【ハイシーのこと】
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・【ハイシーのこと】
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『解散した。』
ハイシーからのLINEがポップアップされて固まる。
その直後に、
『でも酒井と二人でやっていくことになった。破門にされなくてホッとしている。』
と続いて、僕はハイシーとのグループLINEをクリックして、既読をつけた。
ハイシーは続ける。
『これからもアイドルやっていくから、よろしく。応援してくれると嬉しい。たまに愚痴るかもだけど。』
僕は即座に、
『応援なんていつもしているよ! 続けられて本当に良かったね!』
と返信すると、ハイシーから可愛いキャラがサムアップしているスタンプが連打されてきて、機嫌もどうやら悪くないみたいだ。
ハイシーは気分が乗っている時、スタンプを連打する傾向にあるので。
ハイシーのことは一段落だけども、僕には僕の人生がある、と、カウンセリングの先生からも言われている。
だからって僕の人生は既に死んでいるようなものだと思って、また適当にSNSを開くと、そこで驚愕の文字が飛び込んできた。
ハイシーの事務所公式アカウントに、ハイシーと一緒にやっていくことになったメンバーの酒井さんとハイシーが抱き合っている写真や、頬と頬を合わせて笑っている写真などがいっぱい掲載されていて、公式アカウントはこんな文字を投稿していた。
『フリーBL素材ですw生成AIでお楽しみくださいww』
何この悪ノリ……それが嫌で元々のメンバーが去ったんじゃないの……?
酒井さんがどれだけBLに嫌悪しているのかとか耐性があるのかは分からないけども、こんなことして絶対良いはずないのに。
でもタイムラインはお祭り状態で……と言っても普段からハイシーのことをパブサしている僕のタイムラインだからかもしれないけども、一気にハイシーと酒井さんのグループ・めろえもBlueLightの二次創作というか、ハッキリ言ってしまえば生成AI画像が溢れていて、正直僕は恐怖を感じた。
こんな売り方を果たしてしていいのか。ハイシーとは友達だから他人事には思えない。あの長文LINEが脳裏をかすめるどころか、弾丸で貫かれているし。急所しか貫かれていない状態。
この二人のメンタルが心配だけども、まあ酒井さんは分からないが、ハイシーは上機嫌っぽいし、これでいいのかもしれない。本当にこれで良かったのかもしれない、と思うしかなかった。
いいや思おう。だってハイシーは元気なんだから。
とは言え、この公式の『生成AIでお楽しみくださいww』ってかなり良くない感じもやっぱりする。
今はまだ画像でキスしているだけども、本当に裸で、男性同士がセックスしているような動画が出回ったら、やってもいないのにデジタルタトゥーというか、そういうレベルになってしまうんじゃないか?
この公式本当に大丈夫か? 人権のこと考えているのか? 売れれば何でもいいのか? 弱小事務所と言っていたし、とにかく一番手の売れるグループがまず一つ欲しいんだろうな、ということは分かる。
僕はお笑いの事務所に詳しいお笑いオタクだから分かるけども、最初に売れる人が出てこないと、テレビ局とのパイプができないって言うし。
サンミュージックで言うところのダンディ坂野さん、ソニーミュージックで言うところのコウメ太夫さん。
なんとか売れ切って、ネットだけでオモチャにされている状態から早く脱してほしい。
そんなある日、ハイシーから愚痴のLINEが届いた。うん、多分愚痴のLINEだ。
『せっかくコンビなんだから、BL漫才をしてほしいと言われちゃっている……。』
”言われちゃっている……”と書いているので、多分愚痴だとは思うんだけども、それこそハイシーの本分では? みたいに思ってしまうところがあって、だから全然良いじゃん。
というかハイシーの明るさの見せ所だし、酒井さんは雰囲気的にクールな感じで、ツッコミに合っている感じもするし、本当に良い漫才コンビという感じがする。理想形というか。
ハイシーは声が高めだし、酒井さんは声が低めだし、本当に漫才するには既にキャラクターが立っていてすごく良い。両方イケメンなのも今のトレンドって感じがする……と思ったことを全部文章にして、返信したんだけども、ハイシーは、
『でも俺はしたくないんだ……。』
といった感じで、正直意味が分からない。もっとストレートに書いたほうが良かったのかもしれない。
『大丈夫だよ、ハイシーは素が面白いし、ただ喋っているだけでも漫才になると思うよ』
『そんなことないし、やりたくないなぁ……。』
僕はやってほしい。
何なら僕が築き上げられなかった世界線を見せてほしいぐらいに思っている。
何がそんな渋っているのだろうか。全然意味が分からない。
『ハイシーは絶対大丈夫。だって中学時代に漫才上手くやれていたじゃん。しっかりウケていたし。僕はもう物理的に離れていてハイシーと漫才はできないけども、していたらみたいな世界線を見せてほしいよ』
とハッキリ思ったことを全部書くと、急に通話マークと呼び出し音。
いつもはLINEの文章だけのやり取りで終わるのに、何を今日に限って、と思いつつ、通話をタップすると、すぐにハイシーが喋り出した。
「ベイル、俺漫才やりたくないよ」
僕は正直目を丸くした。
言うても”BL漫才をしたくない”だと思っていたからだ。
でもBL漫才だってつまりは漫才だし、漫才という土俵にしてしまえば、ハイシーには絶対にできると思っていたのに、まさか漫才そのものをしたくないと言い出すなんて。
僕は声を詰まらせながらも、
「でも、ハイシーの、漫才は本当に巧いし、キャラクターだって漫才が一番映えると思うよ」
「酒井とは漫才やりたくないんだよ」
なるほど、酒井さんに漫才適正が無いと思っているのか。
それなら説得の方法を変えないといけないな。
「いいや、酒井さんも低温ボイスでクールだから、それぞれキャラクターが映えると思うよ。本当良いコンビだと思うよ。正直漫才の理想形だと思うよ。酒井さんも何か漫才できるような感じがするし」
「まあ酒井は器用だからなっ」
……あれ? 酒井さんの能力を疑っているんじゃないの?
何か酒井のこと褒められて嬉しいみたいな声を今、出したけども。
じゃ、じゃあ、
「酒井さんもできるんなら、ハイシーは勿論漫才できるんじゃないの?」
するとハイシーは黙ってしまった。
一体何なんだろうか。
僕はずっと、次のハイシーの言葉を待っていると、ハイシーは言いづらそうに「あー」とか言いながら、語り出した。
「つまりはさ……俺、ベイル以外と漫才したくないんだよ、俺にとって漫才とはベイルとするものなんだよ、酒井と漫才するんだったら、それと同時進行でベイルと漫才したいんだよ」
「えっ?」
と、つい声が出てしまった。
ハイシーはもごもご言いながらも続ける。
「えっと、だかっら、その、ワガママなのは分かっているけどさ、やっぱ俺にとって漫才ってベイルとしていたことだし、俺にとってはそれくらい神聖なモノだし、酒井だけとやるとか、俺にはちょっと無理でさぁ……」
まさか僕のことを”まだ”そんな風に思ってくれているなんて……ヤバイ、感動でちょっと涙が出そう……いや、そうだな、もう言おう。僕の現状をハッキリ言わないとダメだ。
ハイシーにはちゃんと誠意を見せないといけない。
「ハイシー、あのさ、実は僕……無職なんだよね、今ほとんどというか相当の引きこもりでさ……」
「そ! そなんだ!」
というハイシーの声は今後の展開に期待するような、ちょっと明るい声で、むしろ嬉しいみたいな感じだった。
さすが、ハイシー、僕の相方だ。もう何を言うか察しているのだろう。じゃあその通り言おうか。
「僕、東京へ行くよ。そこで一緒に漫才しよう。それなら酒井さんとも漫才するんだよね」
「するよ! ベイルが俺と漫才してくれるんだったら、何でもいい! じゃあ明日すぐに俺の家に来てシェアハウスしよう! 家賃とかも全然慣れるまで俺持ちでいいし!」
今更東京とも思ったんだけども、こうやって、ハイシーの家に転がり込む形なら僕も心が安らぐし、いいかなと思っている。その後、ハイシーとはずっと世間話をしていた。
僕が仕事をしている・していないなんて、ハイシーにとってはどうでも良くて、むしろしていなかったほうが都合良くてラッキーみたいな感じで、僕も悲壮感の出どころが無くて、気が楽だった。
そのことを家族に伝えるため、僕は部屋から出て行った。
今は午後八時、ちょうど母親も父親も居間でテレビを見ている時間帯だ。
居間に顔を出すと、テーブルに座ってせんべいを食べている父親と、ソファーに座ってクッションを抱き締めながらテレビを見ている母親がいた。
母親が即座に、
「どど、どうしたの? お茶なら冷蔵庫にあるわよっ」
と言いながら立ち上がったので、僕は、
「座ったままでいいから聞いて」
と言ったんだけども、母親は座らなかった。
父親はちょっと酔っているようで「うぃー」みたいな声を出して、小さくキモかった。
まあ父親のことはどうでもいいとして、単刀直入に言い切ろう。
「お母さん、僕、ハイシーが住んでいる東京で一緒にシェアハウスするよ。そこでハイシーと一緒に漫才をするんだ。できたら仕事もちゃんとしたい」
お母さんは一気に目が潤んだ。父親はポカンとしている。
この段階ではお母さんの針がどっちに振れるかは分からない。黙ってお母さんの次の言葉を待っていると、
「ハイシーくんと! じゃあ安心ね! ベイル! いってらっしゃい!」
と言いながら駆け寄ってきて、お母さんは僕を抱き締めた。
僕の言い分が信用されていないなら、一応B案としてハイシーと電話してもらう案もあったので、ハイシーには待機してもらっているけども、どうやらそんなことはする必要無いらしい。
お母さんは僕から離れてから、
「いいのよ! ハイシーくんと一緒なら! 喧嘩しちゃダメよ! ハイシーくんは良い子なんだから困らせちゃダメよ!」
じゃあもう許可も得たし、部屋に戻ろうかなと思っていると、父親が声を出した。
「ダメだ、そんなんいいはずないだろ」
僕よりも先にお母さんがムッとした表情をした。僕はできるだけ無表情をキープした。
ハイシーに迷惑が掛かるとか、そんなことを言うんだろう。その時はB案だ。むしろハイシーが誘ってきたことを説明してくれる。
父親は改めて口を開き、
「急にいなくなったら……世間体が悪いだろ!」
……はぁ?
父親は止まらない。
「それにカウンセリングから逃げいているだけじゃないか? 良い病院だったぞ! 職員の方々も気さくで! 今いなくなると絶対に後悔するぞ!」
何を言っているんだ……意味が分からない……ハイシーなんて友達本当はいないんだろのほうがまだ論理的だ。
父親はテーブルをバンバン叩きながら、
「俺の立場はどうなる! 俺がオマエを更生させてやるんだよ!」
更生ってなんだよ、別に犯罪を犯したわけじゃないし。
何か腹立ってきたので、一言言うことにした。
「結局、自分の監視下に置いて制御したいだけでしょ」
すると父親は激昂し、
「よそで喧嘩してこい! 内弁慶! 内弁慶!」
と声を荒らげた。
僕はハッキリと、
「ハイシーとは絶対に喧嘩しないよ」
と答えると、父親がデカい声で叫んだ。
「そもそも誰だよ! ハイシーって!」
その時だった。
お母さんが喚くように声を張り上げた。
「本当! ベイルのこと何も知らないくせに口出して! ハイシーくんのことも覚えていないんだったら口挟まないで!」
父親は食べかけのせんべいをテレビに向かって投げると、
「もういい! 俺は寝る! 寝るから寝室来る時、起こすなよ!」
とお母さんでも僕でも無い方向を向きながら叫んで、居間から去っていった。
お母さんは静かにせんべいを拾って、三角コーナーに入れてから、
「私はベイルとハイシーくんのことを応援するからね、お金もちょっとだけだけども持って行きなさい。明日お父さんが仕事に行ったら渡すからね」
もうお母さんにB案をやる必要は無いんだけども、
「あの、ハイシーと、久しぶりに喋ってみる……?」
するとお母さんは嬉しそうに、
「そうね! ハイシーくんにもお願いしたいわ!」
と言ったので、僕はハイシーに電話して、お母さんとハイシーは十五分近く喋っていた。
元々、中学の頃からお母さんはハイシーとも好意的に喋っていて、正直当時は恥ずかしかったんだけども、今は頼もしかった。
次の日、父親は普通に仕事へ行ったところで僕は居間から出てきて、お母さんからお金の入った封筒を受け取って、家を出て行った。
最後にお母さんは、
「ハイシーくんに嫌われないようにね、ベイル、応援している! 一週間に一回くらいは電話してね!」
と言っていた。一週間に一回は多くないか、と思ったけども、電話するくらい別に簡単にできることなので、それくらいはすることにしよう。
電車を乗り継いで、スマホの地図を見ながら歩き、ハイシーの自宅に着いた。
二階建てのアパートの二階だった。そんな古臭い感じではなくて、ちょっとお洒落な感じだった。
オートロックも完備されているような扉で、僕がチャイムを鳴らすと、玄関のスピーカーから「はーい」というハイシーの声がして、合っていることが分かった。
ハイシーは扉を開けた時からもう嬉しそうな顔で、
「ベイル! 来てくれた! 嬉しい!」
と全部言葉にしたので、
「言葉にし過ぎ。辞書じゃん」
とツッコむと、
「心持ちは分厚いよ!」
「まあ信頼が厚そうで何よりだよ」
と答えておいた。
ハイシーはふと、
「どうせBL売りされているし、男とのシェアハウスはむしろ歓迎だろうなぁ」
と言って、何だかおかしくて、吹き出してしまった。
というわけで家の設備の説明をしてくれてから、早速僕はハイシーとの漫才を書くことにした。ハイシーの意見を聞きながら。
ちなみに酒井さんとするBL漫才の台本も僕が書くことになった。ちゃんとバイト代も出るらしい。僕の最初の仕事がハイシーと酒井さんの漫才台本で心が躍る。
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・【スタイル】
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基本的に僕が家事全般を行なう、主夫スタイルでいくことになった。
ハイシーは僕が仕事をせずに家にいることに対して、何も不満は無く、むしろハイシーは家事が苦手だったらしく、すごく嬉しそうに、
「毎日ベイルの手料理が食べられるなんて最高だ! 今、カップ麺よりも自炊のほうが安いからなぁ!」
「正直結構昔からそうだよ、カップ麺が安い時代あんま無かったよ」
まあ主夫スタイルはかなり心が楽なので、有難い。
勿論ちゃんと仕事もいつかしたいけども、慣れるまではこれでいいのかもしれない。
それに今はもう、ハイシーと漫才をするという仕事もある、いやお金を払って出るフリーエントリーライブにしか出られないわけだから、まだ仕事とは言えないけども。でもその下準備だ。
僕はとりあえず中学時代にやっていた漫才を下地に、今風にアレンジした漫才を作り上げた。
ハイシーはまだすごく忙しいといった感じではなくて、アイドルがたくさん出るライブに毎週末出たり、あとは深夜のテレビ番組にたまに呼ばれている感じだった。
よって平日とかは普通に開いているので、早速フリーエントリーライブに出た。
僕の存在を意識されているほうの人前なんて本当に何年ぶりかって感じだ。出演芸人との挨拶をそこそこにとんとん拍子で舞台直前になり、軽くハイシーとグータッチし、舞台袖からハイシーと共に出てきたところで、ハイシーのことを知っているお客さんもいて、黄色い声援があがった。
ちょっとテレビの企画だと思っているっぽいので、僕がアドリブでそうじゃないことを言ってから漫才に移った。
こういうアドリブをちゃんとできているので、テンパっているわけじゃないっぽい。僕は練習通りに上手くやれたし、ハイシーは練習以上の輝きを見せたと思う。
僕とハイシーは一気にフリーエントリーライブに出まくると、たちまちSNSで(少しかもだけども)話題になった。
ハイシーは事務所の方針で本人のSNSをしていないので、僕がSNSをやって、とりあえずの窓口をしている。
すると僕のSNSに、捨てアカウントのような連中から『お笑いを舐めるな』という引用リポストをよくされるようになった。
ハイシーからは「嫌な書き込みされたら一緒に共有してバカにしよう」と言われているので、逐一見せるようにしている。
その度にハイシーは、
「こういうの全部嫉妬! 自分のほうができるって勘違いしているダサいヤツだからなぁ!」
と笑い飛ばしてくれるので、僕の心に重く刺さらない。
やっぱりハイシーがいてくれるだけで、全然気持ちが違う。
最近はハイシーに同じように見せているわけでもないのに、あのタレント政治家の言葉もあんまり気にならないし、そもそも表示があまりされていないかもしれない。そんなことよりも自分の人生に夢中だ。
最初はただただフリーエントリーライブに出て、リメイク漫才をやっていたけども、ファンというか出待ちしてくれる方々もできてきて、それと同時にお笑いライブの文脈を知らない子たちがハイシーと僕を見に来てくれるようになった。
簡単に言うと、ハイシーと僕のコンビ・TwoCooL(中学時代に考えたコンビ名なのでダサい)を見たら、すぐに帰ってしまうような子たちが来るようになってしまい、同じライブに出ているお笑い芸人さんからは苦笑されるようになってきた。
ライブ側もTwoCooLの出番が最後になるようにとかしてくれるようになったけども、このままじゃダメだと思うので、まずは新ネタとして『ファンとして来るならお笑いライブの文法やマナーを守ってほしい』という気持ちを込めて、お笑いライブの観客心得みたいなことをネタにした漫才を作ることにした。
結局、ファンがダサいとコンビもダサいと思うので。その甲斐もあったのかなかったのか、とにかく徐々にフリーエントリーライブだけじゃなくて、ライブに名指しでお呼ばれされるようになっていった。
ただ、リアルが充実していく僕が進化するように、SNSの言い分もどんどん進化していった。
この前までのSNSは、無職が敵みたいな感じだった。無職が罵詈雑言を書き込んでいるって。
でもいつの間にか、芸人気取りの一般人の口が悪いみたいな流れになっていっている。
面白いを履き違えている、毒舌じゃなくてあれはイジメで、みたいな。
勿論あのタレント政治家が先導していて、事務所の養成所のようなところで真面目に習うのではなく、フリーでお笑い芸人になろうとしているヤツはイタイヤツだみたいなことを言っていた。そういう人は今すぐ辞めて、本職をしっかりするべきだ、と。
お笑いアカウントをやっている一般人はおかしい。あういうヤツが変なことを言っているんだと主張している。
でも僕の感覚としては、お笑いアカウントの人はそこまでおかしくないと思っている。自分が今それの真似事みたいなことをしているせいかもしれないけども。
確かに度の越えた芸能人イジリをやっている人もいるけども、それは少数派で、それよりもヤフーニュースを引用リポストして、酷いこと言っている人の大半はお笑いアカウントじゃないと思う。
それともそういうアカウントもお笑いアカウントとしてカウントしているのだろうか。
そんな論なんて無視すればいいのに、なまじそのタレント政治家が人気あるせいで、賛同者も多く、お笑いアカウントが目の敵のようになっていき、特に僕がやっているTwoCooLのSNSアカウントへの誹謗中傷が日に日に増している。
というかそういう誹謗中傷はいいの? そういう誹謗中傷が良くないって話じゃないの? 何で自分が正義側に回ると全部アリになるの? 別に正義でも何でもないし。その正義はもはやジジイが路上でトンカチ振り回している正義に近い。そんな正義は無いけども。無いからね。
せっかく僕はお笑い芸人の卵みたいな状態になれたのに、結局タレント政治家の為田仁の鎖からは逃れられていないらしい。
配信ラジオが今日あって。
最近、夜は僕とハイシーが揃うことは少なくなってきている。ハイシーがいよいよ売れてきている。
僕と漫才コンビをやっていることも起爆剤にはなれているらしい。始めた当初は『アイドルが遊び半分で』みたいな感じもあったけども、ちゃんと一からフリーエントリーライブに出ていたおかげで、そういうイジリは少なくなっていき、今はお笑い芸人さんの友達も多い。
むしろ『みんなで成り上がっていこうぜ』みたいな感じで、仕事場で足を引っ張ってくるような人はいない。SNS以外は順調だ。
そのせいというか、その成果もあって、ハイシーは夜にテレビの仕事に呼ばれることが多くなっている。僕もどうですか? という番組もあったけども、僕はテレビで跳ねるイメージが沸かないので断っていたら、そこからはずっとハイシーだけ呼ばれるようになった。
なんというか、ぼる塾スタイルというか、ネタはするけどもテレビはしないみたいな。そういう前例も芸能界にはあるので、割とすんなり受け入れてくれたし、そもそも僕も呼ぼうとするのは”ご厚意”であり、それを断るんだったら別に最初からほしいのはハイシーだけだよ、って感じだ。僕はそれでいいと思っているので、全然気にしていない。
そんな中、今日は久しぶりに二人で長谷川ブックスの配信ラジオを聴ける。
遼太朗が上機嫌そうに声をあげる。
「長谷川ブックスそのものー!」
即座に翔也が、
「何その最初の挨拶。確かにそのものだろうけどもさ」
遼太朗が「というわけでっ」と早口に言ってから、
「今回の挨拶アイデアは夜のシンパシーさんでしたー」
翔也がすぐに、
「全然挨拶アイデアのメール来てないし、そんなペンネームの人いない。何その女性誌のワンコーナーみたいなペンネーム」
遼太朗が軽く吹き出してから、
「彼氏の愚痴を書くコーナーね」
翔也がツッコむように、
「しょうもなっ。めっちゃありがちのコーナーだった」
と言ったところで圭が、
「彼氏の愚痴がディナーだろ!」
翔也がすぐさま、
「嫌な関係性。愚痴言うために付き合ってるカップルじゃん」
遼太朗は本題へといった感じに、
「まあね、最近どうですか。嬉しいことありますか、俺はありました、優勝しました」
圭がすかさず、
「おめでとう案件過ぎだよ! 優勝って!」
と言ったわけだけども、翔也が、
「優勝ってマジの優勝じゃないでしょ? ネットミーム的な言い方でしょ?」
遼太朗が「そうそう」と言ってから、
「ネットミーム的な、エッホエッホ、お尻が最強に柔らかいって伝えなきゃってバカ」
とノリツッコミ風に言い切ると、翔也が即、
「結構古い上にかなり面白くないよ」
遼太朗は爆笑してから、
「面白くないって言うなよ! いやもしかすると、このネットミームの面白さの上限の話してる? 俺じゃなくて」
翔也も笑いながら、
「ネットミームの悪口じゃなくて。遼太朗のボケが面白くないって言ったんだよ」
すると圭が、
「面白くないって言っちゃダメ! 蛇が出るよ!」
翔也は矢継ぎ早に、
「そんな夜に口笛吹いたらみたいな」
遼太朗がすぐに、
「蛇が出るネットミームね」
翔也がちょっと張り切った声のツッコミで、
「無いよ! 蛇が出るネットミーム!」
遼太朗が「いや」と言ってから、
「あるじゃん、穴から蛇ぃぃいい! が、さ」
翔也が呆れるように、
「無いし、すごく面白くないよ、穴って面白くない人のユーモア過ぎるよ」
遼太朗が少しムッとしているような声で、
「穴ほど面白いワード無いだろ、穴という穴から、という有名なボケかたがあるだろ」
翔也が「えー」と言ってから、
「それ面白くない小学生の修飾語じゃん。言うけどね、面白くない小学生が」
遼太朗が「はい!」と仕切るように声を出してから、
「というわけで今日は翔也による面白判定委員会です!」
翔也が慌てるように「いやいやいや!」と言ってから、
「そんなんしない! 一番イタイヤツじゃん!」
そのタイミングで割って入るように圭が、
「棒かよ! 痛いってさ!」
と声を張り上げると、遼太朗が、
「藪を突いて蛇を出すに繋げた上手いボケでしたが、翔也、どうでしょうか」
翔也は即座に、
「面白判定委員会の書記長すなよ! 圭もそこまで考えていないでしょ!」
と言うと、圭が、
「何! そう!」
と言ったところで遼太朗と翔也が爆笑した。
ちょっと間ができたところで遼太朗が、
「圭の天然好きだわぁー……というか本当に嬉しいことがあったんだよ。あのハイシーって今一番面白いアイドルいるじゃん」
と急に言い出して、僕とハイシーは顔を合わせて目を丸くする。
遼太朗は続ける。
「ハイシーがさぁ! 俺らのこの配信ラジオ面白いってネットラジオで言ってくれたんだよね! めっちゃ嬉しくないっ? 優勝じゃん!」
僕はハイシーへ、
「そんなこと言っていたんだ」
ハイシーは頷きながら、
「そうそう、酒井とのネットラジオで言ったよ。アフタートークだけどね。というかそんなとこまで聞いてくれてるなんて嬉しいー」
と言い、ハイシーは自分の頬を両手で緩く叩いた。
僕はすぐさま、
「何それ、褒めは化粧品?」
とツッコむとハイシーが笑いながら、
「そういうことじゃないって、これは夢じゃないか的なヤツぅ」
と言った。
配信ラジオの会話は続いていて、翔也が、
「ハイシーさんって、そもそもこのラジオの大喜利のコーナーに投稿してくれるハイシーさんと同一人物なのかな?」
すると遼太朗が、
「つか、TwoCooLでやってる時のベイルって人もベイルアウトさんなんじゃね? だってTwoCooLのボケ、ちょっとベイルアウトさんっぽいもん」
翔也が「あー」と言ってから、
「ライブで見たんだ」
遼太朗が普通な感じで、
「そそ。ライブで見た。さすがに行くしかないじゃん、ベイルがベイルアウトさんだったらって確かめに行かなきゃダメじゃん」
主に遼太朗と翔也で僕とハイシーの話をしてくれている。
これは、
「コメント送るしかないじゃん!」
僕とハイシーの声がユニゾンした。
早速、コメントを書いて送ると、遼太朗が言葉にならないような叫び声をあげてから、
「TwoCooLのベイルさんはベイルアウトさんだし! ハイシーはハイシーさんだってさ! マジかよ! うわ! 鳥肌立った!」
翔也は何だか小声で、
「本当に? これちょっとすごいなぁ……」
遼太朗が「もう!」と叫んでから、
「コラボしたいよなぁ! コラボぉ!」
翔也が「ちょちょっと」と慌てるように言ってから、
「さすがに現金過ぎない? 普通に僕ら見捨てられるかもよ、このリアクション」
僕よりも先にハイシーがコメントを打ち込んで、
『コラボしたいです!』
遼太朗がドデカい声で、
「マジかよ! コラボしたいですって! ハイシーさんから! じゃあさ! ハイシーさんはSNS無いから、ベイルさん! あ! もうベイルさんフォローしてくれてんじゃん! 気付かんかった! じゃあもうラジオ終わったらDM送りますんで、一回会いましょう!」
翔也が笑いながら、
「焦り過ぎ」
遼太朗はすぐさま、
「いやそれは翔也がTwoCooLの漫才見たことないからだわぁ! 天下獲るよ! TwoCooLは!」
翔也が吹き出してから、
「じゃあもう現金過ぎるじゃん。今のうちに仲良くなっておこうのヤツじゃん!」
遼太朗の唇の破裂音と共に、
「ビッグビジネス!」
翔也が爆笑してから、
「だからその感性でいることがダメなんだって」
そんな会話でラジオ配信は終わり、ほぼ終わったと同時に遼太朗さんからDMが送られてきた。
『ベイルさん! ラジオお聞き頂き、誠に有難うございます! 時間がありましたら是非会ってお話ししましょう! うわー! 東京に俺いて良かったぁ!』
それから僕は遼太朗と、いや遼太朗さんとDMを重ねて、ついに会う当日がやって来た。
ハイシーは仕事で、僕と遼太朗さんが二人っきりで、という話。
正直ハイシーのいないところで誰かと会話することには慣れていないので、緊張してしまう。
果たして遼太朗さんは一体どんなお方なんだろうか。




