古米の保管
とかく探偵役は手の内を明かさずもったいぶるものだ。
「浅倉と高原がゴミ捨て場で見つけてきた三本のペットボトル。やはりあれに古米が容れられていたようだ」舞子が言った。
「リュックに入れれば持ち運べますね。あと――ばら撒くときに便利でしょうか」浅倉さんが言う。
「中の米が乾燥していれば問題ないが、湿気を帯びて塊ができたりしたら穴が塞がって撒きづらいかもな。ただ――少なくとも渡り廊下で回収した米粒は程よく乾燥していた。おそらくその状態でペットボトルに入っていたのだろう」
「米はいつペットボトルに詰め込んだのでしょう?」
「あのペットボトルは三本とも同じメーカーだと思われる。ラベルは剥がしてあったがキャップに刻まれた数字はみな同じだった。もちろん容器のかたちも同じだ。そして中に入っていた米も同じ時期の同じ銘柄のものと推察される。回収した米を生物部に鑑定してもらったら同じ時期の同じ品種ではないかとのことだった。しかも古米だ。いつの時期かはわからない。ただ――ペットボトルについては八年以上前のものと判明した」
「そんな古いペットボトルを捨てずに持っていて新たに古い米を入れたとは考えにくいですね。やはり八年以上前にペットボトルに詰め込んでその状態で保管していた?」
「そうだ。それをわざわざ学校まで持ってきたという線は――否定はできないものの、考えにくいな。むしろ学校内のどこかにその状態で保管されていたと考えるべきだ」
どうなのだろう? 当日学校に持ち込んだ線は捨てて良いのか?
「何年も保管していたということですか? 学校内に?」
「備蓄倉庫の米がまず浮かんだのだが、倉庫にある米は違ったのだろう?」
「ペットボトルに詰め込んで保管することはないですね。それにもっと短いサイクルで古いものから処分するそうです。飼料にするとか」
「そもそも米の保存は難しい。夏でも15℃以下にすべきらしいな。となると冷蔵庫。校内にある冷蔵庫といえば学食や家庭科室などが考えられるが、そこではなかった。やはりどこかの部・同好会が怪しい。冷蔵庫の設置は生徒会を通して学校に許可を願い出る。たいていが運動部だろう。運動部には冷蔵庫や洗濯機が必須だ」
「米を保管する運動部があるでしょうか。食べるためには炊飯器も必要ですね」
「昔は部室でバーベキューをやって火災報知器が鳴り、大騒ぎになったとか、鍋をやって騒いで処分されたとか、そういった話を聞いたことがある。ただ、ご飯は持ち込んだ炊飯器で炊いたようだし、米も当日持参したようだ。持ち込みは荷物チェックのない日曜日とかだろうな」
「米をばら撒いて騒動を起こせば、平日朝でも持ち込めるかもしれませんよ」
「最初のばら撒きの時に持ち込んだってか? その最初の米はどうした?」
「あれはいろいろな米が混じっていたのですよね?」
「そうだったな。最初の件と二度目の件は分けて考えよう」
「今は金曜日にばらまかれた米の件ですね」
「ペットボトルに入れた状態で冷蔵庫に八年以上だ。それがもしどこかの部だとしたら、保管したヤツはもう卒業してしまっているな。ひょっとしたらそういう米の存在も忘れられていたかもしれない。しかしその存在に今の部員が気づいた。さてどうする?」
「食べようとも思わないし、廃棄しますね」
「堂々と学校のゴミ捨て場に捨てるか?」
「うーん、どうでしょうか。今は月曜日の米バラマキで騒ぎになっていますし。とりあえずはほとぼりが冷めるまでそのまま保管するでしょうか。どうせ八年も保管していて気づかなかったくらいですし」
「ではどうして今になって、捨てる気になったのだろう?」
「今捨てなければならない事情ができたのでしょうか」
「生徒会総会が開かれる日の朝だったんだ。総会が関係していると思わないか?」
「総会で取り上げられる議案と関係しているということでしょうか?」
「八号議案の中に当日になってから先送りされた議案があった。幡野さんが提出した生徒会による部室監査。そして部から同好会への格下げ提案。生徒会が強制的に部室監査を行って未承認の備品がないかチェックする。そんなのをやられて届け出をしていない冷蔵庫や炊飯器が見つかったとしたら、そしてその部が部として存続することに危機感を持っていたとしたら、そんな議案はとり上げて欲しくなかっただろうな」
「それで騒ぎを起こすためにばら撒いたと? しかし幡野さんが提出した議案は公になっていましたっけ? 八号議案はその他としか書いていませんでした。ということは八号議案の具体的中身がリークされたことになりますね」
「そうなんだよな」舞子は虚脱した。「この考えのネックはそこなんだ。生徒会の内部に情報を漏らしたヤツがいることになる。でなければ幡野さんがあちこちに吹聴してまわったとかな。それも考えにくいが……」
「まあなんにせよ、舞子さんはもうあたりをつけていらっしゃるのでしょう?」
「フフフ……」
舞子は無気味に笑った。どことなく明石会長に似ている。
とうとう舞子は明石会長に憑依されたようだ。
「実はな……」
舞子は浅倉さんと樋笠を近くに呼び寄せて話し始めた。
僕はプリンセス前薗さんと顔を見合わせる。
「紅茶――淹れなおしますね」
「ありがとう」
前薗さんにはいつも癒されるな。
時:二度目の米ばらまきがあった日の翌日――土曜日午後
場所:ボランティア部部室
ここの登場人物
舞子実里 ミステリー研究会会員
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
前園純香 中等部三年生 ボランティア部部長 御堂藤のプリンセス
樋笠大地 中等部三年生 舞子の配下
浅倉明音 中等部三年生 舞子の配下




