明石会長は舌好調――そして探偵助手は「語らない」
有象無象の宴の後、ひそかに総括は行われる。
昼休み時間には限りがある。同好会室の有象無象はいくらでも押し寄せてくる気配があったが、いちいちそれらすべてに耳を貸す訳にもいかない。
明石はひとまず締めを宣告した。
有象無象たちはそれぞれのエリアに戻ったり教室へ向かったりした。
端末前には本来のミステリ研メンバーだけが残った。
新聞部部室にいた写真係の須磨もこの場に来ていた。
「五人揃ったからここからがミステリ研秘密会合だ」
「うは――今までのは情報収集だったのね。知ってたけど」山縣は呆れを隠さなかった。
「わかったろう? あいつらはみんな容疑者だ」
「それは聞き捨てならないわね」
「ここからはオフレコだ。記録するのは良いが表に出すな」
会員たちは頷く。
「米のばらまきが何らかのメッセージである可能性はたしかにある。あるいは何かの見立てという可能性も。しかしなぜこのようなことをしたのかを考える必要があるな。米をばらまいて誰が得をするのか」
「ばらまいた後どんな影響があったか調べないとね」
「騒ぎになったためにこの事件は学校中に知れ渡ることになった。そしてそれを新聞部のSNSサイトが取り上げる」
「私が逐一ほぼリアルタイムでアップするものね」
「そうだ。山縣の書き込みは見ているものが多い。そこで考えて欲しい」
明石はさらに声を潜めた。
「ここにいたやつら――自分の存在をアピールしていただろう。米ばらまきのメッセージ性について――うるち米ともち米が混じっていた件、近郊に棲息する鳥の件などなど。新聞部に書いてもらえばミニ同好会のアピールになるわけだ。規制緩和によって昨年からやたらミニ同好会が増えた。この同好会室も入り切れないくらい賑わっている。新しく生まれる同好会がある一方、活動が認められなければ淘汰されていく。自分たちのSNSサイトでつぶやくより新聞部のSNSサイトに載せてもらう方がアピールになるのだ」
「それが犯人の動機だと言うのね?」
「まあ一つの可能性だ。あいつらの中の誰かがばらまいた可能性だな」
「ふむふむ」山縣のメモは緩まない。
「ほんとうにもち米とうるち米が混じっていたのですか?」ずっと黙って聞いていた舞子実里が初めて口を開いた。
「僕にはわからないけれど」写真撮影した須磨入鹿が言う。「米は念の為に望遠でマクロ撮影しておきましたからね」
「それを見た食糧自給を考える会の彼がそう判断したのならそうなのでしょう」山縣が言った。
「あとで実物を確認する必要があるな」
明石が言うと皆顔を見合わせる。彼が「――必要がある」と言うとき、それは「――しろ」という命令なのだ。
「回収したお米がどのように処分されたか美化風紀委員に聞いてからね」
「ゴミ置場に行ってればそこを漁る必要がある」明石は必要を強調した。
「たかがゴミ漁りにも根回しが必要ね」山縣も必要を強調した。
「生徒会の許可も得る必要があるかもな」
「私たち新聞部が主体で動くと許可がもらえなさそうね」
「といっても僕は生徒会とは相性が悪いしミステリ研が表に出るわけにもいかないから山縣には動いてもらう必要があるな」
「わかりました」と答えたのは山縣ではなく舞子だった。「私に――と仰るのなら従います」
「悪いね。君は中等部の生徒会にいたから今の高等部生徒会ともツーカーだろう」
明石は痛快に笑った。周囲は苦笑いだ。
「ということで芦屋。舞子と山縣について行ってくれたまえ」
突然ふられて僕はキーボード操作を止めた。
「え? 僕もですか?」
「探偵助手は記録係として必要だろう」
僕はため息を気づかれないよう努めねばならなかった。
僕は探偵助手兼記録者だ。ずっとみんなのそばにいて事態を見守って来た。そして物言わぬカメラとなって事象を監視し記録する。
カメラだから喋ることはないし、記録する際には登場人物の心情も推し量れないから極力そうしたものは書かないようにしている。
この記録は我がミステリー研究会の活動報告となる。こうした報告書を提出することでミステリ研は存続しているのだった。
しかし――ずっといないものとして扱っていたのに今さら僕を指名するか?
この記録もあとで修正しなければならないな。
報告書に僕が登場することはない。僕は記録者であり語り手なのだ。だから「 」付きのセリフもない。
そう――探偵助手は「語らない」のだ。
「わかりました……」僕は明石会長に従う姿勢を見せた。
家に帰ってから修正しよう。僕のセリフは消さないと。
時:米がばらまかれた日の昼休み
場所:同好会室
ここの登場人物
明石透 ミステリー研究会会長
山縣杏菜 新聞部部員・ミステリー研究会会員
舞子実里 ミステリー研究会会員
須磨入鹿 写真部部員・ミステリー研究会会員
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 「僕」 この物語の語り手 探偵助手
こうして語り手である探偵助手も舞台にあがり、物語は一人称で語られることになる。




