自由人たち
地元民はじゃれる。
「今、舞子さんの胸さわったでしょ、このドスケベ野郎!」
松前さんが瞬間湯沸かし器になっている。しかも言葉遣いが学校と違う。明石会長を相手にするときでもこれほどの悪態にはならないだろう。
「何だよ、松前も触って欲しかったか、たぶんBカップのままだな。舞子に抜かされたな」
松前さんのも知っていたのか。しかも煽る。
「あっちへ行って! しっ!しっ!」
松前さんが手を横に振る。野良犬を追い払うみたいだ。
「松前にしぼられていたのか?」三神さんが舞子に声をかける。「制服姿での寄り道はご法度だって」
確かに――忘れていたが僕と舞子は学校帰りで制服姿だった。下校したら真っすぐ帰宅するように指導されている。
僕たちの学園は厳しい。フードコートでファーストフードを食べているなんて教職員に見つかったらまさしく指導案件だ。
「そこまでうるさくないわよ、私は。三神に比べたら可愛いものでしょ」
「俺はナイト――だからな」
「は?」
「何かあったら女性を守る」三神さんが胸に拳を当てる。「白のナイト!」
「意味わからない。バカじゃないの……」
松前さんは呆れて何も言えなくなっていった。
「ひとりなのですか?」舞子が三神さんに訊いた。
「いやあ……亜胡と一緒だったんだけどな、綺麗なおねえさんを見かけて追っていたらはぐれてしまった……」
「まさか触ろうとしたんじゃ……」松前さんが声を震わす。
「さすがに知らないひとのは触らないぜ。後ろに手が回るじゃないか」
「知っているひとにやっても捕まるわよ」
「すまん、すまん、この手が悪いんだ。メ!」
三神さんは自分の手にむかって小さく怒鳴った。
本当に自由人だ。明石会長と同じだ。方向性は全く異なるが。
高等部二年生にはこうした異質なキャラがたくさんいた。そして誰も彼も浮いていた。校則の厳しい元お嬢様学校でははぐれものになっても仕方がないだろう。
「あ! 拓斗、いた!」
別のところから声がした。
脱兎のごとく走って来る。
ただでさえ三神さんと松前さんのやりとりで周囲の目を集めていたのに、その人が来たらなおいっそう目立ってしまった。
白シャツにデニム生地のミニスカート。セミロングの黒髪にぱっちりとした目の美少女。木颪亜胡さんだった。
「あれ、実里ちゃん、憲ちゃん、そして……松前さん。揃ってお食事?」
きょとんとした顔がまた可愛すぎる。
「木颪さん、放し飼いはダメよ、飼い犬にはちゃんと縄をつけていなきゃ」
「せめてリードと言ってくれ」と三神さん。
「あはは、ごめん、ごめん、飼い主失格だわ」木颪さんは笑いながら頭をかく。
三神さんと同様、木颪さんも僕たちの小学校の一年上の先輩だった。
一学年二クラスしかない小さな小学校だったから学年が違っても顔見知りだ。幼馴染という言い方も間違ってはいない。
そして三神さんの奇行をコントロールする役目を小学校時代から担当していたのが木颪さんだった。御堂藤学園に入ってからもそれは続いているようだ。
「いつもいつも仲が良いですね。羨ましい」
舞子が意外なことを言う。
「腐れ縁だからな」
「ほんと」
憎まれ口は確かに長年の仲を物語っていそうだ。
「制服姿の二人が松前に注意されていたんだ。俺は……そうだな、その弁護をだな」
「はいはいお食事の邪魔をしていたのね」
そう言うと木颪さんは三神さんの耳を掴んで引っ張った。
「いてててて」
「お邪魔しました」
三神さんは木颪さんに連行されていった。
台風が去ったみたいだ。僕たちは顔を見合わせた。
「まあ、いろいろと変な邪魔が入ったけれど、明日は顔を出すわ。生徒会の仕事も残っているし」
「ひとりでされるのですか?」
「中等部から東矢さんと渋谷君が来ているかもね。協力できるところがあれば一緒にやるかも」
「ではよろしくお願いいたします」
舞子は立ち上がって頭を下げた。
「じゃあね。あまり制服姿で目立たないように」
松前さんも去って行った。
あれ? バーガー代もらっていないぞ。
「バーガー代は?」
「硬いこと言わないの」
そう言って舞子は僕に肩を押し付けてくる。
「あの……目立たないように言われたと思いますが……」
「ちっとも目立ってないわよ。それより――」と舞子は僕の眼前に顔を回り込ませた。
「――私が三神さんに触られたとき、どう思った?」
「どうって……」いつもの三神さんのお戯れかと。
「憲ちゃんが触りたかった?」だから寄るなよ。
「それから――」舞子が怖い笑顔になる。「亜胡さん、可愛かった? いつも一緒にいる三神さんが羨ましいと思った? 亜胡さんの顔、お気に入りだものね」
確かに木颪さんは僕の憧れのひとだが、それを言うと舞子の機嫌が悪くなることを僕は知っていた。
というか、くっつき過ぎじゃないか。
「教えてよ――だ・あ・りーん」
舞子は笑っていた。僕の戸惑う反応を見て喜ぶヤツなのだ。
明日の日曜日――僕も一緒に登校しなければならないのか。
全く――先が思いやられるな。
時:二度目の米ばらまきがあった日の翌日―土曜日夕方
場所:地元ショッピングモール
ここの登場人物
舞子実里 ミステリー研究会会員
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
松前理世 生徒会書記 高等部二年生
三神拓斗 高等部二年生
木颪亜胡 高等部二年生




