月曜日昼休み 同好会室
人は飽き性だ。事件も毎日のように起こる。話題は次々と上書きされる。こうして「大事件」も過去の遺物となる。
昼休み、僕は同好会室に行った。
腰痛は少しマシになっていた。湿布のお蔭か動いているからなのかはわからない。
昼休みに山縣さんが新聞部SNSサイトで昨日の件を報告した。
先週金曜日の米ばら撒き騒動は一部の生徒が処分に困った古米をばら撒いたという話だ。どこの部活、誰なのかは書いていないがいずれ知れ渡ることになるだろう。ワンゲル部は同好会に格下げされるようだし。
そして山縣さんの記事はさらに続く。美化風紀委員室に謎の侵入者?
相変わらずセンセーショナルな書き方だ。こうした部活への侵入については以前から一部の生徒は感づいていたからその反響は大きかっただろう。
米ばら撒き騒動は旬を過ぎることとなった。最初の米のバラマキなど、もう忘れられているかもしれない。
「かくして――各部活は部室に隠し持つものの処分を急ぐことになる」
明石会長の演説だ。
僕は言われた通りに端末に向かって記録する。
「米のバラマキだけではない。この同好会室の備品だって許可のないものは危ないぞ。生徒会に目をつけられるか座敷童子に奪われて――どこかにポイだ」
座敷童子はあくまで喩えだ――と僕は思うことにしている。
「この部屋――ガラクタ多いものな」
有象無象の輩が今日もまた集まっている。しかしその数は減っている。
人間とはどうしてこう飽きっぽいのだろう。別に注目して欲しいとは思わないが。
「断捨離だ。断捨離」
「片付けなきゃな」
「いや待てよ。もしやそれが狙いか」という声があがる。
「これは部屋を整理整頓させるための陰謀」
「誰の?」
「生徒会。そうでなければ――」
「裏生徒会?」
「口に出すなよ。粛清されるぞ」
影にあるもう一つの生徒会が学園の秩序を守っている――という噂は誰の耳にも入っていた。いわゆる御堂藤学園の都市伝説だ。
しかしそれはアンタッチャブル。触れてはいけない。口にしてもいけない。下手に首をつっこむと粛清されるのだ。
だから誰もそのことに触れない。
裏サイトではそれらの話がまことしやかに流れ、それを支持する声が山のように溢れていた。
「ほんとうに裏か?」明石さんが問う。「裏のふりをした表ではないのか?」
「表の生徒会が生徒を牛耳るために裏を使ってるってか?」
「今の生徒会ならやりそうだな」
どうだろう。疑いだしたらきりがないな。
明石さんはほんとうに可能性を広げてばかりだ。性質がわるい。
山縣さんがそこにいなかったからミステリ研の会合はあっさりと終わった。
舞子はずっと黙っていた。人が大勢いるとき舞子は大人しい。中等部生の前では偉そうにしているのだが。
「腰は大丈夫?」
同好会室を出たところで舞子が僕に声をかけてきた。
「うん、湿布が効いているね」
「無理しちゃダメだよ。ひ弱なんだから」
いや、あの時ワンゲル部を追えと言ったのはお前だろ!
もちろん僕がそれを口に出すことはない。
探偵助手は「語らない」。
「じゃあね。自由にしてあげる」
舞子がにっこり笑った。
僕を拘束している自覚はあったのか。
おそらく舞子はまた誰か配下に会うのだろう。侵入者の件を気にしていたからな。
僕は昼休みの残り時間、何をしようか。
急に自由にされるとすぐには思いつかないものだ。
時:月曜日昼休み
場所:同好会室
ここの登場人物
明石透 ミステリー研究会会長
舞子実里 ミステリー研究会会員
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
その他有象無象の野次馬たち




