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プロローグ

よう、友よ。


俺は二十六歳の連続殺人鬼だ。


それ以上、何を言えばいい?


自分が世界一の化け物だとは思ってない。まあ、化け物には違いないけどな。


殺すのは気持ちいい。どうしようもないんだ。普通の人間にだって、どうしようもない性癖ってもんがあるだろ。俺のそれが殺しだったってだけで、何が悪い?……いや、なんでもない。


で、今の俺は物陰に隠れてる。史上もっとも指名手配されてる連続殺人鬼の一人で、死体の数は百五十三――いや、百五十二だ。最後の一人はノーカンで。


わかってる、わかってるって。俺はすごい。銃なしでの殺人数、歴代一位だぞ。ほら、褒めろよ。マジで誰も褒めてくれないんだから、褒めろ。


でもまあ、殺人鬼うんぬんは置いといて、たまには普通のこともしたくなるんだよ。動物園に行くとかな。


というわけで、動物園にいる……。


今はベンチに座って、ライオンの檻を眺めてる。ライオンってかっこいいよな。動物は昔から好きだったけど、俺の中じゃライオンが一番だ。犬と同じくらい。犬もマジでかっこいい。


猫も嫌いじゃないぞ? 嫌いとかじゃないけど、小さい猫に引っかかれるくらいなら、小さい犬に噛まれる方がマシってだけ。それに、大きい犬は噛まないしな。


……


退屈させてたら悪いな。でもこれ、一方通行の関係だからさ。お前が本気で聞いてくれてるって想像しながら、だらだら喋るのが楽なんだよ。返事してくれたら最高なんだけどな……。


抗うつ剤飲むよりはマシだ。


一回試したことあるんだけど、全然効かなかった。完全に詐欺。まあ、俺がうつじゃないからだろうけど。


あと悪いけど、お前もどうせ一週間で消えるんだろうな。今までの友達みたいに。


現実的に考えて。


……


俺って本当に負け犬だな。


そのとき、何やら騒がしい声が聞こえてきた。


「あはは、写真撮って!」と女の子が言う。


「わかったわかった、もう撮ってるって」と男の子がスマホを取り出しながら答える。


「ちょ、ちょっと待って……」ともう一人の男の子が、不安そうな顔でどもりながら言う。


突然、すさまじい咆哮が空気を引き裂き、悲鳴が続いた。


ライオンが檻から逃げ出したんだ。どうせバカなガキどもが、女の子にいいところ見せようとして柵をよじ登ろうとしたんだろう。


俺はガキどもに向かって全力で走り出す。


これが、ずっと夢見てた幕引きってやつか?


「逃げろ!」


動物園中に響き渡るくらいの声で吠えた気がする……。


かっこよくないか? 吠える。ライオンみたいに?


ガキどもは何も言わずに振り返って、全力で逃げていく。


うわ、このライオン、めちゃくちゃキレてるな……。


腹が減ってるんだろう。


それか、縄張りを守ってるだけかもな……。


なんで俺が気にしてるんだ?


どっちにしろ、俺は死ぬ。


ポケットナイフを取り出し、ライオンの目めがけてまっすぐ投げつける。刃が届くより先に、重い前足が俺の顔を薙ぎ払った。爪が頬に深く食い込み、右目まで貫いて視界が消える。血が噴き出す。


痛いなんてもんじゃない。


関係ない。ナイフはライオンの眼窩に深々と刺さった。すかさず蹴りを入れて刃をさらに奥へ、脳まで押し込もうとする。


だが、あっさり脚を払われた。爪が太ももに食い込んで、熱したナイフみたいに肉を裂いていく。


銃を持ってくればよかった。


遠くに人だかりができ始めて、一部始終を見物してる。


いや、なんで動物園に銃なんか持ってくるんだよ。


……


てか、なんで警備員がまだ来ないんだ?


来てほしいわけじゃないけどな。


まあいい。どうせ死ぬなら、見物人にショーくらい見せてやるか。


今気づいたけど、人だかりの中に子供が何人かいる。目の前で人が死ぬところを子供に見せる親とか、どうかしてるだろ。


まあいい、俺は父親じゃないし、知ったことか。それより、通背拳でいけるはずだ。


腕の力を完全に抜き、鞭のように手を打ち出してライオンの頭を叩く。乾いた破裂音があたりに響いた。


ライオンが痛みに鳴く。今のは純粋に痛みを与えるための技で、主に相手を怯ませるのに使うものだ。


だが、くそ、それでも脚を離しやがらない。


蹴り飛ばそうとするが、びくともしない。そのとき、ライオンが体勢を変えて、俺の足に思いきり噛みついた。


「ぐあああっ!!!」


か、考えがまとまらない……。俺、頭の中でもどもってるのか? 肩を撃たれたときよりずっとひどい、ずっと、ずっとひどい……。


あ、はい、死んだわ!


奴の牙が、膝の裏の膝窩動脈にまっすぐ突き刺さる。


力が抜けていく。俺はアスファルトの上に倒れ込み、自分の血だまりに横たわる。


まさか動物園で死ぬとはな。よりによって今日。


でも、こういう死に方も悪くない。


ライオンに殺されるなんて、なかなかかっこいい死に様だ。


アフリカに行く手間も省けたしな。


にしても、なんでこいつ、噛む場所を正確にわかってたんだ? ただ運が悪かったのか、それとも何なんだ?


お、警備員のお出ましだ。ちょっと遅かったけどな。


「大丈夫ですか!?」


見りゃわかるだろ!


声も出せない。


頼むから誰か、さっさと喉をかき切ってくれ!


もう耐えられない!!!


あ……。


えーと……。


痛みが消えた。


大げさに騒いで損したな。


……


死ぬ直前に人生が走馬灯のように駆け巡るって、本当だったんだな。


ああ、俺は間違いなく地獄行きだ。


思ってたより、ずっと化け物だったんだな、俺。


……


あれ、俺、豪邸に住んでるじゃん。最高。


てか、なんで俺の家にこんなに人がいるんだ?


で、今度はドラゴンと戦ってる……。


……


くそ、寒くなってきた。


もう少しだけ、夢を見ていたいな……。

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