生徒会長 黒森麗愛
いつの世も、場の支配者は気まぐれで、何を考えているのかわからない。
自分で騒ぎを大きくしておいて、その収拾を自分たちがつける――と主張するのが新聞部いや山縣さんの常套手段だ。
それがわかっていて生徒会書記松前さんはいつも山縣さんに良いようにあしらわれる。
僕は少し松前さんに同情する。
この人――真面目で良い人なのだけれど、日々ストレスにさらされて可愛い顔が台無しになっている。常に目や眉を吊り上げそのまま固まってしまったようだ。
歳をとったらそれがたるんでシワになるのだろうな。苦労しているな。
「それで生徒会にどのような許可を得たいのですか?」突然奥から綺麗な声がした。
何というかアニメのお嬢様キャラが発するような声だ。
その発信者は奥のデスクに腰掛けていた。
背後の窓から夕刻の日が差して後光のように見える――僕には。
その人がこの御堂藤学園高等部生徒会長黒森麗愛さんだった。僕たちの学園の顔だ。
一言では表現できないくらいの存在感がある。そこにいるだけで老若男女を問わず誰もが目を奪われるだろう。
額出しセンター分けの黒髪ロングを肩や背中に下ろしている。この髪型が堂々とできるようになったのは黒森会長の功績だ。
かつて女子校だった我が学園はお嬢様学校と言われるくらい校則が厳しかった。
長い髪は三つ編みかシニヨンなど――とにかく綺麗に清潔に纏めねばならない。髪を染めるのももってのほかだった。それを公式行事以外自由にしたのだから学園にとっては革命だった。
生徒会長自らロングヘアをさらさらと下ろしている。目元涼しく鼻筋が通っていて小さなしっとりとした唇が絶妙に配置されている。
この美貌が学校案内のパンフレットに何年も登場している。中等部時代からだ。その姿は校風の清楚・清純・聡明にマッチしていてまさに学園の顔だった。
しかし――写真の姿が実物と同じとは限らない。こうして生徒会室で動く黒森会長はただの清楚清純な美少女ではなかった。
何というか――妖艶な雰囲気が醸し出されている。その麗しの目は常に相手を鑑定しているような――それこそステータスを見定めているような気配がして、僕などもしっかりと男の価値を値踏みされている――そんな気がするのだ。
今も山縣さんの後ろに隠れるようにして立っている僕を上から下まで遠い位置から見ている――気がする。
僕は股間に手を当てがいたい気持ちになった。
「ミステリ研といえば――」会長は明石さんだ。
「――舞子さんは来ていないのね?」そっちか。「――まだ体調が思わしくないのかしら」
「近くまで来ていたのですけれど」山縣さんが答えた。「お腹が痛くなって引き返しました」
「まあ――それは大変ね」
ちっとも大変だとは思っていなさそうな笑顔だ。
たしかに舞子は保健室の常連だ。昔から月に一度はお世話になっている。
しかし黒森会長は「まだ体調が――」と言った。おそらくは三月に舞子がずっと欠席していたことを慮ったのだろう。本人がいない場での微笑だと思いたい。
余程のことがない限り欠席しない舞子が中等部最後の三月の大半を欠席したことは周知の事実であるがその理由はよくわかっていない。
舞子自身は生理不順がひどかったと言うだけだ。げっそり痩せて綺麗なロングヘアをバッサリ切って再登校して来た時にはいろいろ憶測を呼んだが誰も追及しなかった。
あの推理マニアの明石会長はちっとも気にしていなかったが。
「このままにしておきますといろいろ憶測を呼んで――」山縣さんは舞子のことを言ったのではなく、米騒動の話だ。
僕は現実に戻った。
「――事態の収拾がつきかねます。つきましては私たちに調査のお許しをいただきたく参りました」
事態を複雑怪奇にしているのは明石会長と山縣さんなのだが、そこは誰もツッコまない。
「まずは――回収したお米を調べたいのです」
「もう美化風紀委員が廃棄したわよ」松前さんが口を挟んだ。「ゴミ漁りでもするつもり?」
「そのとおりです」山縣さんは即答した。「担当した美化風紀委員にも話を伺ってよろしいでしょうか?」
「美化風紀委員はヒマではないのだけれど」
松前さんが目くじらをたてたが黒森会長はにっこり笑うのだった。
「いいわよ――ねえ?」
会長が周囲を見回すとそこにいた生徒会役員たちは即座に頷いた。松前さんが天を仰いだのとは対照的だ。
「会長――」ため息をつく松前さん。「よろしいのですか? どのような結果になるかわかりませんよ」
僕もそう思うが仕方がない。明石さんと山縣さんが動き出してしまったのだから。
時:米ばらまきがあった日の放課後
場所:生徒会室
ここの登場人物
山縣杏菜 新聞部部員・ミステリー研究会会員
松前理世 生徒会書記
黒森麗愛 生徒会長
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
その他生徒会役員たち




