金曜日昼休み、有象無象の同好会室
適当な頃合いを見計らって二度目の事件が起こるのはミステリーでは常套だ。そしてその二度目には何らかの必然性を用意しなければならない。
昼休みになった。僕たちミステリ研の五人は同好会室に集まっていた。
昨日は会合が開かれなかったが、さすがに今日は開かれる。朝、米のばらまきが行われたからだ。
同好会室最奥の端末前に僕は座り、記録者としてキーボードを叩いている。
「お米が落ちていたのは把握しているだけで六か所。月曜日にも撒かれた西の渡り廊下。中庭花壇に二か所。これは二十メートル距離があいているため二か所とカウントしているわ。そして体育館裏。倉庫裏。中等部校舎裏。他にも探せばあるかもしれない」
山縣さんが報告している。
「――今回は発見が早かったようで、鳥の糞害はほとんど見られなかった。渡り廊下の清掃も朝の段階で完了したし。ただ花壇についてはまだ米粒が残存しているようで、今も園芸部と美化風紀委員が対処しているわ」
「集めた米は廃棄せず、保管しているのだな?」
「生徒会室で保管してもらうことになったわ。はじめは美化風紀委員に保管をお願いしたのだけれど、責任を持てないと言うものだから……」
それは神々廻さんが断ったのだろう。美化風紀委員室に何者かが侵入した形跡があったのだ。誰が侵入するかわからないところに保管などできないという意味だ。
神々廻さんは山縣さんはじめ新聞部に侵入者の件は報告していない。そんなことを報告したら大騒ぎになる。
保管を断られた山縣さんは不思議に思っただろうが、神々廻さんには強く言えなかったのだろう。
中等部生なのに神々廻さんは威圧感がある。さすがは舞子の配下だ。
その舞子はいつも通り黙って話を聞いていた。
「たぶん10キロくらい撒かれたのではないかと。鑑定はまた生物部と家庭科部にお願いしているわ」
「ざっと見た感じだが――」口を挟んだのは食糧自給を考える会兼生物部の男子生徒だった。初出になるが、名前は木嶋さんという。二年生だ。
「――今回はすべてうるち米だと思われる。そしておそらくは同じ袋に入っていた米ではないかと」
詳しくは時間をかけて顕微鏡観察を行ってから結果を報告すると木嶋さんは言った。
まだ昼休みだ。朝回収した米の鑑定にはまだまだ時間がかかるだろう。
「10キロ袋に入っていた均一の米をあちこちに分けてばらまいた可能性が高いということだな」
「そうなるわね」「そうなるな」
山縣さんと木嶋さんが声を揃えた。
「単独犯か」明石さんが言った。「一つの袋に入っていた米をあちこちに分けてばら撒いたということか。何のために? そのメッセージ性は?」
「今回はグローバリズムではなくてナショナリズムか」
「ほう……」とは言いつつ、明石会長はもうその手の話には興味を失っているように見えた。
「さすがにこうなると、過失で落としてしまった可能性は否定されるわね。ちょっとした犯罪よ。警察に通報するほどのものではないにしても」
「前回のと同一犯の仕業だろうか?」明石さんが問う。
「模倣犯、愉快犯の可能性は否定できないけれど、同じひとではないかしら。そんなにたくさんばらまく人が校内にいるというのも怖いわ」
通っている学校内に誰だか知らないが可笑しな真似をする者がいるというのは気持ちの良い話ではない。特に正体がわからなければ不気味だ。
「ひとりでばらまいたのか?」有象無象のひとりが口を挟む。「六か所もまわるとなると、結構時間がかかるぞ。十分やそこらでできるとは思えない。いつばら撒いたんだ? 今朝か?」
「正門が開くのは八時。その時点から教職員、生徒会、美化風紀委員が正門前に立つ」
「朝練で八時前に登校する生徒は守衛さんがいる裏門から入る。あそこなら六時から入校可能だ」
「今日は生徒会総会があるから朝練をしない部活も多かったと思うよ」
「そんな日に米十キロも持ち込んだら目立つな」
「米は今朝持ち込んだのか? あらかじめ持ち込んだ可能性は?」
「何人かに少しずつ持たせて登校すれば可能だな」
「そうなると複数犯になるな。ばらまいたのも同時多発テロかよ」
そう言えば矢車さんが「同時多発テロ」的なことを呟いていたな。彼の頭にはその可能性が高いという考えが浮かんだのだろうか。
それに対して明石会長が言ったのは何だったっけ?
――座敷童子の仕業だろう
僕は思い出した。
明石さんはぶっとんでいる。
時:二度目の米ばらまきがあった日――金曜日の昼休み
場所:同好会室
ここの登場人物
明石透 ミステリー研究会会長
山縣杏菜 新聞部部員・ミステリー研究会会員
舞子実里 ミステリー研究会会員
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
須磨入鹿 写真部部員・ミステリー研究会会員 セリフなし たぶん、今後もセリフなし
その他有象無象の同好会室住人、木嶋(食糧自給を考える会会員・生物部部員)などなど




