土曜日 学食購買部
探偵役の配下はすべてにおいて優秀だ。いつもそばにいる探偵助手よりもずっと役に立つ。
舞子はまだ学校にいるつもりらしい。
僕は学食に連れてこられた。ここで昼飯を調達して、午後も学園内をうろくつようだ。
「ショック~~! 焼きそばパンがない!」
舞子は悲鳴を上げてから口を噤んだ。
周囲にはまだ学食を利用する生徒がいた。授業を終えて帰る前に昼食だけとる生徒もいるのだ。部活に向かう前にランチをとる生徒もいただろう。
そんな中、ふだんクールビューティーの舞子実里が滅多にない奇声を発したのだから注目を浴びるだろう。
舞子は何事もなかったかのように無表情をつくろった。
「こんな時間に残っていると思う方がおかしい」
僕は身も蓋もない言い方をした。
「土曜日だから残っているかなと思ったの!」
舞子は僕にだけ聞こえるように言った。
「他のものをさがそう」
何ならラーメンかうどんくらい食べて行こうか。
後ろから声がかかる。
「舞子さーん!」
後ろにいたのは舞子の配下のひとり――中等部三年の高原和泉さんだった。
「良かったら、これ」と高原さんが差し出したのは焼きそばパンだった。
「お!」舞子が目を輝かせた。
「そろそろ来られるかと思って買っておきました」
「優秀、優秀、君は最高だ」
舞子が絶賛する。そんなことは滅多にない。
「芦屋さんのもありますよ」
何と二つもある。確かに優秀だ。
舞子が満足そうに微笑み、高原さんと僕も笑顔になった。
「――あのペットボトルですが」
笑顔のまま高原さんが低い声で語る。まるで腹話術だ。彼女の顔から声が発しているように感じられない。
「――キャップに刻まれた数字から八年以上前のものとわかりました」
「三本ともか?」舞子の声も小さく低い。周囲には聞こえないだろう。
「はい」
「やはりな。米をつめこんだのもその頃なのだろう。米をボトルに詰めた状態で八年以上経過したということだ」
「私からは以上です」
高原さんは余計なことを語らなかった。
「ごきげんよう!」
明るく発すると高原さんは去って行った。
「ん? どういうこと」
僕は一応訊ねた。
移動しながら舞子が語る。
「廃棄してもおかしくない古米をペットボトルに詰め込んでばら撒いたのではなく、ペットボトルに詰めて何年も経過したものを今回ばら撒いたんだろう」
「意味が分からない」
僕はお尻をつねられた。
「イテ!」
舞子が突然声色を変える。しかも周囲に気づかれないようにあざとい顔をする。
「もお! 芦屋くんたら。おバカなふりをしてえ」
「してないよ……」
それにしても痛いな。
「続きは、ランチタイムでしようよ」
「それだけで足りるのか?」
僕も舞子も焼きそばパンを一つずつしか手にしていない。
「きっと何かあるよ~」
どこに?
僕は舞子に連れられて移動した。
時:二度目の米ばらまきがあった日の翌日――土曜日の昼
場所:学園内食堂
ここの登場人物
舞子実里 ミステリー研究会会員
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
高原和泉 中等部三年生 舞子の配下




