金曜日放課後、生徒会総会
モブにとってネームドの集まりは脅威だ。ただ小さくなって震えているしかない。
六限目が終わると僕は荷物をまとめて大講堂まで急いだ。三時十五分に生徒会総会が開始される。
僕はミステリ研代表として出席することになってしまった。これは舞子の意思だ。
舞子は参加しない。おそらくはボランティア部部室に行ったと思われる。
これは歓迎すべきことなのだろうか。突然やる気を失い腑抜けになってしまった舞子が動き始めた。影に隠れている感はあるものの。
あの二人――浅倉明音と高原和泉は舞子が最も信頼する配下だ。総合成績は学年五指に入る。中等部二年修了時で学年二位と三位。運動神経も抜群で浅倉は運動部の助っ人をしていたし高原は陸上部だった。そして二人とも美形。中等部はおろか高等部でも知られる存在だ。
そんな目立つ二人だから学園内どこにいても不審者に見えない。明るく振る舞いながら隠密活動をしているなど誰が想像しよう。いや――一部には知られていたが。
その二人を使ったとなれば舞子も本気だ。本気で解決しようとしている。それがどんな真実を見いだそうと覚悟はしているようだ。
僕は黙ってそれを観ているしかない?
大講堂に入った。
大講堂は外部講師を招いて講演をしてもらう作りになっている。階段状の座席は演者席に向かって下っていく。
一部の席にはサイドテーブルとスイッチがあった。評決をとるためのスイッチだ。総会の議決権保持者はここに座る。僕もその一人だった。
山縣さんがいた。山縣さんは新聞部として聴講を許されているのだろう。新聞部代表の部長は別にいて議決権保持者席にいるようだった。
山縣さんと写真部須磨は取材のためにあちこち動いていた。
「頼んだわよ、芦屋くん」
山縣さんが立ち寄って僕に発破をかけた。
いや――僕はいるだけですけれど。参加することに意義があるのです。
ボランティア部からは前薗さんが参加していた。中等部生とはいえ前薗さんはボランティア部の部長だ。そして学園のプリンセスでもある。
こうしていざ参加してみると学園の色濃い顔がいくつも見られた。そういう人たちが僕のそばにうじゃうじゃいる。
油断していたわけでもないが僕は「ネームド」に声をかけられた。
「芦屋君、あなたが代表なのね」
見事なまでの黒髪ロング。サラサラ髪はストレートでツヤがある。大講堂の暗い照明のもとでも光る。
光り輝く漆黒の髪――という矛盾した表現は間違っていない。そして前髪が眉のあたりできっちりと切り揃えられていてクレオパトラを思わせる。
僕はクレオパトラには会ったことはないがきっとこんな感じなのだろう。
彼女こそ高等部二年幡野沙織。文芸部の部長さんだった。そう――明石さんと対立した人だ。
清楚・清純・聡明という我が御堂藤学園の校風にぴったりマッチした美女。
しかし、高等部の学園の顔としては黒森生徒会長の後塵を拝していた。現に学園案内パンフレットの写真はずっと黒森さんだ。黒森さんと前薗さんに挟まれた幡野さんが学校案内のパンフレットに載ることはない。
「お久しぶりです」と僕は言うしかない。
「新聞部と結託して良からぬ風評を撒き散らしているようね」
「はあ……」
いきなりブチのめされる。容赦はない。加減ができない人なのだ。裏表がない分だけ理解はしやすい。
「あなたたちが騒ぐから愉快犯がどんどん現れる。この学園がやりたい放題に汚される」いちいちごもっともです。
「まあ――芦屋君に言っても仕方がないことね。元凶は私たちの学年にいるし」明石さんのことだ。
幡野さんは僕の隣に腰を下ろした。
どうしてそこに座るのですか? ほかにもたくさん席があるでしょう。
「それにしても大所帯になったわ。同好会を増やし過ぎたせい? 四十ちかくあるのかしら?」
「四十二――だよ」と言って幡野さんに声をかけたのは二年生男子。たしか――。
「手塚君。あなた――何部だったかしら?」そう、手塚さんだ。
「ボードゲーム同好会。矢車さんが生徒会副会長になったために僕が同好会会長になったのだよ」
生徒会に入ると部・同好会の部長・会長になれない。そう校則に明記されている。生徒会の人間が特定の部活に有利な動きをしないような計らいだ。
まあ――形式的な話だと思う。その気になったらいくらでも動くことができる。
「そこ――良いかい?」
手塚さんが言って、僕と幡野さんの前を通って、幡野さんの向こう側に腰かけた。
すらりとした長身。長めの髪に銀縁眼鏡。矢車さんに似たスタイルだ。といって矢車さんを真似したわけではないだろうが。
「四十二もの同好会があの同好会室につめこまれている。教室二つ分あるスペースだったのに、今や荷物だけで通路も塞がりつつある。だから第二同好会室設置の議案を提出した」
「そう――私はいくつかの部が部の態をなしていないから同好会に格下げする議案を出したわ。他にも生徒会による部室監査とか。学校内持ち込みが禁じられているものが部室に置かれていたりするもの」
「カオスな状況は部も変わらないということか」
「三つ議案を出して、八号議案の『その他』で取り上げられてもらえると思ったのに、朝の騒動のせいで次回の臨時総会に先送りにされたわ。先ほど矢車さんに言われたの」
「僕の第二同好会室案も先送りされたよ」
「まったく、余計なことをしてくれたわね」
なるほど――そんなところまで米バラマキの影響が出ているのか。
それにしても――幡野さんは三つも議案を出したのか。しかもそれが直前までとり上げられるところだった。
それって実質的に生徒会役員じゃないか。
時:二度目の米ばらまきがあった日――金曜日放課後
場所:大講堂 生徒会総会会場
ここの登場人物
山縣杏菜 新聞部部員・ミステリー研究会会員
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員
幡野沙織 高等部二年生 文芸部部長
手塚理 高等部二年生 ボードゲーム同好会会長




