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第8話:【黄金の盾商会】の冷笑と、忍び寄る蟻地獄

「ガザルさん、嫌なら明日の薬はありませんよ? 街の噂じゃ、お宅らもう破産寸前だそうじゃないですかぁ」

その部屋の片隅で。

ただ一人、アルノルトだけが静かに、黒革の特製手袋をはめた手で、自分の額の冷や汗を拭った。

彼の眼鏡の奥の瞳は、いつも通りの冷徹な色――ではない。

その奥にあるのは、一歩間違えれば全員で崖から転落する、ギャンブラーのそれに近い危うい光だった。

アルノルトは懐から、銀の羽根ペンを抜き出す。指先は、恐怖と武者震いで小さく震えていた。

「……表のルートを合法的にロックし、裏のフロント企業から廃棄在庫を流して利権を毟り取る。それは、私が宮廷で嫌というほど見てきた『大資本が地方組織をハメ殺す時の定石』です」

アルノルトは不敵に笑おうとしたが、その口元は引きつっていた。

「レナード・バルトマン。私のマクロ計算にバグ(見落とし)があったことは認め、泥水もすすりましょう。……ですが、あなたが『完全に勝った』と確信して、その**非合法の証拠(廃棄在庫の契約書)を、自らこちらの机の上に差し出してくれた**。その選択だけが、私の唯一の勝機だった」

「な、何だと……?」

闇商人が眉をひそめた瞬間、アルノルトの背後に会計監査魔法の青い数式が、まるで壊れかけの防壁を補強するように激しく展開された。

「……リーザさん、ガザル氏。闇商人がこの契約書を出す前に別の手を打っていたら、私たちのギルドは本当に明日、無条件で崩壊していました(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。これは、私の人生最大の『賭け』です」

アルノルトは、震える銀の羽根ペンを、契約魔法書に向けて真っすぐに突き立てた。

「ですが、私は賭けに勝った。――さあ、奈落の底へお付き合いいただきましょう。次回、その契約書の『数字の前提』を、根底からひっくり返して差し上げます」

(つづく)

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