囀る黒いヒバリ
とにかく語りたがるおかしな輩はしばしばいる
僕は図書室を出た。
どうやって但馬から逃れたかは記憶にない。
語り手である僕はウソをつくわけにはいかない。もちろん間違ったことも語れない。だから言えないことは最初から書かない。
そう――記憶にございません――だ。
特に意味もなく廊下を歩いていた。
四時になろうとしている。そろそろ帰ろうかな。舞子も忙しそうだし。
そう思っていた僕は階段を下りてくる人物に遭遇した。
そのキャラからは考えられないほどの美貌の男――明石透ミステリ研会長だ。
「芦屋ではないか」
「ごぶさた……」と言いそうになり僕は口をモゴモゴさせた。
明石さんには連れがいた。もちろん女子ではない。明石さんと二人きりになれる女子を僕は山縣さんくらいしか知らない。
「校内散歩か?」
「さっきまで図書室にいました」
但馬といた――なんて言うと面倒だ。明石さんは但馬のうんちくにとことん付き合うからな。どんな話だったと訊かれるに決まっている。
「明石さんは?」
都合の悪いことは言えない。ならば相手のことを訊く。それが鉄則だ。
「僕たちは名所めぐりだ」
学校に名所などあっただろうか。
「彼が学園七不思議に興味があるみたいだから案内していたんだ」
そう言ったのは都市伝説研究会の人だった。名前は初出になるが車谷さんだ。例の――「米の起源を述べよ」問題に対して神話を答えた話を知っていた人だ。
なお――同じ都市伝説研究会にはその話が創作だと言った人もいたが車谷さんは実話だと信じている。
同じ研究会に異なる意見の人がいるのは普通だろう。少なくとも我が校の研究会ではそれが当たり前だった。
都市伝説をロマンだと考え興奮するか、冷静に捉え事実がどのようにして伝説になっていったかを探究するかの違いだ。
車谷さんはきっとロマン派なのだろう。そして明石さんにもそういうところがあった。
「うちの学校にも七不思議があったのですね」僕は訊いた。
どこの学校にもあるだろう。そういうものだとは思っていたが実際に注目したことはなかった。
「今フィールドワークにしているのは――」フィールドワーク?
「踊り場で囀る黒いヒバリ――だ」なんだそれ? 初耳だ。
「踊り場とは限らないんだけどね」車谷さんは言った。「姿が見えないから踊り場とかトイレとか言われている」
姿が見えないのに「黒いヒバリ」。
「ヒバリって何色でしたっけ?」僕は思わず訊いていた。
「褐色系だな」
何でも「系」をつければ良いというものではない。
「スズメ目ヒバリ科だ。スズメの色から茶系色を減らした感じかな。もはや絶滅危惧種扱いだ。東京都ではレッドリストに載っている」
階段を下り切った明石さんと車谷さんが僕の前に立った。
「ぴーちくぱーちく」
突然明石さんがおどけたように手を広げて鳥真似をする。
美貌の男の三文芝居。これが明石会長クオリティ。
「昔、田んぼや河原に当たり前のようにいたヒバリは激減。この御堂藤学園に棲みついて人知れず囀るようになった。ぴーちくぱーちく」
「そんな鳴き方なのですか?」
「ひーちぶひーちぶ――らしいよ」車谷さんが答えた。
「学園内に潜伏するヒバリは、やがて学園の闇を知るようになる。そして夜な夜な――いや昼間でもその闇を語るようになった。人の言葉を真似て」
「ヒバリって人の真似できるのですか?」
「さあな。野鳥研究会のヤツに今度訊いてみよう」
「それで、ヒバリはどんなことを語るんです?」
「餌くれー餌くれー」
笑わないで下さい、車谷さん。
「――その結果、米が撒かれたとさ」
学園の闇を語っていたのではないのかよ。
時:二度目の米ばらまきがあった日の翌日―土曜日午後
場所:校内階段踊り場、廊下
ここの登場人物
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
明石透 ミステリー研究会会長
車谷 都市伝説研究会会員




