生徒会
語り手だって、ただ傍観しているわけではない。観察したことに考察を加えることもある。
「いいわよ。新聞部とミステリ研が調査を願い出て、生徒会が許可を出したかたちになるけれど。決して生徒会が依頼したわけではないことははっきりとさせておいて下さいね」
「そうですね」
まあそうなるよね。そこが黒森会長の落としどころと思われる。
ここで我が学園の生徒会について少し語ろう。それくらいは探偵助手が語っても良いだろう。
生徒会は生徒が自主的につくった組織――という体裁をとっている。美化風紀委員や学級委員をはじめとする各種委員が学校が生徒にさせているのとは意味合いが異なる。
生徒会長は高等部と中等部に一人ずつ。任期は高等部の場合十月一日から翌年九月三十日まで。中等部の場合は年度初めの四月から翌年度末の三月までとなっている。
この生徒会長は候補が複数の場合は選挙になるが、たいていの場合現職から後任への橋渡しがうまくいくのですんなりと決まる。
現会長の黒森麗愛さんは前任者に推薦されたわけではなかったが、前任者に立候補を名乗り出てそのまま決まった。
学校案内パンフレットのモデルもしているし、清楚・清純・聡明の我が学園校風にこれ以上合致する人はないとされたのだ。彼女を担ぎ上げたグループが強大であったこともある。
副会長以下役員は会長が選ぶかたちになっており現在の役員は黒森さんを担ぎ上げた強大なグループがそのまま務めている。
例外は松前書記だけだ。松前さんだけが前任の会長時代から生徒会にいる。一人くらい前任者がいた方がうまくやっていけるのだとしても異例と言える。
松前さんは高等部入学とともに四月から途中参加のかたちで前生徒会長時代の生徒会に入った。よほど生徒会が好きなのだろう。
さて――生徒会長は代々中高一貫生の女子が務めてきた。高等部入学生や男子生徒が務めた例はない。女子校の名残りと言ってしまえばそれまでだが明らかに異常だと思う生徒もいるだろう。
しかし僕が知る限り男子生徒が生徒会長に立候補した例はなかった。その代わりと言っては何だが副会長に男子生徒を置くことは多い。現職の副会長は矢車漣さんという黒森さんのクラスメイトだ。
実は彼こそが黒森さんを会長に祭り上げた人だ。そして生徒会役員は松前さんを除きすべて矢車さんの信奉者になっている。
影でこの生徒会は矢車のハーレムだという声も聞かれる。女子は見事なまでに額出し黒髪ロングヘアの美女ばかり。だから前髪ありショートカットの松前さんが目立つのだ。松前さんが目立つのは常に怒っているのもあるが。
黒森会長をはじめとする額出し黒髪ロングヘアの一団は矢車さんの趣味が高じてできたもの――という話もある。
こうして実際に生徒会室に来てみるとなるほどと思わされるのだった。
ただ――今、矢車副会長は不在だった。
矢車副会長がいないと確かに黒森会長の生徒会に見えるが、実際のところどうなのだろう。巷間で囁かれるように実は矢車副会長の生徒会なのか? あの様々な規制緩和も矢車副会長の手腕なのか?
「今日は矢車さん――いらっしゃらないのですね」山縣さんが何気なく訊いた。
「彼は気まぐれだし、とても忙しい人だから」
「明石君みたいですね」
「一緒にしないで――あんなヤツと副会長を……」
山縣さんの呑気なひと言に松前さんが噛みついた。
おや? 松前さんは矢車副会長を高く評価しているのか? それは意外だ。
矢車さんと松前さんは高等部入学生だ。
もち米とうるち米の混在が発覚した時に同好会室の有象無象が盛り上がったが、中高一貫生と高等部入学生の見えない対立はある。
一般的に中高一貫生は伝統と格式を重んじ、校則も遵守する者が多い。対照的に高等部入学生は自由気ままなのが多い。しかも中高一貫生より成績優秀ときている。
カラーが異なるのだからぶつかることもあるだろう。先住民対移民の対立に喩える考え方もあろう。それは短絡的だと僕は思うけれど。
松前さんも矢車副会長と同じく高等部入学生だから自由を求めて従来の構図を打破したい人かと思いきや、この人は伝統を守る保守派だった。
中高一貫生の黒森会長が革新的で、高等部入学生の松前書記が保守的という面白いかたちになっている。
矢車副会長も革新派だから松前書記とは対立すると思ったのだが、そうでもないようだ。
保守と革新の対立――といっても奥が深い。
「矢車副会長は口だけでなくちゃんと仕事をするひとよ」
「明石くんは口だけだもんね」本人がいないと山縣さんも毒舌だ。
このセリフは報告書には書けないな。雑談は全てカットだ。
「彼は厄介な問題を逐一解決してくれるからとても助かるわ。彼なしにこの生徒会は成り立たないわ」
案外黒森会長は飾りなのかもしれない――と僕は思った。
「いろいろ改革すると抵抗勢力の動きがすごいのよ。そのあたりのことは舞子さんもよく知っているでしょうけれど」なぜかこのひと言は僕に向けてかけられた。
「出る杭は打たれる――のよ。気をつけないと」
舞子実里が中等部生徒会長時代に「打たれる」ようなことをしたっけ?
僕は存在感をさらに消した。
時:米ばらまきがあった日の放課後
場所:生徒会室
ここの登場人物
黒森麗愛 生徒会長
松前理世 生徒会書記
山縣杏菜 新聞部部員・ミステリー研究会会員
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
その他生徒会役員




