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興奮

その一


ジルを鍛え始めて、丸一年が経った――まあ、もちろんざっくりだけどな。この一年で、柔術と極真空手を少しずつ教えてきた。


一度にいろいろ詰め込んで、ジルにプレッシャーをかけすぎたくはない。でも、いつか俺と戦えるくらいには強くなってもらわないと困る。できれば早いうちに。


戦いたい。


殺したい。


でも、ジルは殺さない。


あいつは友達だ。親友だ。


正直、ちょっと変な感じはするけどな。


なにしろ、俺はあいつより二十も年上なんだ――精神的には、だけど。


でも、大人と友達になる方がよっぽど変だから、これでいいってことにしとく。


今、俺はジルの家の玄関先に、ジルと並んで座っている。


「なあジル、お前んち、牛いる?」


「うん、なんで?」


「牛乳好きなんだよ。ちょっと買ってもいい?」


今は金を持ってないけど、家に帰って父さんに頼めば、たぶんもらえる……。


くれるか?


「牛乳はあるけど、お金なんて払わせないよ……」


「それ、お前が決めることじゃないだろ。たぶん親父さんが決めることだ」


「わ、私がタダで持ってくるから……」


「それが嫌なんだよ」


「もう十分もらってるもん……」


「そうかもしれないけど、農場はお前の親父さんのだろ。俺、親父さんに何かあげたか?」


「……私の幸せ?」


……


深くため息をついて、眉間をつまむ。


「そういうクサいこと言うのやめるって約束するなら、タダでもらってやる……」


「でも本当だもん! 私が幸せならお父さんも幸せで、シリアンは私を幸せにしてくれるんだから!」


ジルを押しのける。本気で押したわけじゃない。


「行け」


「うん」笑いながら、牛乳を取りに歩いていく。


なんで……。


なんで俺、こんなににやけてるんだ……。


それに、なんで顔がこんなに熱いんだ?


その二


数分後、ジルが牛乳のたっぷり入った木のマグを持って戻ってくる。


「お待たせ!」そう言って、俺の隣に座りに来る。


「ありがと」隣に座るジルから、マグを受け取る。


「でも、もうすぐ行かなきゃ……お父さんに、麦を全部刈り取ってこいって言われてて」


「俺も行くよ」牛乳を一口飲みながら言う。


牛乳は生乳だ。中世なんだから、まあ普通なんだろう。気にはならない。前世で農場を持ってたときも、生乳は飲んでた。味は同じだしな。


「来なくていいよ……」


「いや、いいって」立ち上がりながら言う。「どうせ暇だし、行こうぜ」


「シリアンが働くことないのに……」


「やりたいんだよ。ほら行くぞ、これはお願いじゃない」


「うん……」


……


少しして、麦畑に着く。俺はまだ牛乳を持って、ちびちび飲んでいる。もう片方の手には鎌。


「これ、鍛錬にもなるぞ」


「どうやって?」


「チキン・シックル・コンバットっていう戦い方があってな。二人とも鎌を持ってるし、ちょっと教えてやれる」


「何その名前? なんでそんなの知ってるの?」


「……何も聞くな。とにかく、この戦い方の肝は、鎌の形をうまく利用するところだ。まあ見てろ」


牛乳のマグを置いて、麦を小さく束ねてから一歩下がる。


それから束に向かって踏み込み、鎌でまず引っかけて、そのままきれいに刈り取る。ついでに収穫も済む。


「こんな感じ」牛乳を拾い上げながら言う。


「す、すごい!」


「そこまでじゃないけど……まあいい、やってみるか?」


「う、うん、お願い!」


「俺がやった通りにやれ」


「わ、わかった」


ジルが麦の茎を小さく束ねて、一歩下がる。


それから踏み込んで、まず麦を引っかけ、鎌で束のほとんどを刈る。全部じゃないけど。


「あぅ……」ふくれっ面で言う。


「練習あるのみだ。俺が残りを刈ってる間、続けてろ」牛乳を一口飲みながら言う。


「は、はい!」


本当に一生懸命だな、こいつ。


その三


日が沈みかける頃には、今日やるつもりだった二エーカー分の麦は、ほとんど刈り終えている。少しだけ残して、ジルが練習を続けられるようにしておいた。


「お、おい――」二十束くらいの麦を抱えて、納屋の中にいるジルの親父さんのところへ運びながら、よろよろと言う。「ちょっと持ってくれません?」


くっそ、臭い……。


「心配すんな、任せとけ」ジルの親父さんが、半分くらいの束を受け取って、どこかへ置きに行く。「なあ坊主、手伝いはありがたいんだが、夜まで働いてないで、その、遊んだりとかさ? 子供らしくしてたらどうだ?」


「働くのは苦じゃないですよ」残りの束を抱えて後をついていきながら、笑って言う。「正直、働いてると時間があっという間で、楽しいんです。それにジルもいるし、ちゃんと楽しんでますよ」


親父さんは自分の持っていた束を、俺が運んできた残りと一緒に干す場所に置き、俺も同じようにする。


親父さんがため息をついて言う。「それがお前の子供時代の過ごし方なら、それでいいさ。俺もガキの頃はそんなだったしな。ずっと動きっぱなしで」


納屋を出て、ジルのところに戻ろうとする。


「待て」親父さんが俺を呼び止める。「礼だ」そう言って銅貨を何枚か取り出し、俺の手に握らせる。


「いいですって」そう言って、銅貨を親父さんの手に戻す。「それより、牛乳をもう少しください。子供が金なんて何に使うんですか?」


「お、おう……そうだな。もっともだ」親父さんは銅貨をポケットにしまい、俺の牛乳を取りに歩いていく。


いい納屋だな。


手作りにしては、けっこう大きい。十分役目を果たしてる。


納屋に入ってきていた牛の一頭に近づいて、なでてやる。


ここの動物はみんな放し飼いだ。そこら中に動物がうろついてるから、こいつがこの家の牛なのかもわからない。もちろん、遠くに行かないように、数キロ先でぐるっと柵に囲まれてはいるけど。


「いい子だ……」


それにしても、どうやって牛を捕まえてるんだろうな。大事にされてるから、自分から入ってくるのかもしれない。餌の時間に一、二頭連れてくるだけかもしれないし、どっちでもいいか。


親父さんが、牛乳をしまってある場所――いや、乳を搾る場所か、正直よくわからないけど――から出てくる。


「ほら。今日は手伝ってくれてありがとな、坊主」


「ジルのこと、ちゃんと育ててくださいよ」


「言われるまでもないさ」


「じゃあ、また」


その四


「戻ったぞ」練習中のジルの背後から言う。


「わっ!」ジルが悲鳴を上げて振り向き、危うく鎌で俺を斬りそうになる。


「あ、危ねえ! 殺す気か!」


「ご、ごめん……びっくりしたの、そ、外ちょっと暗いし……」


「ああ、わかってる、悪かった……」ため息まじりに言う。「で、できるようになったか?」


「えっと……ま、まだあんまり……」


「ふーん。わかった、じゃあ明日またやろう」


「あ、明日じゃ嫌! 今日できるようになりたいの!」ふくれっ面で言い返してくる。


なんで大声出すんだ?


「あんまり遅くまで起きてると、親父さんに怒られるぞ。てか、俺もそろそろ帰らないと。うちの親、遅くまで外にいるの嫌がるんだ」


「あ……う、うん……」頭の後ろをかきながら言う。「か、帰っていいよ……大丈夫、できるまで一人で練習するから」


「親父さんはそれでいいって言ってるのか? それより、本当に一人で大丈夫か?」


「ちょっとだけ……」


「わかった、信じる」そう言って、背中を軽く叩く。「また明日な、ジル。気をつけろよ」


「う、うん!」すぐに一人で練習に戻っていく。


ジルって、ほんと他にいないタイプだよな。


かっこいいと思ったってだけで、ここまで本気で鍛える奴なんて、そうはいない。


こんなこと考えるのは変だけど、あいつ、俺のこと好きなのかもしれない。


だって、それ以外にここまで頑張る理由あるか?


……いや、たぶん俺が友達だからってだけだ。親友だから。


なんで急にそんなこと考えたんだ?


恋。


みんな、それが魔法みたいな、素晴らしいものだって信じ込まされる。


それから、初めて恋をする。


それから、一生一緒にいると思ってた相手に浮気される。


それから、そいつが「親友」と浮気する。


それから、そいつがお前の犬を殺す。


それから――


これ以上考えるのはやめだ。


もう考えたって意味がない。


あいつらは、みんな死んだ。


恋なんて大嫌いだ。


その五


あれから数週間。その間に、柔術と極真空手をもう少し教えた。


暇だ。


で、ジルはどこにいるんだ?


一時間くらい前には、待ち合わせ場所に来てるはずだったのに。


待ってた方がいいか?


……いや、農場で何かやってるなら、手伝いに行けばいい。


ジルの農場に向かって走り出す。


前世でも、警察に追われてないときは軽くランニングしてた。悪くなかった。マラソンで五位になったこともある。特に自然の中を走るのが好きだった。景色を楽しみたいから、速すぎないペースで。


すぐに農場に着いて……。


なんで納屋に騎士がいるんだ?


「――新しい法が成立したため、王宮の法廷に出頭せねばならん!」騎士の一人が言う。全身鎧だけど兜はかぶってない。他の連中も同じだ。


「いや、馬鹿げてる。新しい法ができたなんて聞いたこともない!」


少し離れた隅で見ているジルのところへ行く。


「どれくらい揉めてる?」


「えっと……一時間くらい……行けなくてごめんね、お父さんが心配で」


「いいよ」


連中はしばらく言い合いを続ける。割って入りたい気持ちもあるけど、五歳で――いや、たぶん六歳か――国の敵になるのは、さすがにごめんだ。


「よし、もういい!」騎士がジルの親父さんの腕をつかむ。


ジルがすぐに騎士に駆け寄って、親父さんから引き剥がそうとする。


割って入るか?


いや、まだだ。


「は、離して!」


「このガキ!」


騎士がジルを地面に蹴り倒し、親父さんを馬車の荷台に放り込む。


「出すぞ!」そいつが言うと、他の連中も一斉に馬車へ駆け込む。


すぐに飛び出して止めようとするけど、連中はもう走り出してる。しかも速い。


「ここにいろ!」ジルに言う。もう目に涙が浮かんでるのが見える。きっと、何もできない自分が悔しいんだろう。


馬車を追って走り続けるけど、向こうの方が速い。


だからって、止まる気はないけどな。


すぐに、誰かが馬車の後ろから顔を出す。石を拾って頭に投げつけ、気絶させる。そいつが馬車から転げ落ちてきたから、石と一緒に拾い上げ、石はポケットにしまって、走り続ける。さすがに少し遅くなるけど。


すると連中は馬車を止めて、一人ずつゆっくり降りてくる。


最後の一人が、ジルの親父さんの喉に剣を突きつけて降りてくる。


親父さんも気絶させられてるみたいだ。


「お前はうちの奴を持ってる……こっちはお前のとこのを持ってる」一人が言う。どう見てもリーダーだ。


「お前ら、騎士じゃないだろ?」


「バレたか……俺たちは奴隷商だ。カロバンは市場で高く売れるんでな。こいつは金になる」


「へえ……」


連れてきた奴を地面に下ろし、喉に足を乗せる。


「そっちが俺のを殺したら、俺もそっちのを殺す」


「生意気なガキだな、おい」


「じゃあ、交換といこうか?」


「……いや、やめとく」笑いながら言う。


「このカロバンの方が、お前が持ってる奴よりよっぽど価値がある。そいつはどうせ馬鹿だったしな」


「そうか……わかった」


笑いながら、そいつの気管を踏み潰す。湿った砕ける音が耳いっぱいに広がる。


この感覚、懐かしいな。


「そっちは殺せないんだよな、そいつ」


連中に向かって歩き出す。


「でも、お前のことは殺せるぜ」


偽騎士どもが全員、剣を構えて突っ込んでくる……遅い、弱い、バラバラだ。父さんとは比べものにもならない。全員の頭上を飛び越える。この世界だと、まじで高く跳べるな。前世なら、この年齢での世界記録が取れてただろう。


それにしても、ここまで考える余裕があるってのがすごい……これなら楽勝だな。


連中は互いにぶつかり合う。一人は鎧ごと胸を刺され、もう一人は顔をざっくり斬られる。


「馬鹿ばっかだろ?」リーダーから数歩離れたところに着地しながら、得意げに言う。


「ああ」リーダーがジルの親父さんを地面に放り出し、剣を俺に向ける。


「だが、俺はあいつらとは違う」


一人が背後から剣で突っ込んでくるけど、かわすと、そいつはそのままリーダーに突っ込む。ただ、リーダーの鎧はかなり頑丈らしく、ほとんど効いてない。


「この馬鹿が!」


リーダーがそいつの首をはねる。


「ずるいな、それ俺がやりたかったのに……」


「次はてめえの首だ!」


リーダーが突っ込んできて、俺の頭めがけて剣を振る。でも、本当に意味がわからない。なんでどこを狙うか宣言するんだ?


かわして足払いを狙うけど、相手は俺の倍の体重で、しかも鎧を着てるのを忘れてた。びくともしない。


次に剣を俺の頭めがけて突き出してくる。両手で刃をつかむ。体重が俺の倍もない相手なら、これでうまくいくんだけど……こいつは倍あるから、なんとか押さえるのがやっとで、その間にも手が切れていく。


転がって逃れ、走り出す。でも振り向きざまに、ポケットの石をメジャーリーグのピッチャーみたいにそいつの喉に投げつける。


剣はまだ地面に刺さったままだ。


「全員――ゲホッ――つ、捕まえて殺せ!」咳き込みながら、剣を引き抜こうともがきつつ、甲高い声で叫ぶ。


ミッキーマウスか?


残りの連中が全員、俺を追いかけてくる。ケガした奴らまで……なんでそこまであいつを信じるんだ? 頼むから気づけよ。あいつ、キレただけで仲間を一人殺したんだぞ。


走り続けてたら石につまずいて、地面に頭をぶつける。


「捕まえたぞ、ガキ!」一人が俺の頭に剣を突き立てようとする。なんとか転がってかわす。それから振り向いて目に砂をかけると、そいつは他の連中と同じく馬鹿だから、目をこするために剣を落とす。俺は刃先を持って剣を拾い、柄でそいつの顔をぶん殴る。鼻が砕けて、少しのけぞる。


それから立ち上がって剣を持ち替え、柄を握る。その剣をそいつの頭に深く突き刺す。即死だ。


「おいおい……命令は俺を殺すことだろ……だったら殺せよ」頭から剣を引き抜き、構えながら言う。


「や、やれぇ!」


全員が突っ込んでくるけど、もう終わってる。


父さんに教わった通りに、一振りで全員の首をはねる。血が飛び散り、鉄くさい血の匂いが鼻をつく。


最高だ。


死体を片付ける必要すらない――中世なんだから。誰がやったか調べる鑑識なんてない。それに、正当防衛だ。


剣で人を殺すのって、けっこう楽しいよな?


リーダーのところへ歩いて戻る。そいつはまたジルの親父さんの喉に剣を突きつけている。


「それ以上近づくな!」


「は? どうせ殺さないだろ。もう証明済みじゃん」


「本当にそう思うか、ガキ? もう失うもんなんて何もねえんだよ」


「一理あるな」


「で、どうしたいんだ? 黙って行かせろってのか? こいつを奴隷として売る代わりに、今日のことは忘れろって?」


「まあ……そうだな、そういう計画だ」


「わかった、行けよ」


「は?」


「ああ。行け。連れてけ。どうでもいい」


「お、おい……変な真似はしないだろうな?」


「しない」そう言って、持っていた剣を投げ捨てる。


「わかった……」


リーダーはジルの親父さんを馬車の荷台に乗せ、走り去る。


馬鹿だな。


馬車に駆け寄って中に飛び込み、そいつの首を絞める。剣は足で押さえつけておく。


「なんで信じたんだ? どう見ても、親父さんを放させるための罠だろ……それで仲間を馬鹿呼ばわりか? 笑わせるな……チッチッチッ」首を振りながら言う。


「は、離……」俺を引き剥がそうとするけど、血が回らなくなって、もう力が入ってない。


「お前、報いとして奴隷に売られないだけ運がいいと思えよ。死ぬよりひどい運命だぞ? まあ……」


すぐに気管を潰してなかったら、たぶん逃げられてたな。


ため息をついて、まだ気絶してるジルの親父さんを抱えて、馬車から飛び降りる。


くっそ、重い……。


でも、けっこう楽しかった。


まあ、本物の相手じゃなかったけどな。興奮できるほど強くもなかった。


いや、殺しで本当に興奮してるわけじゃないけど……言いたいことはわかるだろ。


その六


すぐにジルの農場に戻ると、ジルが俺に気づいて、すぐに駆け寄ってくる。


泣いてた……のか?


「お、お父さんは大丈夫? 何があったの?」俺の肩に担がれた親父さんを見て、慌てて言う。


「奴隷商だ。親父さんを売ろうとしてた。カロバンは奴隷市場で高く売れるらしい。でも親父さんは大丈夫だ、心配すんな」そう言って、ジルの目から涙を拭ってやる。


ジルの頭から少し血が出てる。たぶん、さっき蹴られたときだ。


血。


……


「大丈夫か、ジル?」唇をなめながら言う。


「う、うん……」セーターの袖で涙を拭いながら言う。


「よかった」


ジルの家まで歩いて中に入り、うめき声を漏らしながら、親父さんを椅子に座らせる。


太ってるわけでもないのに、とにかく重い。


「休ませとけば大丈夫だ」


「……シリアンは大丈夫なの?」


「ああ、大丈夫だ。心配すんな」


「じゃあ、なんで服に血がついてるの?……顔にも」


「親父さんを取り返すのに、実際に戦わなきゃいけなかったんだよ」


「ねえシリアン……強いのはわかってるけど、ちょっとくらいケガさせられてないはずないよ」


なんでこいつは、こんなに俺のことを気にするんだ?……


「で? ケガしてたとして、何なんだよ?」


「さっき、私の頭のちょっとした傷を心配してくれたでしょ。なんで私が同じことしちゃだめなの?」


「……まあ……」


それを言われると何も言えない。


「わかったよ」


両手を見せると、ジルが息をのむ。


剣を二回つかんだときの傷から、手のひらに血があふれている。


「見た目ほどひどくない……」


「ど、どうしてこんなことに?」


「剣をつかんだら、そりゃ切れるだろ」


「治せるよ……」


「魔法使えるのか?」


「ううん、使えない……」


ジルが近づいてきて、俺の手を取り、手のひらにキスをする。


「な、何してんだよ!?」


慌てて手を引っ込める。でも、もう一度見ると、傷が消えている。それどころか、体中が……生き返ったみたいだ。


「ど、どうやって?」


「カロバンは特別なんだよ」ジルがかすかに微笑む。「いろんなことができるの」


だから、あんなに高く売れるのか。


でも、なぜかジルの髪の青が少し薄くなっている。


「えっと……なんで髪の色が変わったんだ?」


「えっとね、カロバンの髪はマナに覆われてるの。こういうことをすると、少しだけマナを使うんだ。でも大丈夫、しばらくしたら戻るから」


一瞬、ここがファンタジーの世界だってこと忘れてた。


「そ、そうか……えっと、俺そろそろ帰るわ。またな、親父さんのことよろしくな」


「うん、任せて」


もう泣いてなくて、よかった。


「じゃあな!」そう言って、ジルの家を飛び出す。


「バイバイ!」ジルが手を振る。


――おまけ その四の少しあと――


――ジリア視点――


疲れた……。


シリアンの言う通り、もう寝て、続きは朝にすればよかった……。


刈った麦の束と鎌を持って納屋に行き、麦を他の束と一緒に干して、鎌を他の道具と一緒に片付けて、今日は納屋に鍵をかける。


お父さんはもう家の中に――


「ぐっ!」


だ、誰かに首を絞められてる!?


「久しぶりだなぁ、農家のガキ? 今日はあのガキ、助けに来てくれねえぞ? 俺たちがどれだけ強くなったか見せてやろうぜ、アマル」


「おう」


お、落ち着いて……。


小さい方の子にお腹を蹴られる前に、息ができるくらいまで大きい方の子の腕を引き剥がして、膝で蹴りを受け止める。で、でも、すごく痛い。


「お前なんか、今でも雑魚なんだよ!」


床に投げ飛ばされて、顔を踏みつけられそうになる。でも、その足をつかんで思いきりひねって、体ごと引き倒す。それから体重をかけて、仰向けに押さえ込む。シリアンに教わった通りに!


小さい方の子が私の顔を蹴ろうとする。ぎりぎりで横に避けて、大きい方の子から離れる。


「やっちまえ、アマル!」大きい方の子が、ゆっくり起き上がりながら叫ぶ。


小さい方の子が向かってきて、足を払おうとする。でも、私は跳び上がって、顔に蹴りを入れる!


着地すると、その子がよろめく。すぐに懐に入って、お腹にパンチ、次に胸、最後にあごに蹴りを入れると、その子は床に倒れる! シリアン、きっとすごく褒めてくれる!


「こ、この化け物! また来るからな!」大きい方の子が、友達を引きずって、足を引きずりながら言う。


「こ、来ないで!」小石を蹴って頭の後ろに当てると、その子はもっと速く逃げていく。


で、できた!


お父さんに聞こえてないといいけど……。

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