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第五章 (4)

 ここで第五章が終わる予定だったのですが、6ページになってしまったので、あと一話増えました。


 解説の方も一話増えましたのでよろしくです。


自 2011年6月27日

至 2011年7月22日

修正 2013年4月27日


「基地からの定時連絡です。敵艦隊は現在Tー3ポイント附近を航行中とのことです」

 リオが通信制御室からの情報を伝える。

「ううむ…」

 この報告を聞いてマルコフ艦長は一声うなって腕を組んだ。Tー3ポイントと言えば、これから向かう補給基地のすぐ近くである。このまま進めば敵に発見される公算は高い。安全面を考えるのならば迂回策を取るべきではあるが…。選択肢としては進むか迂回するかの二つしかないのだが、どちらにもデメリットはあり、かつ判断に要する要因は複雑でありながら、時間的に余裕はない。ちらりっとエリナに視線を走らせる。技術部を預かっているということはとりもなおさず、この艦の参謀を引き受けたということでもある。しかもそれなりの実戦経験と洞察力を備えている。その力量はワズでの戦闘時の言動を見れば一目瞭然であろう。その視線を受けてエリナがうなずく。既にその手元のパネルには航路図や何かのデータ値が表示されている。それを確認しながら口を開く。

「迂回はお薦め出来ません。現在の資材の状況を考えると途中で物資が不足する事は確実です。かろうじて燃料だけは持ちそうですが、敵がどの方向に動いているか見えていない現状では、動力に余裕のない状態の時に敵と遭遇する可能性もあります。それはあまりにも危険すぎます」

 動力に余裕のない状態では戦闘能力は著しく低下する。かといって戦闘を避けようとしても、燃料がぎりぎりでは逃げ出すことも適わなくなる。それはすなわち死を意味するのだ。

「うむ、わかった。ではこのままのコースを進もう。キム技士長、敵の動向から目を離さない様に」

「了解〈ラジャー〉」

「ドアン通信士、偵察衛星からの情報を逐次チェック、レーダー部門としっかり連携を取るように」

「了解〈ラジャー〉」

「テラ戦闘班長、当面、戦闘班の方も当直を義務付けた方が良さそうだ。至急手配を…」

「了解〈ラジャー〉。マリー、君は砲術班の方を頼む。私は格納庫へ行ってイーグルチームの方を担当する」

 ランドルフ家の子供たちは、皆混乱を避けるために名前で呼ばれている。このことが、後にマルコフ艦長が船を降りた後、仲間達を役職ではなく名前で呼ぶ所以になるのだが、それはさておき、ショウが格納庫へ向かうのは、艦橋からバーディに指示を出すだけでは駄目だと判断したからだろう。ショウが出て行くのを横目で見送りながらエリナが艦長に作業について指示を求める。

「通信部門、レーダー部門ともにデータは技術部にも上げさせてください。敵の動きの分析を行います」

 マルコフはそれに大きく頷いた。この一連の様子をミックは黙ったままじっと見ている。先の戦闘時に一時指揮を任せられたミックだったが、現在はまたマルコフが全体の指揮を執っていた。実は戦闘時よりもこういう何もない時の方が、指揮を執るのは難しい。戦闘時は目先のことに集中していれば良いが、平常時はあらゆることに気を配らねばならないからである。というわけで、ミックは今、艦長がどういう指示をどういう時に出すのかを、しっかり把握しておこうとしているのだ。

 ミックはファルコンの艦長候補としてこのプロジェクトに参加している。いずれ今の艦長からその責任を委譲されることになるのはわかっていた。だからこういう時――即ち艦長が主導権を握っている時――は、その仕事振りをしっかり学んでおかねばならない。

 それにしてもエリナ中将の状況分析はやはり鋭いとミックは思う。自分と大して年齢は違わない筈なのだが、現艦長も参謀としての彼女の意見を疑いもせずに受け入れている。自身も歴戦のコマンダーにも拘わらず、彼女の判断を頼りにしているのだ。それだけ彼女の能力が高いということであろう。

「それと艦長、随時分析が必要という現況を鑑みますに、うちでも当直をしなければなりませんが、部署がサブブリッジとメインコンピュータールームの二ヶ所にまたがっている関係上、ローテーションを組むのに手間取りそうです。しばらく艦橋を離れますがよろしいでしょうか?」

 エリナが艦長に許可を求める。

「まあ仕方があるまい。だが何かあった時には遠慮なく呼び出すぞ」

「はい、申し訳ありません。ではサブブリッジの方におりますので」

 エリナはそう言って出て行った。技術部は確かに作業量に比して人数が少ない。ローテーションを組むのはかなり難しそうだとミックは思った。当然マルコフ艦長もそれには気づいているだろうが…。


 どこの部署も昼休みは二手に分かれて取っている。この船が戦艦である以上、部署を空にしてしまう訳にはいかないからである。食事の時間は原則決められているが、それとは別に当直の担当者だけは多少ずれた時間に食事をとることが認められているし、深夜の当直の担当者には軽い夜食が提供されることになっている。

 例えばメインブリッジの昼休みの場合はミック、エリナ、カール、エル、ショウの五人が第一陣、残るマルコフ、サラ、マリー、ベン、リオ、エドナーの六人が第二陣となっている。時間帯が同じだからといって、別に一緒に食べなければならない義務があるわけではないのだが、第一陣の五人も第二陣のマルコフを除く五人も、大抵の場合は同じテーブルで一緒に食事をとっていた。マルコフ艦長が常に一人で食事をとっているのは、他のメンバーとの立場の違いと年齢差を考えてのことだろう。自分が加われば会話が弾まないとわかっているのだ。

 食事時などにそれぞれの部署単位で行動するのは、互いの意志の疎通を円滑に行いたいという心理が働くのだろう。何といってもどこの部署もそれこそ寄せ集めのメンバーなのだ。しかも軍人も元民間人も入り混じっているチームワークの取りにくい構成なのである。

 とは言え、この何日間かでかなり互いに親しく…というか遠慮が無くなって来ているのは確かだった。先の戦闘時はまだみな無我夢中でまわりを見る余裕は無かったのであるが、今なら例え戦闘中であったとしても、仲間の様子を見る事ができるだろう。まあこの船がいくら戦艦だとは言っても、数多くの民間人を乗せている今、できれば戦闘はしたくないのではあるが…。

「ところで、船のシステム自体は完成したのかい?」

 Tー3ポイントに敵を発見した日のお昼時、ショウがエリナにたずねた。

「うん、まあ一応はね」

「一応って…」

 どういうことだよという表情でミックが問い返す。

「いや、使ってると不具合が生じることもあるわけだしね」

 そう、どんなシステムでも実際に運用してみると何かと問題点は出てくるものなのだ。条件を見落とすこともあれば、予想外の条件が発生することもある。開発する人間と使う人間とでは考え方も大きく異なる。思いがけない使い方をされることもある反面、使う側にとって当たり前のことがわかっていない場合もあるのである。

「つまり、あとは使いながら手直ししていくわけさ」

 技術畑のカールが口を挟む。この辺のところはやはりカールでしかわからないだろう。エルはパイロットであり、いわば運用側の人間である。ミックやショウは機械〈マシン〉も扱うが、制服組ということは、根っからの軍人ということである。開発側〈サイド〉の事情には詳しくないのだ。

「成程なぁ、そういうもんなのか」

「そういうもんよ。戦闘だってあらゆる場面を想定はできないでしょ」

 ショウの答えにエリナはそう返す。こう説明されるともっと良く判る。訓練でどれだけ戦闘シミュレーションをこなしていても、現場に出るとやはり違う。同じ状況でも実際の戦闘の流れはすべて異なる。指揮官や兵士の能力、機械〈マシン〉の性能、それらすべてが同じということはあり得ないからである。

「戦闘といやあ、敵の動きはどうなんだ?」

「偵察衛星のレーダー上はTー2方向に移動中らしいがな」

「それ以前のデータと合わせて分析すると、常に一方向に移動してるのじゃなく、あの辺り一帯をくまなくサーチしている様だから、次の動きはこっちでも読み切れないわ」

「つうことは、やっぱぶつかるしかないのかなあ」

「うーん、微妙なところよね。叩いておけば後が少し楽になるかもだけど…、そもそも叩けるかどうかがはっきりしないしね」

 敵は今回は大型艦一体と中型艦二体という構成で来ている。前回大型艦のみで追撃してやられてしまったことを踏まえてのことだろう。敵陣内に入り込む状況を考えて、これ以上の大編成は止めたのでもあろう。最前線のワズを急襲するのと異なり、敵陣内での大編成は機動性を欠く上、敵もまた対抗するため、大編成の艦隊を送り出す可能性が高い。それでは新造艦の破壊という目的は達成できなくなってしまう。

「この編成だと難しいか? やっぱり」

 ミックが真剣な表情で聞き返す。食堂でする茶飲み話としては少し鋭すぎる気もする。――何せここには軍事行動について、何も知らない民間人もいるのだ――が、既にエリナたちはそんなことは気にしていない。同じ船に乗っている以上、皆もう一蓮托生なのである。何も情報を与えないのは却ってパニックを招きかねない。運用メンバーを信用してもらうためにも、正しい情報と現状の認識は必要なのである。

「シールドはかなり強化してあるけど、集中砲火を浴びたらヤバイわ。まあ大人しく浴びるつもりもないけど。ベンやエルだってだいぶ操船には慣れてきたでしょ」

 エルに水を向ける。

「まあ、普通の大型船に比べて、戦艦の機動性の高さはわかって来たけどな。でもまだ自在に動かせるって訳じゃあないぜ」

「うん、それはわかってる。でもこの短期間でここまで扱える様になったのは凄いと思うわ」

 エリナはほめる時は手放しでほめる。気負いもてらいもなく真直ぐに…。こういうところが友人を増やしていく一つの原動力になっているのだろう。社交術には長けているが、これは計算してやっているわけではあるまい。心底そう思っていればこそ出てくる言葉だ。その代わり、非難や批判も手厳しい。本人自身、言ってしまってからしまったと思うことも多いらしい。ある意味、味方も多いが、敵も多い奴なのである。

「しかし、エリナ、お前良く周りを見てるな。そんなんで疲れないか?」

 ミックは感心している。チームを組んでみて判った事だが、エリナは本当にチームのメンバーを良く見ているのだ。いや、より正確に言えば、チームのメンバーだけではなく全体の状況を…である。まあだからこそ指揮能力があると認められているわけではあるが…。ちなみに始めのうち中将の階級付きで呼ばれていたエリナだったが、今の立場はミックの下だからとのエリナの主張のもと、現在はその呼称は使われていない。実際マルコフ艦長を除けば、運用メンバーは皆年も近いし、元々民間人も多く、堅苦しい呼称なんか却って面倒くさかったりする。しかも、民間人で運用メンバーに入ったのは大半がエリナの友人か知り合いであり、元からエリナのことは呼び捨てである。ついでに言うならば、ヤング中尉を始めとする研究所の軍人たちも、元からエリナを呼び捨てにしていたわけで、そういう意味ではあとから来たミックたちの方が、ここでは異端だったりするのだ。しかもその後口のメンバーである筈のカールまでもがエリナを呼び捨てにするのだ。肩書きをつけるのが、何だか馬鹿らしくなってくる。

「えっ、そうかな? あんま考えたことないんだけど」

 周囲を観察するのはある意味、エリナにとって身についてしまった癖みたいなもので、特に意識してやっている事ではなかったから、疲れるとかそういうことは本当に考えたことはなかった。まあ確かに言われて見れば、常に周囲に気を配っているというのは、意識してやったら疲れそうな事ではある。

「何も考えてないのか? そりゃ凄いな」

 ミックとショウは顔を見合わせる。エリナを見習いたいとは思うが、これはとても真似ができそうもない。無論、意識して気を配るのはできそう…というか、上に立つ者としてやらねばならないが、無意識で気を配る境地にはとても到達できないだろう。


「それにしてもエリナの分析は正確よね。艦長もすっかり頼りにしてるし…」

「前から只者じゃないとは思ってたが、この艦に乗ってからしみじみ実感したよ」

 マリーのつぶやきにベンが補足する。ワズに着いて最高技術顧問だと聞かされた時も度肝を抜かれたが、ワズを脱出してからこっち、軍人としてのエリナの手腕には驚かされてばかりである。

「でも、中将になってるわけだし、そのくらい普通なんじゃ…」

 リオが口を挟む。ここにいるメンバーの中でリオだけがエリナを良く知らない。だからこういう発言をするのだ。

「そうね。階級を考えたら、そう思っても不思議はないわよね。でも私たち、エリナがそこまでの地位だなんて知らなかったのよ」

 サラやマリーたちがその事を知ったのは、軍に登録されてからである。唯一エドナーだけは当初から知ってはいたが、それも最高技術顧問としての顔であり、軍人としてのものではなかった。それをそのまま口にする。

「そもそも俺たちだって、技術将校のトップとしての最高技術顧問の顔しか知らなかったんだ。大体、技術将校ってのは基礎訓練まででOKの筈だろ。それ以上の訓練や実戦経験は免除されていて、階級だって主に技術力で判断される訳だしさ」

 エドナーもファルコンに乗り組んでから軍に登録された口ではあるが、長年ランドルフ博士の下で働いていただけあって、軍内部に於ける技術将校の扱いについては詳しい。エリナの階級についても、資材の自在な調達の為にランドルフ博士が裏から手を回したと思っていたのだ。

「まあ、確かに技術将校の階級についちゃ、俺たち制服組はあまり額面通りに受け取っちゃいないけどな。それでも中将とか言われれば充分ビビるぜ」

「そりゃそうだよな。普通はそれだけの地位にいたらあんなに気安くないし、つうか俺らエリナが誰に対してもああいう風に気さくだったから、只者じゃないとは思ってたが、そこまでの地位とは思ってなかったんだ」

「私たちにも軍のことは一切話さなかったから、知りようがなかったし、こっち来てからも研究所に配属されていた軍人たちとはタメ口だったしね」

 研究所に配属されていた軍人たちは皆エリナの実力は認めていたが、エリナ自身が飾らない性格で、その階級や実力を鼻にかけるようなタイプではなかったため、自然そういう関係になったらしい。そもそもランドルフ博士と軍人たちとの関係もそんな感じだった様だから、エリナもそれを踏襲しただけかも知れないのだが…。

 リオにしてみれば、エリナは会った時から中将であり、また既にそれ以前からあれこれ噂も聞いていたので、最初はほんとうに及び腰だったのだ。けれどエリナはそんな垣根をあっさり飛び越えて来て、あっという間に昔なじみの様になってしまった。気負っていたのも身構えていたのももう遠い昔の様に…。でも考えて見れば、まだ二週間とたっていないのだ。不思議と言えば不思議である。



 いつの間にかまたお気に入り登録されていました。嬉しいです。解説の方も登録されていてびっくりです。なのに更新が少し遅くなってしまいました。ごめんなさいです。


 これからもよろしくお願いします。


入力 2012年7月28日

校正 2013年4月27日

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