舞子は動き出していた
誰もが裏表両方の顔をもっている。衆人環視の場でこっそり密談するとき、ひとはみな役者になる。
五限目と六限目の間の休憩時間。僕は舞子実里に連れられて中庭に出た。
米がばら撒かれた現場を見るのかと思いきや、そこにはもう園芸部も美化風紀委員もおらず、短い休憩時間なだけに人影もなく、舞子の興味も現場ではなさそうだった。
「現場を見るのではなかったの?」僕は訊いた。
「もうすっかり片付けられているみたいね」舞子は他人事のように言った。
「誰もいないし――良いことしようか」僕の懐に潜り僕を見上げる。
こいつは女優だ。あざとい演技もできる。だからこれも演技なのだ。
「うっふ~ん――背が高くて届かな~い」
だからやるなよ演技。届かない――なんて大げさだ。僕はそんなに背は高くない。
僕たちの学園は校則で生徒同士の恋愛を禁じていた。
男女二人でいるだけでも教職員、生徒会、美化風紀委員の「職質」を受ける可能性があった。しかもこんな職員室の窓からも見えるところでふざけるなんて。
「来たか」突然舞子が声色を変えた。
「「参上つかまつりました」」
いつの間にか女子生徒が二人――至近距離にいた。中等部三年の女子だ。
「きゃああ――舞子さん」
「お元気ですかあ?」
突然嬌声をあげる。これも演技だな。
「浅倉さん、高原さん、ごきげんよう」舞子の外面だ。
「生徒会総会――出ないんですかあ」
「ざんねーん」
何だかわざとらしいな。
それくらいでちょうど良いのかな。会話が全て聞かれるわけでもないし。断片的に聞かせるなら。
「どうだ?」舞子が訊ねる。
「私たちが把握した限りでは不審者の侵入は掴めていません――現時点では」
なるほど前回は美化風紀委員室に何者かが侵入した形跡があったのだ。今回もドサクサ紛れにどこかに侵入した可能性がある。それを舞子は気にかけていたのだ。
ただその形跡は今回は掴めていない。現時点では。
「しかし、ゴミ捨て場に不審なペットボトルが」
「不審?」
「2リットルのペットボトルが3本入っただけの袋が不燃ごみとして捨てられていました」
「資源ごみでなく――か」
「ペットボトル用の捨て方ではないです。つぶしてもいないし、キャップ付きだし、洗ってあるかもわかりません」
「袋に3本だけというのも不自然ですね。袋がスカスカです」
「現物はどうした?」
「ボランティア部部室に保管しております」
「大地に任せました」
樋笠大地のことだ。舞子の忠実なる犬。チャラいヤツだが。
「後で見に行く」舞子が低い声で言った。
二人の声色が変わった。
「いつも仲良しですね~」
「うらやま〜~」
それ――大声で言って良いことじゃないよね。
「「お元気でー」」
大きく手を振って二人は離れて行った。
時:二度目の米ばらまきがあった日――金曜日の五限目と六限目の間の休憩時間
場所:中庭
ここの登場人物
舞子実里 ミステリー研究会会員
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
高原和泉 中等部三年生 舞子の配下
浅倉明音 中等部三年生 舞子の配下




