生徒会総会開幕
物語にはしばしば説明的なパラグラフがある。世界観を共有するために必要なものだが、一部の読み手にとってはわずらわしい。読み飛ばし(速読)は許されるだろう。
大講堂の前の方の席――議決権を持つ各代表の席は埋まった。
僕は初めて参加したが居心地が悪いくらい緊張を強いられる席だ。隣に幡野さんがいたからかもしれない。
幡野さんは舞子の前の代の中等部生徒会長をしていたし、黒森さんの後任の高等部生徒会長候補でもある。幡野さんの学年――高等部二年生で、彼女に匹敵する候補がいるだろうか。
二年生はいろいろと濃い人が多い。明石さんとか。
他にも何人も顔が浮かぶ。周りから浮いて、無視されたり、拒絶されたりすることもいとわない自由人が多かった。
しかしいずれも生徒会長という柄ではない。仮に立候補しても選ばれることはないだろう。
さて――今回の生徒会総会。全校集会に次ぐレベルの会だ。年に三回開かれる定例会だった。ここで対応できない事例に対しては適宜臨時総会が開かれ、そこで議論されることになる。幡野さんや手塚さんが提出した議案は臨時総会にまわされたそうだ。
そういう意味では今回は年度初めの顔合わせ的な意味合いが強い。
参加しているのは、生徒会、部・同好会代表、そして各種委員だった。部代表二十三名、同好会代表四十二名。これで部・同好会の議決権は六十五名分になる。
次に各種委員。美化風紀委員や保健委員、図書委員などからそれぞれ代表者――たいてい委員長が出席する。一名ずつだ。委員の中には体育祭実行委員やら文化祭実行委員やら修学旅行委員など一時期のイベントのみに特化した委員もいるがそこからの参加はない。日々活動している委員のみだ。それが十二名。
しかし最も大きな集団は学級委員だった。中等部は五クラス三学年で計十五クラス。高等部は八クラス三学年で二十四クラス。合計三十九クラスあり、それぞれに男女の学級委員がいて、その両方が参加する。ということで学級委員だけで七十八名が参加することになる。
部活と各種委員(学級委員以外)の合計七十七名に匹敵する数がいるのだ。まさに生徒の代表。特定の団体の意見にどのように影響されるか読めないことから「浮動票」と言われていた。
僕が見た先に中等部三年生の高原和泉がいた。彼女は中等部三年A組の女子学級委員のようだ。僕と目が合った時にニコっと笑って手を振った。それに気づいた幡野さんが僕を横目で見る。
やめて欲しい。僕は目立ちたくないのだ。
高原さんが参加しているから、この総会のことは舞子の耳にしっかりと入るだろう。彼女は舞子の忠実な配下だった。
僕も舞子に報告することになるだろう。この「語り」を舞子向けに書き換えて。それが僕の役割だ。探偵助手も楽ではない。
そして――総会は開かれた。
まずは開会宣言。
司会は黒森会長と矢車副会長が議案ごとに交代して担当するようだ。書記は松前さん。なお総会の模様は録画録音されているので、議事録はそれを見て書面化するのだろう。
そして議事録署名人が二人選ばれた。
教職員からひとり立会人が参加している。口出しできるわけではないが学校側がつつがなく会議が行われているか見届けるために派遣している形だ。
立会人は高等部の野上先生だった。文芸部の顧問だ。僕が教えてもらう機会はないが文芸部で何度も言葉を交わしたことがある。この学園に多い報道キャスタータイプの若い女性教師だった。
役員紹介が始まる。高等部は前年の十月からの任期なので馴染みはある。中等部は四月からの任期だ。舞子の後を受けた中等部生徒会長は東矢泉月、副会長は渋谷恭平、書記、会計……と順次紹介された。
議事進行は速い。ある程度根回しをしているのだろう。
前年度会計報告と今年度予算の説明。やたら数字が並んだために僕にはさっぱりわからない。眠くなるばかりだ。多分わからないひとの方が多いのではないか。
部・同好会代表の興味は予算割り当てだろうが、それらはすでに部活連の会合で決められていたようで、この総会ではそれを踏襲するかたちになっていた。
今年度活動計画。行事日程の説明とそれに付随する生徒の活動。近隣の中高との交流、近隣住民との交流まで前年度活動と合わせて説明があった。
学校周辺の清掃活動やら老人施設訪問などボランティア活動の報告の際にはボランティア部部長の前薗さんが出てきて報告していた。中等部生でありながらすでに学園のプリンセスになっている。
時々幡野さんが質問を挟んだりしたが、議事進行は速やかに進み、最後の八号議案その他検討事項に移った。まるでここのためにこれまでの多くの議案を端折ったように僕は感じてしまった。
「なお八号議案ですが、事前に提案され検討する予定だった議案ではなく、急遽持ち上がった議案の検討をすることになります」黒森会長が言った。「本日朝、校内の六か所においてお米が散布されました。今週初めの月曜日にも渡り廊下に米が落ちていて、それに対していくつかの意見を頂戴しております。まずは一連の出来事について取材を行った新聞部より報告をしていただきます」
壇上に登場したのは新聞部山縣さんだった。
明石さんがいなくて良かったな。いたら「僕にまかせろ」とうるさかっただろう。
時:二度目の米ばらまきがあった日――金曜日放課後
場所:大講堂 生徒会総会会場
ここの登場人物
黒森麗愛 生徒会長 高等部三年生
矢車漣 生徒会副会長 高等部三年生
幡野沙織 高等部二年生 文芸部部長
山縣杏菜 新聞部部員・ミステリー研究会会員
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
その他総会参加者、手塚理、高原和泉、前園純香……等々




