ゴミあさり
よく見ると、脇役にもいろいろ個性があるものだ。
どうにか生徒会の許可は得た。口頭での話だったが黒森さんのことだから後で「そんなこと――言ったかしら?」とは言わないだろう――たぶん。
「保健室に舞子の様子を見に行かないの?」
山縣さんは言ったが僕は先にゴミ漁りをすることを提唱した。
「舞子は大丈夫みたいです」
「そうなんだ。なら良い」
僕と山縣さんの二人が廃棄所に向かうと、そこに三つ編み眼鏡の中等部生がいた。美化風紀委員の一人だ。
この学園には三つ編み眼鏡姿の女子生徒は多い。かつては半数以上がこのスタイルだった。それくらい校則が厳格だったのだ。
それを何年もかけて緩和していき昨年度黒森さんが生徒会長になってから一気に改革が進んだ。
髪形は公式行事以外はほぼ自由だ。髪染めはいまだに禁止されているものの少し茶色いくらいではあまりうるさく言われなくなった。登校時に教職員、生徒会役員、美化風紀委員が立ち並んでプレッシャーをかけるくらいだ。それがまだまだ効果抜群なのだから伝統とは恐ろしいものだ。
「シシバさんが付き合ってくれるんだ?」山縣さんがその中等部生に言った。
同じスタイルだから遠くから見れば制服のわずかな違い――中高で制服が若干異なる――くらいしかわからない。でも中身はいろいろ異なる。
個性とは――同じ格好をしていても滲み出るものだ。
その中等部三年生は神々廻璃乃といった。舞子から連絡を受けて僕たちに付き合ってくれることになったのだ。
「舞子さんの御命令ですから」顔色一つ変えずに言う。「従わないとコロされますよ」
どんな世界だ。ブラックな裏稼業か!?
「あはは……いつも面白いよ」山縣さんは腹を抱えて笑った。
中等部の生徒は保守派が多く、基本的に先輩に従順だ。特につい先月まで中等部生徒会長を務めた舞子実里に言われると神の啓示のように感じるのかもしれない。
「――人使いが荒いですから」確かにね。
「――どれだけ大変かわかっておられないのです」僕もそう思うよ。
「――私は天才ではないのでこつこつ積み重ねる努力をしなければいけません」毎日血の滲む思いをしているのだな。
「――その努力の時間をこうして削ってくれるのです」大変だな。
「――ほんとうにたまったものじゃねえな!」
堆く積まれた半透明のゴミ袋を並べて仕分けする間、神々廻さんはずっとボヤき続けた。その揚げ句が下品な叫びだ。
この子――男なのか?
「わかった、わかった。私からも舞子にはよく言っておく」
「ほんとうですかあ?」神々廻さんは猜疑心たっぷりの目を向ける。
明石さんに似たのか山縣さんも口だけ人間になった。神々廻さんが疑うのも当然だ。
なんだかんだあって、どうにか米粒が入っていそうに見える袋を三つばかり選り分けた。
「さて開封しよう」
「固くて解けませんよ」神々廻さんはぶつくさ言った。「ヨウタ(※)が縛ったみたいだ――くそ力!」
「仕方がない。ハサミで切ろう」山縣さんは用意が良い。探偵の七つ道具みたいなハサミを取り出した。
「切ったら――その後どうやって閉じるのですか?」神々廻さんは眼鏡の奥の目尻を上げた。
「新しい袋も用意しているわよ」綺麗に小さく畳まれた袋が出てきた。それも三つ。異次元ポケットか?
「用意が良いですね」
「何かと証拠隠滅が必要なことがあるから」
やはり新聞部は闇の組織だったか。
その袋には底の方に確かに米粒がたくさん入っていた。しかしその上に枯れ葉だの何だのが積み重なっている。底にはさらに砂埃まである。
米粒は砂埃、鳥の糞にまみれていた。
「洗って食べられないかと訊いたひとがいたけれど」山縣さんは言った。「とても食べる気にはなれないわね」
「糞まみれ……クリプトコッカスが……マスクしてくれば良かった……」神々廻さんがまたブツブツ言っている。「これで病気になったら誰が責任とってくれるのですか」
「それは――」明石さんではないな「学校――だね」
「鳩の駆除をしてこなかった学園に責任がありますものね」
山縣さんに言われて神々廻さんはすっかりそのつもりになったようだ。
「園芸部から篩を借りてきたよ」
「用意が良いですね。さすがパパラッチ……」言いかけて神々廻さんは口を覆った。
いや――わざとだろ! この子はそういうキャラだ。
「まずは砂落としの篩……」細かい砂と埃が地面に落ちる。「本来はこうして砂を落としてから捨てるべきだな」
「美化風紀委員の仕事を増やすおつもりで?」
「睨むなよ。べきこととできることは違う」
「次に米粒落とし……」
二つ目の篩で、敷いたシートの上に米粒が落ちていった。大きめのほこりや枯れ葉が篩に残る。
「見事なものですね。さすが新聞部」ヨイショもするんだな。あからさまだけれど。
こうして米粒を集めた。若干砂や埃が付着しているが許容範囲だ。
「洗いたいけれど――洗ったらふやけるよね」
「炊けるかもしれませんよ」
「食べるかい?」
「私は大丈夫です」
山縣さんと神々廻さんが顔を見合わせて笑う。恐いな。
「――どれどれ、うるち米ともち米が混じっているのかなあ」
「見たところ白い粒と半透明なのが混じってますね。新旧の違いと言うより――やはりもち米が混じっているのかと」
「ざっと見たところ――もち米二割ってところかな」
「大半はふつうのお米ですね」
「一部だけ持って帰ろう」山縣さんは用意していた厚めのビニール袋に回収した米の一部を入れた。
「誰に鑑定してもらうのですか?」
「食糧自給を考える会だったかな――そこに詳しそうなひとがいた」
「信用できるのですか? 鑑定方法の妥当性は検討するべきかと」
「もっと詳しい人を探してみるよ」山縣さんは笑った。
「結果は教えて下さいね」
「もちろん――功労者には聞く権利がある」
「――ところで――」と山縣さんは去ろうとする神々廻さんを呼び止めた。「どう思う? うるち米にもち米が混じっていること」
「さあどうですかね。混ぜて作る料理を作りたかったのかもしれませんよ。炊き込みご飯とか赤飯とか。そういったことは家庭科部に訊くと良いですね」
「家庭科部か……」
家庭科部は正式な部だから同好会室にいない。有象無象の集団のひとつではないのだ。元女子校の由緒ある部活だった。
「この米も家庭科部が落としたものではないですか? 学食ではもち米を使った料理なんて出ませんよ。家庭科実習で使わない限り出どころは家庭科部ですね」
妥当な判断に思えた。それが常識的――自然な推理というものだ。我々ミステリ研も見倣うべきだと僕は思った。
「家庭科部が落としたのだとしたらなぜ片付けなかったのだろう?」
「知りませんよ。それは家庭科部に聞いてください。私はこれで失礼します。舞子さんによろしくお伝え下さい」
神々廻さんは形だけ丁重に頭を下げ去って行った。
「うーん……なるほどなあ」山縣さんは頷いた。
何がなるほどかさっぱりわからない。
時:米ばらまきがあった日の放課後
場所:ゴミ捨て場
ここの登場人物
山縣杏菜 新聞部部員・ミステリー研究会会員
神々廻璃乃 中等部美化風紀委員 舞子実里の配下
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
(※)ヨウタ ここでは登場しないが神々廻璃乃のクラスメイトで身長190超えの男子




