなく、これからは戦場ですからね」

 どこか楽しそうに言うライアンに、苦笑しながらメイリンはそう返す。そんな二人のやりとりを他のメンバー達はただ黙って見つめている。口には出さなかったが皆同じ思いだった。



 ちょっとお待たせしたかも知れません。読む方に熱中してました。


 とは言え、ストックが少なくなってきました。続きも頑張って書いてはいるのですが、話が思わぬ方向に転がって、作者が振り回されています。あら大変!


 というわけでもう少ししたら、更新が間に合わなくなるかも知れないです。


入力 2012年8月13日


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