土曜日 中等部生徒会室
ふだんひきこもりがちな探偵は古巣に戻ると女王になる。接待をうけつつも配下から情報収集を怠らない。
焼きそばパンを手にして舞子に連れられてきたのは中等部生徒会室だった。
ここは舞子の古巣でもある。つい先月まで舞子実里はこの中等部生徒会室の女王だった。
「会長……ようこそおいで下さいました」
「会長はあなたよ。東矢さん」
出迎えたのはさらさらの黒髪ストレートを腰近くまで下ろした美少女だった。
東矢泉月。現在の中等部生徒会長だ。そして舞子の配下でもある。
額出しの黒髪ロングは矢車ガールズを思い出させるが、東矢さんには矢車さんに傾倒する姿勢が微塵も感じられない。異性にときめくことなどまるでないのかもしれない。
「どうぞ、こちらに」
副会長の渋谷恭平君が僕を出迎える。
こんな美少年にエスコートされ僕はとても恐縮した。と言って僕がそちらの道に進むことはない。
渋谷君は美貌の男という表現にふさわしい容姿をしていた。
僕は基本的に男に対して美貌という言葉を使うことはない。例外があるとしたら明石会長と矢車さんだろう。渋谷君が高等部に上がるころには間違いなく明石さんや矢車さんをしのぐのではないかと僕は思う。
「お昼、一緒にしても良いかしら」舞子が言う。
「ええ、ぜひ」東矢さんが答えた。
焼きそばパンしか持参しなかった僕たちの前にサラダ盛り、ミニバーガー、ホットドッグ、唐揚げなどが並べられた。
これはもはやケータリングだろ!
「来週の中等部生徒会に向けて今日は缶詰状態です」東矢さんが言った。
「泉月の実家からの差し入れだそうです」渋谷君が付け加えた。
渋谷君は東矢さんを名前呼びする。
舞子の配下たちは互いを名前呼びすることが多かった。それだけ強い結びつきがあるのかもしれない。
「大変だなあ」とか言いつつ、舞子はすでにミニバーガーを頬張っていた。
焼きそばパンはどうした?
中等部生徒会は来週定例会を開くそうだ。毎年中高合同の生徒会総会を開いてから中等部単独で定例会を開く。今日はその準備に追われていた。昨日の生徒会総会の結果を受けての定例会になるそうだ。
書類の山は脇に置かれていた。今はランチタイムだったようだ。それを狙って舞子はやって来たのかもしれない。
「昨日の生徒総会の議事録見せてもらえるかな?」舞子が言った。
「正式な議事録はまだ高等部から受け取っておりませんが、中等部の書記が作成したものならこれです」東矢さんが舞子に手渡した。
舞子がそれにざっと目を通す。おそらく高原さんからも大筋を聞いているだろう。情報収集はいくつもの情報源から手に入れる。それが舞子のいつものやり方だった。
「この八号議案――結局米バラマキのことで終わってしまったと思うけれど、あれがなければどんなことが話し合われるはずだったのかな? 本来検討されるはずだった個別の議案はわかるの?」
「これです」東矢さんはそう言われると思って用意していたようだ。
「なるほどな」
僕は舞子から説明を受けた。
部の同好会への降格提案。これは幡野さんが提出したものだろう。対象となる部が三つ挙げられていた。
部室への生徒会監査。持ち込み禁止の備品を部室に置いていないか強制的に立ち入り調査する権限を生徒会に持たせる提案。これも幡野さんが出した議案だ。
第二同好会室設置案。これは手塚さんかな。
生徒会則(校則)改定要望。服装の自由化。持ち物検査の撤廃、携帯電話の教室内持ち込み、恋愛禁止条項の撤廃……などなど、これは毎回議論されてはスルーされる議案だ。
校則違反者の処分。ん? 誰か違反したのか? 服装とか? それとも喫煙とか飲酒とか? それは単なる校則違反では済まないな。
「まあ、いつものその他の案件だな。次の臨時総会にまわしても体勢に影響はなかっただろう」
幡野さん、手塚さん、ご愁傷さまです。
「さすがに東矢が用意したケータリングは旨いな。毎日でも食べたいくらいだ」
「ふだんはお弁当です」東矢さんは無表情のまま答えた。
今日は特別だったというわけだ。それを知っていてここに来たのではないかと僕は思ってしまった。舞子はこういうのを嗅ぎつけるのだ。
時:二度目の米ばらまきがあった日の翌日――土曜日昼
場所:中等部生徒会室
ここの登場人物
舞子実里 ミステリー研究会会員
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
東矢泉月 中等部生徒会長
渋谷恭平 中等部生徒会副会長




