僕は語る 少しだけ
探偵助手は少しだけ語る。探偵役はわかったことだけ語る。すべて解決には程遠い。
僕は語ることにした。土曜日の昼、西の渡り廊下で見つけた泣いている女の子のことを。少しだけ。
彼女は家庭科部で使う米を落としてぶち撒けてしまったらしい。彼女をたすけるために一緒に米を買いに行き、彼女が必要な分だけ渡した。
現場に戻ってみると米は片付けられていた。後でそれは沢辺先生が片付けたのだとわかった。
そこまで話して舞子が納得するほど簡単ではない。
「僕が計画的に撒いたわけではないよ。もしそうなら近くの店で米を買うなんてしないさ。これは偶発的なこと。そして落とした米も片付けられたのだからバラマキ事件とは関係ないと思ったんだ。下手にその子に事情を聴きに行かれても困るしね」
「ふうん」
信用してないな。
「後でもう一度見に行ったんだ」
僕はネタバレをする。ある程度語らないと舞子は納得しないだろう。
「そしたらまた撒かれていた。そう――落ちていたのではなくてぶち撒けられていた。これは何度片付けてもばら撒かれると思ったね。それこそ夜中になっても」
「座敷童子の仕業とか言わないよね?」
「騒ぎを起こしたい連中だろう。たぶんそいつらは女の子が米を落としたり沢辺先生が片付けたりしたのを見ていたのかもしれないね。そこで思いついたのだろう。何かをばら撒けば騒動になる。そいつらはゴミ捨て場から沢辺先生が片付けた米を回収してふたたびここに撒いたんだ」
「米の量が増えていたのでは?」
「他から調達したんだろ。知らんけど」
「ワンゲル部からか」
「かもしれないね」
舞子は考え込む。そして言った。
「美化風紀委員室やワンゲル部部室に限らず、何者かがあちこち侵入した疑いについては以前から噂になっている。ものがなくなったり、ものが落とされていたり」
「座敷童子だな」
「まあ仮に座敷童子と呼ぶことにしよう。そいつは人知れず校内をうろつきものを盗んだり置いていったりするわけだ。学校を混乱させるための愉快犯か?」
「どうだろうな」
「生徒会総会が近づいていた。騒動は生徒会が近づくにつれ増えていった気がする。総会に何かまずい議案が上がっていてそれを取り上げないようにする動きだったのだろうか」
「何か知ってるの?」僕は問う。
「さあね」舞子ははぐらかした。
「でもこれは結構根が深い話なんだ。私たちでは手に負えないくらい」
手を出そうとしたんだな。
続けて舞子は語る。
「座敷童子の一派はあちこちに網を張っている。天井の百の目とか黒いヒバリとかもそうだろう。これは裏サイトで囁かれる比喩表現だ。実態は盗撮・盗聴による情報収集」
「ほんとなのか?」
「天井の百の目は盗撮機器のことだよ。美化風紀委員室に侵入者があったが、おそらくあちこちの部屋の空調設備などに機器を仕掛けるのだろう。その仕掛けや回収を行うには人目を遠ざけねばならない。だから何か騒ぎを起こす。人がいないときに仕掛けたり回収したりするのだ」
「なるほど」
「盗聴で得た情報もいろいろ使える。録音した音源をトイレや踊り場で流すこともできるな。それを噂話だと思った人間は、脛に傷を持つならば動くだろう」
「ワンゲル部のことか」
自分たちの部に生徒会監査が入るかもと思ってしまい証拠隠滅のために米をばら撒いたのだよな。
「これが黒いヒバリだ」
「――得た情報で使えるものは生徒会に議案として出すこともあるだろう。たとえば矢車さんや渋谷のこととか」
「二人が何かやったのか? 校則に反することでも」
「さあね、私にはわからない」
わかっているかもな。
「とにかくそうした組織的な動きならお手上げだ。あの米バラマキもそいつらの仕業だとしたら打つ手はないね。そいつらを一網打尽にしない限り。そんなことを今の生徒会ができるだろうか? 今の生徒会そのものに裏の疑惑があるんだよ」
裏と言ってしまったよ、舞子さん。
裏生徒会と俗に言われる連中だ。きっとおそらく僕たちがこの学校に入る前から継続して存在する奴らだろう。案外教職員が関わっているかもしれないな。
学園の秩序を守ると称してその大義名分を御旗に活動しているのだ――多分。
今の生徒会が裏生徒会と同一だとしたら確かに打つ手はないだろう。
「この件はひとまず終わりかな」
舞子は終止符を打ってくれるようだ。
「まだ納得できないことはたくさんあるけれど」
舞子は踵を返した。
僕はその背中をゆっくりと追った。
時:火曜日放課後
場所:西の渡り廊下
ここの登場人物
舞子実里 ミステリー研究会会員
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手




