学園七不思議
どこの学校にも学園七不思議はあるものだ。七不思議――それは何かのたとえなのか?
木曜日から明石さんの姿を見なかった。僕はほぼ舞子に同行していたから。
明石会長は米バラマキについて同好会室で有象無象とともに好き勝手に推理を展開し、妄想し、足をつかった作業は舞子や山縣さんに丸投げして、好きなことをしていると思っていた。
明石会長は好奇心が旺盛な反面、飽き性だから、もう米バラマキの件については興味を失ったかもしれないと思っていたのだが、まさかライフワークの学園七不思議を米バラマキに結びつけるとは……。
これは、さまざまな事象を何でもかんでも自分が研究している分野の理論に結びつける学者の性みたいなものなのか。
「学園七不思議もしくは学校七不思議について知っているか?」
明石さんが僕に訊く。
「『トイレの花子さん』とか『動く人体模型』とかですか?」
「定番だけで十個以上あるよ」と嬉しそうに語りだしたのは車谷さんだ。
「――トイレの花子さん、動く人体模型、音楽教室のピアノ、十三階段、動く肖像画の目、四時四十四分の大鏡、青い紙・赤い紙、桜の木の下の死体などなど、六つしかなくて七つめを知ると不幸が訪れるってパターンもあるね」
「その定番に、学校独自のものが加わり置き換わっていくのだ」と明石さん。「渡り廊下で囀る黒いヒバリもその一つ。他に、天井から監視する百の目とか。これは動く肖像画の目の代わりかな。うちの図書室蔵書庫の奥に飾られている初代理事長の写真の目が動くという話が、いつしかいたるところで目が現れてこちらを見ている話になった。学校までついて来た座敷童子もそうかな。動く人体模型や人がいないはずの音楽室のピアノなんてのも座敷童子の仕業という話に変わっている」
「知りませんでした」
「学園裏サイトによく出ているよ」車谷さんが言った。
「裏サイト――僕もたまに見ますが、好き勝手に書き放題ですね」
ほとんどが部外者の書き込みだ。
僕たちの学園は元女子校でしかもお嬢様学校だった。今も女子の方が多い。しかも生徒教師とも美人が多いと評判だ。羨望や嫉妬の声もあがる。性的対象として見る書き込みや、貶めるための誹謗中傷もある。男女交際禁止の校則がある反面裏でパパ活をしているなんて書き込みも多い。
誰のことだか特定しやすい書き方もしている。現生徒会長の黒森さんに対しても性に奔放みたいな書き込みをよく目にする。学校内部の生徒を装って書き込むからたちが悪い。
「SNSの裏サイト情報は九割以上がウソまたはフェイクだ。読む方もウソだと思っていて楽しんでいる面もあるな」
明石さんが言う。
「――最近では具体的に名前を挙げる書き込みもあったな。生徒会の黒森と矢車はセフレだとか、中等部のプリンスとプリンセスもすでに貫通済みだとか。そしてそれを今度の生徒会で糾弾するという話まであった。一瞬それも見てみたいと思って生徒会総会への出席も考えてみたが、まあウソだと思ったので出なかった」
「絶対内部の者が書き込んでいるだろうと僕も思うよ」車谷さんが言った。「嫉妬って怖いねえ」
車谷さんはきっと女子生徒が妬んで書き込んだと思っているだろうな。
「今回の米バラマキに関しても、いろいろ書き込みがあった。座敷童子の仕業説もあるだろうと思ったら、あったよ」
明石さんが得意気に語る。
「――もともと傘が亡くなったり靴がなくなったり、なくなったかと思うと変なところから出て来たりなんてことが日常茶飯事で、校内に座敷童子がいるとは言われていた。座敷童子はときにオーパーツやアーティファクトをも落としていく。チェスの駒が落ちているなんてこともあったな」
チェスの駒。
「しかもそのチェスの駒、保健室の魔女がコレクションしているんだとさ。保健室の魔女はカウンセリングと称して男子生徒を呼び出し、『ねえチェスの駒知らない? 知っていたら良いこと教えてあげる』って言うらしい」
車谷さんが笑った。
「そんなふうに校内でいろいろいたずらをする座敷童子が米をばらまいたって説が出たのだ」
「季節外れの節分――なんて話もあってだね」車谷さんが続ける。「座敷童子はあちこちで集めた米や豆を校内に隠し持っていた。それを天井から監視する百の目が見る。黒いヒバリも嗅ぎつける。ヒバリは餌くれ餌くれと囀る。初めは座敷童子も仕方なく米をばらまいたが、だんだんそれを渋るようになる。米がもらえないと思ったヒバリは囀る。生徒会にばらす、生徒会にばらす。なんでそこに生徒会が出てくるんだよ。笑うね。そしたら座敷童子はやけを起こして持っていた米や豆をばらまくんだ。鬼は外、福は内ってね。それが季節外れの節分」
「かくしていろいろと混じった米がばらまかれた――というわけさ」
明石さんがしめた。そして付け加えるように言う。
「さて、こうした書き込み。ただのたわごとだと思ってはいけない。世の中には何かと裏事情を知っているひとがいる。しかしそれを言うと自分の身は危ない。しかし言いたい。そういう時ひとはどうすると思う?」
「門外不出の日記に書き込むのでしょうか」
「王様の耳はロバの耳」
は?
「王様の耳がロバの耳をしていることを知った床屋は、穴を掘ってそこに向かって叫んだ。それと同じだ。嘘偽りであふれた世界に叫ぶ。そこは嘘偽りにあふれた世界。何を書いたって誰も信じやしない。生徒会長と副会長ができているって書いたって信じられないだろう。しかしあまりにそのままを書くのも勇気がいる。だから何かに喩える。たとえば童話風に」
「裏サイトに書かれた都市伝説は本当のことの譬えだと?」
「その可能性もあるなということだ」
あったらいいなくらいの話だ。
「ネットに書かれた陰謀論もバカにできないな。その中に本当の話が紛れ込んでいることもある。面白いからと言って無闇矢鱈信じるのも問題だが、相手にしないのも問題だ。何が真実か。じっくり見極める必要がある」
なるほど――学園七不思議もバカにできないか。
「ロマンだねえ」
いやあんた――実は信じてないだろ。
時:二度目の米ばらまきがあった日の翌日―土曜日午後
場所:校内
ここの登場人物
明石透 ミステリー研究会会長
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
車谷 高等部二年生 都市伝説研究会会員




