転生
その一
目を覚ますと、光がまぶしすぎた。目を開けていられないくらいだ。
なんで痛くないんだ?
なんで死んでないんだ?
逮捕されたのか?
なんでこんなに体が軽いんだ?
……
めちゃくちゃハイだ……。
目が光に慣れてくると、二人の巨人が見えた。
汗だくの女が、俺の上に覆いかぶさるようにしている。見たところ二十代前半。焦げ茶色の髪で、今まで見たどんな女よりも綺麗だった。まあ、俺の基準はそんなに高くないけどな。
その隣には、同じくらいの年の男が立っている。金髪で、なんというか、全身から強さがにじみ出てる。
待て、俺、この女に抱き上げられてるのか?
あの夢みたいに、俺を食う気か!?
「――××――××――××××××」女が微笑みながら、俺を見下ろして言う。
今、何て言った?
聞いたことのある言語じゃない。
頼む、食べないでくれ!!!
「――×××――××××――×××××××」男も微笑みながら応える。
女が俺を男に手渡す。
抗議しようとするが、できない。口から出てくるのは意味のない声だけだ。
「ば、ばぁ、ばぁ……」
手以外は何も動かせない。腕を持ち上げて自分の手を見ることすらできない。
男が微笑みながら、指を俺の手に近づけてくる。そして、なぜか俺は本能的にその指を握った。
俺の手が、俺の手じゃない。
赤ん坊の手だ。
俺は、生まれて初めての産声を上げた。
サルビアでぶっ飛んでる!
その二
あれから一か月くらい経った――少なくとも、そんな感じがする。昼と夜を数えてたわけじゃないけどな。
これ、たぶん現実だ。
ハイになってるんじゃない。現実だ。ガチの現実。
俺は死んで、赤ん坊として生まれ変わった。
でも、なんでだ?
なんで俺なんだ? こんなの、俺にはもったいない。
まあいいか。受け入れた方が楽だろ。どうせ何も変えられないんだし。
それに、ここがまだ地球なのかもわからない。そもそも今、何時代なんだ? 家の造りからして中世っぽいし、電気もどこにもない。でも、母さんと父さんが着てる服は、どうもその時代に合ってない。
だって、二人ともガチでブランドものの、色つきの服を着てるんだぞ!
工場でもあるのか???
親父なんか、カーハートのパーカーみたいなのを普通に着てるし。
単にうちが金持ちなだけか?
わからん。今は考えないでおこう。今やるべきなのは、こいつらが話してる言葉を覚えることだ。
赤ん坊になったんだし、覚えるのも楽だといいんだけどな。
どうやら、もうしばらくお前と話すことになりそうだ、友よ。
その三
生まれてから半年くらいが経った。
この頃には、両親の言ってることがほとんどわかるようになった。全部じゃないけどな。まだ聞き取れない単語もある。でも、いいスタートだ。二人の会話を聞いて言葉を覚えてる。赤ん坊でよかったな、ほんと。
それより、いい知らせがある。最高の知らせだ。
ハイハイができるようになった。
両親もベビーベッドから出してくれるようになって、家の中を這い回れる。今は母さんの膝の上に座って、二人の話を聞いてる。
「次からはもっと気をつけてね。大怪我してたかもしれないのよ。特に今は[××××]グリーンウルフの季節なんだから!」母さんが言う。声には心配がにじんでるけど、その目には変わらず愛情が宿ってる。
その目を見ると、何かを感じる。怒り? 悲しみ? よくわからない。ただ、前世で愛ってやつが俺に優しくなかったことと関係があるのは確かだ。
グリーンウルフ、ね。うんうん、なるほど。
「心配いらないって、ゼナ」父さんが笑いながら、からかうような声で言う。「あんな連中、群れごと相手にしたって汗ひとつかかないの、知ってるだろ?」
「それでもよ、マック――」
「心配いらないって」父さんが笑い混じりにさえぎる。
俺は母さんの膝から滑り降りて、探検しに這っていく。
ここはまだ地球なのかもな……。ちょっといじられたバージョンってだけで。ファンタジーの中世みたいな。
いやいやいや、たぶん「グリーン」を別の単語と聞き間違えてるだけだ。「アジアン・ウルフ」って言ったとか。
それか、「アフリカン・ウルフ」とか。知らんけど。適当に言ってるだけだけど。
それに、父さんは騎士か何かなんだろう。傭兵かもしれない。よくわからないけど、剣を使うのは知ってるから、単にその道のプロなんだろう。害獣駆除とか? 知らんけど。
でも、強い。
本当に強い。
大きくなったら一回戦ってみたいけど、中世だし、それまでには死んでるだろうな。
それまで生きててくれることを祈っとくか。
剣の使い方、教えてくれないかな。それは、マジで興味ある。
前世じゃ師匠なんていなかった。格闘技は完全に独学だ。本は読んだけど、あんなのほとんど数に入らない。
師匠がいたら、いいだろうな。
考えてみれば、本物の剣を使えたら最高だよな?
うおお、考えてみたら、誰かの首をはねたらめちゃくちゃかっこいいじゃん。いや、誰かを真っ二つにするのもアリだ! よし、それが計画だ、絶対にやってやる!
ベビーベッドまで戻って這い上がろうとするが、手が滑って床に落ち、ゴンッと頭をぶつけた。
両親が二人そろって、すぐに駆け込んでくる。
前世の母親よりは、間違いなくいい親だ。それでも、あんまり心配しすぎないでほしい。いい親でも、うっとうしいもんはうっとうしい。
「シリアン、大丈夫!?」母さんが俺を抱き上げる。声は焦ってるけど、俺を驚かせないように落ち着こうとしてるのがわかる。
おい、キスすんなって。俺が大人の男だってわかんないのか?
まあ、二人とも精一杯やってるんだよな。転生してなかったら、床で大泣きしてただろうし。すぐ来てくれたのは、よかったんだろう。
「ほら、治してあげるね……」今度は少し小さな声で、母さんが言う。
今、何て言った? また聞き間違いか? いや、そんなはずはない。
母さんが俺の後頭部に手を当てて言う。「ヒール!」手からかすかな緑の光が漏れて、痛みがすっかり消えた。
「ほら、もう大丈夫でしょ?」母さんが微笑みながら俺を見下ろす。
は?
「お、初めてのたんこぶか。大きくなったら父さんそっくりになるぞ」父さんが笑いながら言った直後、母さんがその後頭部をはたいた。
はああ!?
その四
一、二週間後――もう正確な日付なんてどうでもいい――俺はまた母さんの膝の上で、二人の話を聞いてる。だいぶ語彙も増えて、ほとんど理解できるようになった。そして、会話の途中で、ようやく実感した。
聞き間違いじゃなかった。
ここは、もう俺の知ってる地球じゃない。
「今日はどうだった?」母さんが聞く。
「上々だよ。ボガト王国の近くの森で、でかいマナベアを仕留めてきた」父さんが笑いながら言う。
「ボガト王国? 昔のパーティーの誰かに会った?」
「ああ、実はな。カリが杖にエンチャントをかけてたよ」昔の仲間の話ができて、父さんは嬉しそうだ。
俺は母さんの膝から滑り降りて、ベビーベッドまで這っていく。
全部、処理しきれない……。




