第三章 (1)
いよいよ戦闘場面に突入します。とはいえあまり得意でもないし、詳しくもないので、変なところがあるかも知れません。そこは目をつぶって欲しいです。
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自 2011年4月29日
至 2011年5月7日
そして、その恐れていた危険がやって来たのだった。新造艦の司令が基地について五日後、士官候補生達の第一陣が到着し、彼らが軍の基地から研究所へまさに出発しようとした矢先だった。星全体に警報が鳴り響いたのである。
それは、この星の警戒宙域内に侵入者があったことを示していた。この警報に基地司令はひどく驚かされた。確かにここが前線である以上、いつ敵が来てもおかしくはないのだが、こんな辺境のちっぽけな星を攻撃する様な物好きがいるとも思えなかったのだ。実際、基地の重要度もそれほど高くはない。というかかなり低いのだ。
研究所の方の重要度に関しては基地司令の知るところではない。そもそもそんな権限はないのだ。研究所はしばしば軍事機密を取り扱う。そしてそれは往々にして軍の上層部にしか知らされないのだ。その取り扱う機密によって、研究所の重要度は判断されるわけだが、上記の様な理由から、基地司令レベルでは研究所の重要度はわからないのであるし、それがわからないように基地司令には研究所の防衛システムにアクセスする権限もないのである。
さて、それはともかく、基地司令は驚くには驚いたが、そこはそれ、曲がりなりにも司令に任ぜられるくらいだから、すぐにその衝撃からは立ち直り、矢継ぎ早に指令を飛ばす。基地内はにわかに慌ただしくなった。
一方、市街地の民間人は直ちに行政府の地下シェルターへと移動した。研究所内も臨戦体制に移行し、メインの建物内から一般の研究員は崖内部へと避難し、メインの建物自体には強力なシールドが張られた。最悪ここが盾となって崖内部の研究施設を守る様な仕組みになっているのだ。
エリナはメインの建物内に設置されている研究所の前線司令室にいた。研究所内にいる数少ない実戦経験のある技術将校として、ここで陣頭指揮にあたっていたのだ。
ちなみにランドルフ博士自身は崖内部にある研究所の総司令部の方にいた。ここから所内のすべてを統括することができるのだ。本来ならばここの総指揮は博士が執るのであるが、新造艦の司令が艦のレクチャーの為、所内に滞在しており、実戦経験も豊富なことから、現在は彼が総司令として指揮にあたっていた。
サラたちは一応、技術将校として登録されてはいたが、なったばかりで当然、訓練すら受けておらず、また敵が来た以上、研究開発の方も急がねばということで、軍の行動には参加していない。
それを言えば、エリナだって博士だって研究開発の重要な要員ではあるが、研究所が壊されてしまっては元も子もないので、この体制になっているわけである。
「偵察衛星による宇宙空間からの映像に切り替えます」
オペレーターの声とともにワズ周辺の映像が写し出された。
「意外に少ないわね。向こうも偵察部隊というところかしら?」
隣りに座るリチャードに話しかける。
「こちらの攻撃力の確認も兼ねてるんじゃないか?」
上司に対する口の聞き方としてはいささか乱暴だが、エリナを相手にすると大体みんなこんな感じになる。無論、ここに口うるさいガチガチのお偉いさんがいないから…ではあるが…。
「そうね…、それはあるかも」
エリナもこのメンバーだからこそ、この口振りである。規律にうるさい人間のいるところでは、もちろん言葉遣いも口調も変える。
「ここの基地の方の出力値は?」
エリナの問いに研究所に配属されている戦闘オペレーターがモニターに資料を転送する。
「やっぱ、かなり小さいわね」
「この数値ですと、研究所の1/5というところです」
所詮、辺境の軍基地だしなぁ…、まあこんなものかも。
「リチャード、敵がこちらを先に攻撃してくる公算は?」
「限りなく低いと思うぜ。まあまずは軍基地だろうな」
とすれば向こうも様子見だが、こちらも様子見というところだ。まあこちらの方が腕のいいのも揃っているし、設備も良い。慌てる必要はない。
この話を聞いて奇異に思われる方がいるかも知れない。だがこれは軍内部の指揮系統の違いによるもので、決して珍しいことではないのだ。軍の基地の統轄は、総合幕僚本部の地域戦略作戦本部が担当している。それに対して軍の研究所の方は、研究開発統轄本部の研究所防衛システム本部が担当しているのだ。これは各前線基地の重要度と研究所の重要度が異なるためであり、従って今のように基地と研究所との防衛システムに違いが生じることがあるのだ。当然、配属される軍人の質も違ってくる。
今の会話でわかる通り、ワズに来た当初、軍基地でエリナに声を掛けたリチャード・ヤングは、実は前線基地の構成員ではなく、研究所の方に所属していたのである。
より正確に言えば、彼はエリナの副官にあたる。中将の副官に中尉というのはいささか階級が離れ過ぎているが、通常、研究所の防衛システムでリーダーシップを取るのは少佐か大尉レベルであるため、副官としては中尉クラスが多くなる。
ここでは前線司令室の指揮をエリナがとっているが、普通は技術将校ではなく、制服組からトップは選ばれるのだ。何せ研究に関しては技術将校の方が上だが、軍事行動に関しては当然のことながら制服組の方が上なのである。
ちなみに研究所に所属する軍人は研究所の防衛が仕事であるから、当直時はもちろん、通常でも緊急時に備えて研究所内に居住している。が、しかし、流石に研究所内に訓練施設はないので、腕が落ちないように定期的に軍基地へ出かけて訓練を行っているのだ。また研究所の資材調達等の事務処理も軍基地を通じて行われる。形式上は研究所は軍の施設としては基地の管理下にあるのだ。しかし、研究所に限らず、工場などの軍事施設は攻撃時の安全を期して、居住地からはやや離れた地域に作られるため、軍の基地からは遠くなってしまうことが多い。従って、それぞれが別の指揮系統で防衛システムを構築しているのだ。
「偵察衛星からの映像に切り替えます」
オペレーターの声は一応、落ち着いている様に聞こえた。映像に敵の中型艦が写し出されると、基地司令室内にどよめきが拡がる。それでもここはまだ落ち着いている方なのだ。警報が鳴り響いてからずっと、基地内はどこか浮き足立っている。
それも無理はないのかも知れない。そもそもこの基地自体、今まで敵から攻撃されたことなどない。現在配属されている軍人もそのほとんどが実戦経験がないか、あってもほんの少しという程度だ。流石に司令室に居る基地司令やその副官などはそこまでではないが、この基地に来てから久しく実戦の経験はない。多少ぎこちないのはやむを得まい。
「総員第一級戦闘配置につけ!」
「中型艦及び各戦闘機は離陸後、宇宙空間にてただちに迎撃体制に移れ!」
今のところ指示は的確ではあるが、実際の戦闘が始まった後、状況に応じて指示が出せるかどうかはまだわからない。実戦はシミュレーションの様にはいかないのだ。実戦は臨機応変が鉄則である。戦闘機の数が一機違うだけで、戦局が大きく変わってしまうことすらある。
司令室からの指示を受けて軍港から基地に所属する船が次々に飛び立っていく。まあもともと辺境の小さな基地であるため、配属されている戦艦は中型のものが一体だけであり、あとは小型の戦闘機のみだ。それらが宇宙空間で敵と対峙する。敵もこちらと射程距離を保って動きを止めた。そのまま互いににらみ合う。見たところ現在の戦力は互角と見えた。
だがもし相手が本気で超ど級宇宙戦艦でも持ち込んできたら、到底太刀打ちは出来ないだろう。敵がそこまでやる気なのかどうかはわからない。ただ、今見えているのが敵の本体ではなく、偵察部隊だとすれば当然その背後にこれよりは規模の大きい本体が存在するのは間違いない。そしてそれが来てしまったら、ここの前線基地などひとたまりもないだろう。
しばらく戦闘場面が続きます。
入力 2012年6月11日
校正 2012年7月1日