生徒会総会 山縣対幡野
パパラッチと堅物クレオパトラが意見を戦わせる。
討論でマウントをとるにはいかにレトリックを駆使するかとともに、いかに聴衆を味方につけるかも大事だ。そのためにはしばしば根回しも必要となるだろう。
生徒会総会最後の議案で、本日の米バラマキ騒動に触れることになった。誰の意図かはわからない。生徒会にプレッシャーをかけた連中がいるのだろうか。
壇上の山縣杏菜さん。新聞部の代表らしい。
新聞部部長は議決権行使の座席に座っているから山縣さんが報告するしかなかったのか。
というより、山縣さん個人のSNS――一応新聞部部員としてのSNSで逐一報告していたからだろう。山縣さんがこの件に関して最も情報を持っていると誰もが思っていたはずだ。
「新聞部の山縣です」
「いよっ!」「杏菜ちゃーん!」
にっこり笑って手を振る山縣さん。僕の横に座る幡野さんの発する威圧感が凄い。死にそうだ。
山縣さんはまず今週月曜日朝の西の渡り廊下に米がばら撒かれていた件を説明した。
集って来た鳥の糞の様子からばら撒かれた時期は土曜日か日曜日。撒かれた米にはうるち米だけでなくもち米も混じっていたこと。うるち米は新しい米と時期の異なるらしい古い米が混じっていたこと。量は五キロ分もなかったのではないかと報告した。
そこまでは熱心に山縣さんのSNS記事を読んでいる者なら知っているだろう。隣に座る幡野さんは珍しくふんふんと頷いていたから詳しくは知らなかったのかもしれない。
そして今朝金曜日の米バラマキだ。ばら撒かれたのは西の渡り廊下だけではなく、中庭に二か所、倉庫裏、体育館裏、中等部校舎裏で、もちろん前日放課後にはなかったことから木曜日深夜から金曜日早朝にかけての時間帯にばら撒かれたであろうことを報告した。その量はおそらく十キロ程度。そしてほぼ同じ時期のうるち米だと考えられると。
「いったい誰がこんなことをしたのでしょう。これはもう学園に対する宣戦布告です!」
「そうだ!」「そうだ!」
いや――煽りすぎじゃね? 合いの手を入れているのはどこかの同好会か?
隣の幡野さんの圧が凄い。
「下品なひとたちが増えたわね」
「それだけ自由になったということだよ」手塚さんは悠然としていた。
「――以上、現時点で判明したことであります。報告終わりです」
頭を下げ、壇上を離れようとした山縣さんに向かって幡野さんが声をかけた。
「ちょっとよろしいでしょうか」
先ほどから何度も質問をしている幡野さんだ。すぐに発言の機会を与えられる。
「一度目と二度目は同じ人の所業だとお考えですか?」
「わかりません」山縣さんはけろっとした顔で答えた。
「生徒会の意見はいかがです?」おそらくそちらの方が訊きたかったのだろう。
「さあどうでしょうか。撒かれた米が違いますし、違う人のしたことかもしれませんね。私たちは警察ではありませんから捜査もできません」
「いわゆる捜査権限を新聞部に与えたということでしょうか?」
「新聞部とミステリー研究会から米についての調査をしたいと申し出がありましたので、許可は与えました。その調査結果は生徒会に報告するようにお願いしております」
「まあ――ミステリ研!」驚いたような顔をして僕をチラ見した。
やめて欲しい。息が詰まりそうだ。
「話を聞いておりますと、一度目と二度目とではお米が違うとのこと。撒いた人も違うのではないでしょうか。そもそも最初の米のばらまきをセンセーショナルに報道しなければ、二度目のばらまきはなされなかったのではありませんか? これは愉快犯の仕業ではないのですか?」
「その可能性は否定できないですね」と答えたのは山縣さんだった。全く悪びれず幡野さんに対している。同じクラスだし、遠慮もないのだろう。仲が良いとは思えないけれど。
「ですが二度目のは明らかに悪質です。撒いた人が悪いとは思いませんか? 誰がやったかつきとめ、何らかの処分をする必要があるとは思いませんか?」
「大げさに報道した責任はとらないということですね?」
「事実を書き続けただけです」
「そうだ!」「そうだ!」
山縣さんには支持者は多いようだ。サクラかもしれないが。
サクラを用意することくらい山縣さんならやりそうだ。
「では新聞部とミステリー研究会に事態を収拾していただくことにしましょう。この学園に秩序ある平穏が戻ってくることを期待しています」
幡野さんはそう言って腰を下ろした。まるで生徒会役員みたいだ。
これはミステリ研が解決しなければならなくなった?
できるのか?
秩序ある平穏だぞ。取り戻せるのか?
時:二度目の米ばらまきがあった日――金曜日放課後
場所:大講堂 生徒会総会会場
ここの登場人物
山縣杏菜 新聞部部員・ミステリー研究会会員
幡野沙織 文芸部部長
黒森麗愛 生徒会長
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
その他生徒会総会参加者多数




