米ばらまきはメッセージなのか?
口を出す輩がさらに増える。ますますカオスと化す。
「それ――気づいたの俺だから、ちゃんと書いといてね」米に詳しい食糧自給を考える会男子が山縣に言った。
「俺の野鳥に関する考察もな」と野鳥研究会。
「はいはい」山縣は笑った。
新聞部山縣が書く記事には何種類かある。
紙媒体の校内新聞は掲示板にも張り出され全教職員生徒に配布される。これが公式の新聞だ。
同じ内容がネット媒体で公開される。
それ以外に新聞部部員が個人的に新聞部SNSサイトに公開している情報がある。それはタブロイド扱いされるが公式には載せられない記事をリアルタイムで公開しているため一部の生徒に人気だった。
学校周囲の飲食店情報や街で見かけた奇妙な光景まで面白おかしく書かれている。今回の米ばらまき事件?もまた。午前中の休憩時間を使って少しずつアップされていたのだ。
今ここで行われているミステリ研の推理もまたすぐに公開されることになる。そこに登場すると人の目に触れる。ミニ同好会の活動をアピールする場になるのだ。
山縣のニュースは視聴者も多いからミニ同好会の活動報告よりもその影響力は大きい。
「さて――」と明石はあらたまる。「米の種類、新旧は後で現物をチェックするとして、犯行時刻の考察もするとして、この犯行が犯人による何らかのメッセージである可能性を考えてみよう」
「何か主張したかったと考えるわけね」山縣がメモの手を止めずに訊く。
「すべて可能性の話だ。考えられるありとあらゆる可能性を検討する。それが真実に近づく道だ」
「もち米とうるち米が混ざっていることに意味を考えるわけね」
「そうだ」
「まだ混ざっていると確定したわけではないけれど」
「先に考えておいても良かろう?」
「考えるだけなら自由よね」
「ということで――入り混じりと聞いて何を思い浮かべる? 単一のものではなく混在させているのだ。そこに何か意味やメッセージがあってもおかしくはない」
「グローバリズムじゃね?」また別のところから声が上がる。野次馬は明らかに増えている。
「ほう――それはなかなかメッセージ性が高いな」
「民族宗教を超えて混じり合う。それが世界平和につながるか――はたまた紛争の火種になるか……」
「そちらはたしか――」
「日本の未来を考える会――だよ」
「その考えだとこのメッセージはグローバリズムに対して肯定なのか否定なのか?」
「まあ騒ぎになっているのだから否定なんだろうな」
「それって」山縣が口を挟む。「うるち米ともち米が混じっていることに気づいてもらう必要があるよね? 誰も気づかなければメッセージにもならないわ」
「いや誰か気づくでしょ。これだけ騒ぎになればそれだけ多くの人の目に触れるわけだし、実際米担当が気づいたよね?」
「俺は米担当か!」ツッコミが入る。
「日本の未来を考える会はグローバリズムに反対なのだね?」
「会の総意ではないよ。みんな違う考え方をして当たり前だ。それが多様性だ。ただ――僕は何でもかんでもグローバリズムというのは反対だな。ふと気づいたら身の回りに異国人があふれている。恐怖でしかないよ。まあ避けられない流れだとは思うけれど」
「それはこの世のことわりだよ。エントロピー増大の法則だ」また別の声が加わる。「放っておけば気体にしろ液体にしろ拡散する。二つ以上が接すれば混じり合い一様になろうとするんだ。人類も同じだ。逆らって手を加えない限り混じり合い、世界中同じになる。その正体は不可逆的な無秩序化――だ」
「君は?」
「星占い研究会」
「星占いと関係がないように思えるが」
「物理部兼部してるからね」
「なるほど」
「ところでマクロ視点のグローバリズムではなくてもっと身近なグローバリズムも考えてみたら?」
「身近と言うのは?」
「おれたちの学園でも二つの集団が混じり合っているじゃないか」
「なるほど」と明石。
「そうね」と山縣。
「中高一貫生と高等部入学生のことだな。一般的に保守派と革新派と言われる。一人一人見ると必ずしも該当しないけれども集団で見るとそうだな」
「だから――これは中高一貫生と高等部入学生のことを暗示していると俺は思うね」
「なるほどなるほど」山縣がメモの手を緩めない。
「俺が言ったと書いといてね。俺の名前は星占い研究会の――」
「グローバリズムとナショナリズムに気づいたのは僕だからね。書いといてよ」
「ここの部屋にいるといろいろな意見が聞けてためになるな」明石は上機嫌だった。
時:米がばらまかれた日の昼休み
場所:同好会室
ここの登場人物
明石透 ミステリー研究会会長
山縣杏菜 新聞部部員・ミステリー研究会会員
舞子実里 ミステリー研究会会員 またもセリフなし
その他
食糧自給を考える会
野鳥研究会
日本の未来を考える会
星占い研究会
物言わぬ野次馬たち




