土曜日 ようやく下校する
探偵助手はなかなか解放されない。
明石さんと車谷さんは上機嫌だ。鼻歌まじりで去って行った。
「ある晴れた土曜の昼下がり――」「黒いヒバリは囀る――」「ぴーちくぱーちく――」「鬼は外、福は内――」
なんだそれ? 即興の歌か?
僕はひとり踵を返した。
スマホに舞子から着信があった。そろそろ帰ろうとのお達しだ。僕に逆らう道理はない。
校舎を出る頃には合流した。舞子はひとりだった。
樋笠はどこかに行ったのか?
「みんな忙しいからね」舞子は言う。「樋笠は慌てて家庭科室へ向かったよ。まだクッキーのおこぼれをもらうつもりらしい」
校門を出て駅までの道を歩く。まわりに学校関係者の姿はなかった。
「さみしかった? 憲ちゃああん」
やめろ! くっつくな。
「何していたの?」
僕は図書室で但馬に出会い、階段下の廊下で明石さんと車谷さんに出会った話をした。会話の内容は適当に端折って。
「但馬くんのうんちくと、明石さんの七不思議――か。大変だったね」
ちっとも大変だと思っていないだろう。
「明石さんは推理していれば満たされるんだよ。真相なんてどうでも良い。いろいろな可能性を妄想するのが好きなんだ。しかし真実とはたいていどうってことのない事実の羅列だ。明石さんにとってはつまらないオチなんだ。そのオチを見て、何度も幻滅した挙句、結果ではなく過程を重視するようになった」
舞子は人目がないと饒舌になる。顔はいつものクールビューティーだ。
離れたところから見たら、僕たちはたまたま一緒に帰る高校生男女二人だろう。少し距離が近いけれど。
「でも――裏サイトや七不思議に目をつけるなんて、やっぱり明石さんは天才かな。常人ではないね」
僕は、うんと頷いて良いのかもわからず舞子の隣を歩き続けた。
電車、バスをつかって家の近くのバス停で降りた。ここから僕と舞子の家は歩いて五分のところにある。家は隣同士。
何だか今日は疲れたな。帰ったらゆっくりしよう――と思っていたら、舞子が僕を引っ張った。
「モールに寄って行こう」
僕は近くのショッピングモールに付き合うことになった。
モールは交通量の多い道路を渡ったところにある。僕たちの家がある方がつつじヶ丘。渡った先はひかり台と言った。
歩行者信号が赤だったので二人して待つ。
「これは妖怪信号機じゃないよね」舞子が笑う。
「当たり前だ」僕はむっとしたように言ってしまった。
「ごめん、ごめん」
「妖怪信号機」は僕たちの街に伝わる都市伝説だ。
昔ここに信号機はなかった。この信号機のない道路を女子高生が渡り、トラックに轢かれて亡くなった。
女子高生はまるで信号があるところを渡るようにトラックの前を遮ったという。そこに妖怪が化身した信号機があり、女子高生はその青信号を信じて渡ったのだという噂が流れた。僕たち小学校での話だ。やがてこの事故を受けてここに歩行者信号機が立った。
僕たちの街にも地域特有の七不思議みたいな話がいくつもあった。
信号が青になり、僕たちは渡る。
「ここで女子高生が轢かれた同じ年に、天祢の妹さんも亡くなったんだよね」舞子がしんみりと言った。
当時僕たちは小学五年生だった。隣のクラスの女子の当時二年生の妹さんが下校時に行方不明になり、その後遺体で発見された。事故なのか事件なのかわからぬまま解決はされていない。
あの年は他にもいろいろ怪異なことがあり、僕や舞子はあの年を呪われた年だと思っている。
妖怪が暗躍する都市伝説が広がったとしても不思議ではなかった。
五時半。暗くなりつつあった。
「買い物でもして帰るのかな?」僕は舞子に訊いた。
「いや――ちょっと人と待ち合わせ。フードコートに行こう」
誰と?
その人物はすぐに見つかった。
赤とピンクと紫が入り混じった柄物のトップスに濃紺のミニスカートとニーハイ。
私服姿だとその人だと気づかない。しかし吊り目で苦虫を噛み潰したような残念な美貌はその人に間違いなかった。
「こんな時間に呼び出して、何の用なの? 舞子さん」
それは紛れもなく生徒会書記の松前理世さんだった。
時:二度目の米ばらまきがあった日の翌日―土曜日午後
場所:校内そして下校路
ここの登場人物
舞子実里 ミステリー研究会会員
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手




