日曜日早朝 張り込み
早朝登校した一団。これは捕り物の予感か?
日曜日早朝、僕は舞子に連れられて登校した。しかも六時半だ。
正門は開いていないから守衛さんがいる裏門から入る。
入る際に舞子は守衛さんに挨拶した。
「おはようございます」
「おはよう」
美少女の笑顔に守衛さんも嬉しそうだ。
「今日になってから出入りはありましたか?」
何気なさを装って舞子は訊いた。
「部活の生徒たちが何人か登校してきたね。朝練かな」
「出て行った人はいましたか?」
「さすがにいないな。試合がある運動部がこれからいくつか出て行くと思うよ」
「ありがとうございます」
舞子は丁重に頭を下げた。
僕も見倣う。見てもらえたかどうかはわからない。僕は舞子に比べたら目を向ける価値もない。
「部活動をする部活や、試合があって学校に集合してから出かける部活は守衛さんが全て把握している。全ては部活連、生徒会に届け出を出し、その情報を守衛さんも共有しているわけだ」
なるほど。
「たまにイレギュラーで出入りする生徒もいるが制服を着て入校時に名札さえつければパスだ」
舞子は有名人だから顔パスだろう。
僕は一応名札をつける様子を守衛さんに見せている。見てくれたかはわからない。結構適当だ。
名札については校内は必須。校外では個人情報保護の観点から外すこととなっていた。だから校門の出入りの際に付けたり外したりしなければならない。全く面倒な話だ。
「さて、とりあえずは裏門が見えるところで待つとしよう」
やがて山縣さんが登校してきた。
「やっほ~」
「おはようございます」
「古米とペットボトルの話――興味深く聞かせてもらったよ」
「報道規制を敷いてすみません」
「手の内を明かす訳にはいかないからね」
遅れて写真部兼任の須磨が来た。
「早いっすね」
七時を過ぎていた。八時になれば正門も開く。出入りできるところが二か所に増える。どうするのか?
八時前になって松前さんが登校して来た。中等部の生徒会役員を連れていた。東矢中等部生徒会長と渋谷副会長だ。
「遅くなりました」
東矢さんが舞子に頭を下げた。もちろん渋谷君も。
僕たちはあまり目立たないように校舎や守衛室の影に隠れて立った。
やがてサッカー部の一団がジャージ姿で裏門を出て行った。
彼らは関係ないのか。日帰り遠征に出ることはわかっていたようだし。
八時直前に東矢さんと渋谷君が正門へと移動した。カメラを抱えた須磨が同行した。
こちらには舞子と松前さん、山縣さんと僕が残った。
「本丸に行こうかしら」
舞子が呟いた時、何やら運動部系の掛け声をあげる一団が姿を現した。
その数四人。ジャージ姿だが背中にとても大きなリュックを背負っている。これはワンダーフォーゲル部か?
それにしても荷物が大きすぎないか? 自分の体重より重いものを背負って歩く練習をしているのだろうか。
一団は裏門へと足を向けていたが松前さんと山縣さんの姿を見て方向転換した。グラウンドへ足を向ける。
パトロール中の警察官ではない僕たちが見ても不審な動きだった。
松前さんが前に出た。舞子が続く。山縣さんも続く。僕もだ。
ワンゲル部らしき四人は歩調を速める。
「ちょっと良いかしら?」
松前さんが声をかけてもペースは落とさない。
エッホ、エッホ。
駕籠屋かよ。
「ま、待ちなさい」
小走りに追う松前さんの方が息が切れている。舞子もだ。
げっそり痩せた舞子はすっかり軟弱になっていた。それでも松前さんも舞子も山縣さんも頑張った。
グラウンドに差しかかったあたりでやっと追いつく。
「ちょっと、ふー、待ちなさいよ、ひー」
滑稽だけれど笑ってはいけない。
「何だよ、生徒会に職質受ける覚えはないんだけど」
一人の男子生徒が答えた。三年生かな。
「とっても重そうな荷物だけれど何が入っているの?」
上級生相手でも松前さんはひるまない。
「トレーニングしてるんだよ。中は重し。布切れとか水が入ったペットボトルとか」
「ペットボトル?」
その単語には敏感だ。
「見せてもらえるかしら?」
「何でだよ。そんな権限あるのか?」
「やましくなければ見せられるでしょ?」
「しようがねえなあ」
その三年生男子は背負っていたリュックを下ろした。
リュックというよりはズタ袋? 手製らしくやたら大きい。背負った状態で後ろから見たら頭はおろか背中も全て見えなくなってしまう。
そんな大きなリュックってあるのか?
中は確かに水が詰まったペットボトル六本と汚い毛布だった。米が入ったペットボトルではなかった。
「な? ただの重しだろ?」
「他の三人も見せてもらえるかしら?」
松前さんはしつこい。納得しなければとことんやる性格みたいだ。さすがは舞子が見込んだひとだ。
「冗談じゃない。これを詰め込むの結構面倒なんだぜ。いちいち手間かけさせるなよ!」
三年生男子は先輩面で乗り切ろうとした。
そんなのに松前さんが怯むはずがなかった。
「怪しいわ。絶対怪しい!」
凄いな、この人。きっと自分がかけた疑いが間違っていても絶対に謝らないだろう。それくらい迫力があった。
すると一番遠くにいた男子生徒が走り出した。
逃げた。誰の目にもそれは明らかだ。
「ま、待ちなさい」
追おうとする松前さんの前に三年生男子が立ち塞がった。
舞子と山縣さんが代わりに追いかけようとしたが別の二人がブロックする。体格は良い。そして重い荷物を背負っている割に動きも良かった。
三人の女子は難なく封じられた。
「芦屋君、追って」
舞子が叫んだ。
僕かよ。僕は記録者なんだぜ。
僕はそこにかたまるモールをすり抜けて、逃げた男子を追った。
追いつくかな……。
時:二度目の米ばらまきがあった日の二日後――日曜日早朝
場所:校内
ここの登場人物
舞子実里 ミステリー研究会会員
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
松前理世 高等部二年生 生徒会書記
山縣杏菜 新聞部部員・ミステリー研究会会員 高等部二年生
須磨入鹿 新聞部・写真部部員・ミステリー研究会会員
東矢泉月 中等部生徒会長
渋谷恭平 中等部生徒会副会長
その他、守衛、運動系部活男子など




