米の保管と座敷童子
しばしばひとは口をつぐむ。言いたくないことは言わない。やたら主義主張をしたがる有象無象の野次馬たちにも、言わない自由がある。それをタブーという。タブーを言語化するためには陰謀論もやむなしだ。
「校内に米は保管されていないのか? 今回はうるち米だ。学食にはあるだろう?」
明石会長が舞子に向かって言った。
ついこの間まで中等部生徒会にいた舞子ならそのくらいのことは知っているだろうと思ったに違いない。
「もち米ではなく、ふつうのご飯用のお米なら学食倉庫にある大型冷蔵庫に保管されています。一週間で入れ替わる程度の量ですがかなりの量ですね。あとは備蓄倉庫にもあるかも……」
「備蓄倉庫にあるのはレトルト米じゃないのか?」
「どうでしょうか」
「米の保存て結構面倒だぞ。夏でも15℃以下推奨。玄米なら精米機が必要だし、白米なら真空パックなどが良いかな」
「学食の米が盗難にあっていないか要チェックだな」
「前回はそんなことはない――という話だったけどね」山縣さんは月曜日のバラマキ時点で一度チェックしていたらしい。「その後はどうなったかわからないからもう一度聞いておくよ」
「あとは鑑定待ちだ」
「これって同一犯なのか?」
「前回のと米が異なるようならそれも疑ってかからないとな」
「何のために?」
「なぜ今日なんだ?」
「生徒会総会で朝練が少なくなり、監視の目が緩んだ?」
実際校門前チェックを行う生徒スタッフのうち生徒会役員の数はいつもより少なかったと知らされた。
松前さんと矢車副会長はしっかり現場に来ていたから、資料まとめの役員が早朝から生徒会室にこもっていたのだろう。ギリギリに総会出欠票を提出する輩が多かったのも関係があるかもしれない。
提出が遅れて申し訳ないな。明石さんは知らないだろうけど。
何かが起こるにはいくつもの条件が重なる必要がある。バラマキに適した条件――いわゆる至適条件が今回は揃ってしまったということに違いない。
それともどうしても今日ばらまかねばならなかったのか?
それなら原因ではなく理由があるということだ。
「これも座敷童子の仕業か?」有象無象の一人から声が上がった。
早速、明石会長が目をつける。「君は確か――」
名前なんて知らないだろう。
「都市伝説研究会だ」
「妖怪研究会かと思ったよ」そんな同好会あったのですか?
「何でも取り扱い中。学園七不思議も学校の怪談も」
「座敷童子は学校じゃなくて家だろ!」
「学校わらし――か」
笑い声が起こる。
「何なら――裏生徒会も裏新聞も扱っているぜ」
有象無象たちが黙った。
「僕は聞かなかったことにするよ」
「粛清されるしな」
「裏サイトは後で見ておこう。なあ山縣君」
「え、ええ、そうね」
「座敷童子ではないのだろうが」都市伝説研究会の男は言った。「ロッカーの扉が開いていたり、下駄箱に置いていた靴の向きが変えられていたり、教室の机が微妙に動かされていたりといった事象は昔からよく耳にするな」
「なるほど――学校にも座敷童子に相当するいたずら好きな妖怪がいると?」
明石会長は笑う。こういう話が好きなのだ。
「それを言い出したら俺なんか何本も傘をなくしたよ」
「ああ、あるあるだな。俺の傘なんて一週間ほどして帰ってきたよ」
「誰かが借りてただけだろ。勝手に」
「まあ――事実とはそういうものだ。勘違いとか、悪気のない出来心とか」
「米のバラマキもそうだと言うのか?」
「手に余って捨てたとか」
「また廃棄説に回帰だ」
「確かに――廃棄するならこの時期だな。連続バラマキ事件にしてしまえば最初の奴に疑いを向けられる」
「なかなか秀逸ではないか」明石会長はご満悦だ。「処分したいものがあればドサクサ紛れが一番だな」
「何かを隠すためのドサクサ――それはあらゆる場面で使われる。学園七不思議や学校の怪談だってそうだ。ほんとうにあったことを隠すために別のかたちに仕上げた可能性はある」
都市伝説研究会の主張だ。
「座敷童子を装う――ただの生徒がいると言うわけだな?」明石会長が訊く。
「生徒とは限らない。教職員やその他あるいは学校とは関わりのない連中かもしれない」
「なるほど……」
都市伝説研究会もまともなことを言うのだ――と僕は感心した。
時:二度目の米ばらまきがあった日――金曜日昼休み
場所:同好会室
ここの登場人物
明石透 ミステリー研究会会長
山縣杏菜 新聞部部員・ミステリー研究会会員
舞子実里 ミステリー研究会会員
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
その他有象無象の野次馬たち
都市伝説研究会など




