プランBに変更
いつでも予定外のことは起こりうる。意志の強い者は強引に突き進む。
学園敷地内の奥に部室棟はある。
奥と言ってもグラウンドには近いから運動部にとっては便利な位置だ。
かなり古い建物で四階建てのうち三階から下はかつては教室として使っていたらしい。
その四階最奥に生徒会室はある。その手前は新聞部部室。さらにその手前に有象無象のミニ同好会が押し込められた同好会室があるのだ。
僕たちの部屋――同好会室は生徒会室とは近い場所にあった。
僕たちは同好会室の前を素通りし、生徒会室の前に立った。先頭は舞子だ。何となく緊張している様子が窺える。
中等部の生徒会室は中等部の校舎にあったから中等部時代中等部生徒会長を務めた舞子がここを訪れるのは下級生代表として高等部の先輩の部屋を訪れるのに等しかっただろう。
高等部入学生には理解できないだろうが中高一貫生にとって先輩は雲の上のような存在だった。いまだにしっかりとした上下関係が植えつけられている。
舞子は胸にこぶしを当て下を向いていた。
しばし時間が止まる。
僕は察してしまった。
舞子が振り返る。
「お腹が痛くなってきた……」
その顔に感情はともっていない。平常時の顔のまま体調不良を訴えるのだ。
「――保健室に行ってくる」
クールビューティーのまま舞子は僕と山縣さんを通り越してもと来た道を去っていった。
「これはプランBに変更だね」
いつでも山縣さんは動じない。ある意味最強のひとだった。一応舞子の背中に向かって「お大事にー」と囁いたが。
引き返すこともせず、山縣さんは僕と二人で強行突破するつもりだ。その強引なところには頭が下がる。
「失礼します」
山縣さんはよく通る声を上げたかと思うと遠慮なく扉を開けた。生徒会に対してこういう態度がとれるのはほんの一部の生徒だけだ。
そこに何人か生徒会役員がいたが山縣さんの押しかけに対して真っ先に反応したのは二年生で書記をしている松前理世さんだった。今朝の米ばらまき騒動で明石会長を追っ払うのに四苦八苦していた人だ。ショートカットの吊り目の美人。
「山縣さん――何ですか!?」
「一つばかりお許しを得たくて参りました」
一つで済むはずがないのは松前さんもわかっているだろう。
「お許しを――」などという言い方は奥におわします会長さんに向けたものだろう。同学年の松前さんのことは眼中にない。
明石会長もそうだが、これが松前対策なのだと僕は思った。
「今朝の米ばらまき事件についてですが」
「あれを事件にしているのは新聞部と――」松前さんが僕を見た。「ミステリ研くらいなものでしょう」
「何らかの名称が必要だと思ったもので」ばらまき事件と称していると山縣さんは言う。
「あなた達新聞部が大ごとにしているのよ! ご丁寧にSNSサイトで細かく記事を書いて煽っているわね」
「そんな滅相もない」松前さんを通り越して生徒会長に向けて喋っている。
「――今日は新聞部ではなく一個人として来ました」
「ミステリ研として来た――という意味ね?」
「多くの生徒たちが知りたがっています」
「センセーショナルな書き方をするからよ。とかく人は報道によって操られる。情報操作ね」う、鋭いな。
「――ただ米を落としただけでしょうが」ふつうそう思うよね。
「ならば落としたひとはなぜ片付けないのでしょうか」
「後で片付けるつもりだったのに大ごとにされて名乗り出られなくなったのよ――きっと」
「あの鳥の糞から考察するに米をぶちまけたのは前日か前々日すなわち土曜日か日曜日だと思われます。片付ける時間的余裕はあったはず」
「何でそんなことわかるの? あなた――鳥の糞の専門家?」
「同好会の中には鳥の生態に詳しい人もいました。その人たちも今回の事件に興味を抱いております。事態を収拾させるには――この際とことん調べてその結果を生徒会から真相として発信するのが良いと思われます」
「そんなことを言って――単に新聞部とミステリ研が知りたいだけじゃないの」
僕もそう思うがここは黙っておこう。探偵助手は「語らない」。
時:米ばらまきがあった日の放課後
場所:部室棟、生徒会室
ここの登場人物
山縣杏菜 新聞部部員・ミステリー研究会会員
舞子実里 ミステリー研究会会員
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
松前理世 生徒会役員
その他まだ語らない生徒会長ら生徒会役員




