月曜日放課後 プリンスとプリンセス
光が当たる者、陰に潜む者。あちこちから声が聞こえる。
放課後、舞子はどこかに行った。一緒には帰らないと僕に告げたのだ。
「さみしい?」
「いや別に」と答えたら脛を蹴られた。
舞子のご機嫌取りは難しい。何年たっても慣れやしない。
舞子が向こうを向いて歩き出したら、すぐさま中等部三年の高原さんがすっと現れ、僕に軽く会釈すると、舞子に従うようにその後ろを歩いて行った。
舞子には一学年下に有能な配下がいる。中でも最も信頼を置いているのが高原和泉さんと浅倉明音さんだ。そしておちゃらけた三枚目を演じる樋笠大地。美化風紀委員の神々廻璃乃さん。
きっと舞子はこの四人をうまく使って調べ物をしているのだろう。その詳細を僕は知らされない。
まあ仕方がないな。僕はモブだから。
素直に帰ろうと思っていたら、中庭の人だかりが目についた。
その中心にいるのは中等部のプリンスこと渋谷恭平君とプリンセス前薗純香さんだった。
その二人に体を向け、少し離れたところでカメラを構えるのは須磨だ。二人に声かけをしているのは山縣さんだった。
これは新聞部による取材か。
そして彼らを取り巻くのはいわゆるプリンス・プリンセス信者の女子生徒たちだった。特に中等部生が多い。
中等部女子にとっては二人は憧れの対象なのだろう。
いや、よく見たら高等部の先輩女子もいた。
渋谷君は先輩女子にとっては年下の美少年に違いないが、高等部生徒会の矢車漣副会長よりは手の届きそうな存在なのだろう。
ひょっとしてこの美少年を飼いならしたいと思っていたりして――と僕は余計な妄想をしてしまった。
どうもこれは御堂藤学園新聞部による公式取材らしい。新年度五月号にプリンスプリンセスの記事を載せるようだ。
あの米ばら撒き事件は所詮山縣さんによるSNS新聞タブロイド記事のエサに過ぎなかった。紙媒体の公式には載せられなかったわけだ。学校が騒動の記事掲載許可を出すとも思えないし。
米ばら撒き事件は、たった一週間で記憶の片隅に追いやられることになった。
得てして新聞記事とはそういうものだ。事件の続報が報じられることは滅多にない。
それは常に新しい事件が起こるからとも言えるが、小説などのエンターテインメントと異なり現実の事件にはきっちりと起承転結があったりするものではない。解決せずに終わってしまうこともよくある。
米ばら撒き事件もそういう展開に終わる運命なのだろう。
ベンチに腰掛けるプリンセス前薗さん。寄り添うように立つプリンス渋谷君。絵になる光景だ。
取り巻く女子たちが歓声をあげる。
二人がいる限り、来年以降の高等部も安泰だ――という声も漏れ聞こえてきた。
「お似合いね」
「付き合っているのかな」
「そんなことないと思う。校則違反になるし」
「渋谷君は中等部生徒会役員だもの。違反できないわ」
一方で、僕が立つ後ろの方では揶揄する声も聞こえる。主に男子だ。
「やりまくっているだろ」
「貫通済だ」
無責任な声はすぐに途切れる。声を大にして出せない。呟いては後ろに引き、姿を消していくのだ。
こうした声はそのまま裏サイトに上がることが多い。
羨望はやがて嫉妬に変わり、その満たされない汚い心はいつも裏にこもる。
「矢車の後釜決定だな」
「処分されると思ったんだがな」
それは裏サイトの声だったかもしれない。
僕はもう区別できなくなっていた。
虚ろになっていた僕の肩がポンと叩かれる。
振り向くと僕の頬に指が刺さった。
「ぼうっとしてるな」
ニカッと笑う顔はいつも爽やかだ。三神拓斗さんだった。高等部の変人。いつの間にか現れ女子にタッチする奇行のため常に警戒されていた。
「プリンセス可愛いな。せめてBは欲しいところだ」
触ったのですね。
「でも頑張ってる。慈悲深い御心に下々は癒される。いなくなった天使の替わりが現れたな」
「そうですね」
僕が見る先に中一女子三人がいた。先輩たちの影からプリンセスを遠目に見る。
プリンセスはどんなに離れていても彼女たちに気づく。
手を振るプリンセスを見て中一女子三人は顔を見合わせ手を握り合って飛んだり跳ねたりした。おとなしい女子もまた。
僕がもう一度振り返った時には三神さんはもうどこかへ消えていた。
風のようなひとだ。
時:月曜日放課後
場所:中庭
ここの登場人物
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
舞子実里 ミステリー研究会会員
山縣杏菜 新聞部部員・ミステリー研究会会員
須磨入鹿 新聞部・写真部部員・ミステリー研究会会員
渋谷恭平 中等部三年生 中等部生徒会副会長 御堂藤のプリンス
前園純香 中等部三年生 ボランティア部部長 御堂藤のプリンセス
三神拓斗 高等部二年生 自由人
その他あまたの聴衆




