表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/68

黒森生徒会長と矢車副会長

目立ちたくない人間にとって、値踏みするような目は怖い。できればそういう連中の前には立ちたくないものだ。

 黒森(くろもり)生徒会長が舞子(まいこ)と僕のところに来たのと入れ替わるように松前(まつまえ)書記は離れて行った。舞子が書き加えた書類を手にして。


「彼女には助けてもらっているわ」黒森会長は松前さんの後ろ姿を見遣(みや)りながら言う。「先代の会長さんの時からいて、生徒会活動の全体の流れをよく知っているし、何より憎まれ役を(いと)わないところが尊敬に値する」

「そうですね」舞子は素直に頷いた。


 高等部入学生にして学園の伝統を守る側にいるのがちょうど良い立ち位置なのかもしれない。

 松前さんのことを革新派と保守派のどちらからもウザいと思われているひとだと思っていたが、現生徒会には必要な人材なのだ――きっと。


 他の役員たちは影が薄かった。黒森会長と矢車(やぐるま)副会長の指示に何の疑問も呈さない。まさに従順な下僕のイメージだ。


「例の件は進展があったのかしら?」

 黒森会長が口にしたのは米バラマキ事件のことだ。


「米を鑑定してもらったところ、いくつかのルートの米が混じり合ったものだそうです。あちこちからかき集めたみたいに」

「まあそこまでわかるものなの?」

「ミニ同好会にはいろいろな分野の専門家がいますから」

「同好会をたくさん作ったのは間違いではなかったのね」

 黒森さんは安心したかのように言った。


 規制緩和してミニ同好会を生み出したのは黒森生徒会だったはず。それが間違いだった可能性も黒森さんの頭の片隅にあったのかもしれない。


 その先のことを舞子は言わなかった。実際進展はないしな。明石さんと有象無象の連中の間ではファンタジーなお花畑が広がっていたかもしれないが。


 ボランティア部で上がった美化風紀委員室への侵入者の件も舞子が語ることはなかった。あれはまだ報告する段階に達していないと舞子は判断しているのか。

 山縣(やまがた)さんら新聞部に知られたらセンセーショナルに書かれるだろうな。米バラマキ事件は上書きされてしまうだろう。

 不審者侵入の方がより犯罪のニオイがある。


 ミステリ研と同じように締め切りに遅れて総会出欠票を書いて提出したミニ同好会の面々が順に退室していき、気がついたら生徒会役員と僕たちだけになってしまった。


 どうやら僕たちは黒森さんに引き留められていたようだ。黒森さんから見たら二つ年下の舞子は可愛がる対象なのかもしれない。


「舞子くん」その人が姿を現した。「ようこそ生徒会へ」

矢車(やぐるま)副会長。お久しぶりです」舞子は慎ましく頭を下げた。


 フレームレス眼鏡をかけた美貌の男、矢車漣(やぐるまれん)生徒会副会長がそこにいた。

 なぜかとりまくように黒髪ロングの美少女が二人ついている。手が()いているからだろうか。

 奥には書類をチェックする女子生徒も二人いた。


「今からでも生徒会に入らないかい?」矢車さんは口許に微笑をたたえた。「君なら大歓迎だ」

「まあ素敵ね。私も歓迎するわ」黒森さんも合わせるように言った。


 人事権は矢車さんの方にあるのか?


「私は高校生活はのんべんだらりと過ごしたいので、せっかくのお誘いですがお断りします」舞子ははっきりと答えた。

「そうか、それは残念だね。しかし――明日の総会くらいは出るのだろう?」

「ここにいる芦屋(あしや)君に任せました」舞子は僕を前に押し出した。

芦屋(あしや)君か――」

 矢車さんの目が鑑定眼に見えた。黒森会長の鑑定眼とは少し違う。


 矢車さんの目は、その対象が自分にとって役に立つものかどうかを見極めているように思えた。


「明日の総会は年度初めのものだから、役員紹介と所信表明、そして予算割り当てなどが中心になるわ」

 黒森会長は気軽に参加してねと僕に言っている。


「議決権の重みについての検討が議論を呼びそうだ。早速同好会側から一票の格差問題についての指摘が出されている。どのくらい時間を割くことができるか不透明だが、紛糾する可能性もあるね」

「同好会を作りすぎたかしら?」

「どうだろうね。趣味が多様化している現在、これもひとつのかたちだと僕は思うのだが」


 ミニ同好会が乱立して、部を上回る数になった。同好会が部の二倍近くある。同好会に部と同じ発言権を認めることに対して慎重な意見は多いだろう。


「総会の時間は限られている。優先順位の低い議案は端折(はしょ)ることもありうるね」


 優先順位をどのように決めていたのかわからない。

 実際――翌日の生徒会総会は当初のレジュメ通りに進行できなかった。


 翌朝、ふたたび米がばらまかれた(・・・・・・・・)からだ。


時:米ばらまきがあった日の三日後――木曜日放課後

場所:生徒会室


ここの登場人物

舞子実里まいこ みのり ミステリー研究会会員

芦屋憲勇あしや けんゆう ミステリー研究会会員 僕 語り手

黒森麗愛くろもり れいあ 生徒会長

矢車漣やぐるま れん 生徒会副会長


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ