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ゲリラ米

早朝の人だかり。映像作品ならその場に集まった登場人物の動きをさりげなく描写できる。そして視聴者はそのどこに注目するか自己責任で決定する。

文字のみで描写する小説形式の物語は、ひとつずつ順番に記述していくしかない。しかもすべて書ききれるものではないのだ。あくまでも語り手の視点でしか書けない。描かれなかった人物の動きを読み手が見ることはできない。

 僕の家は舞子実里(まいこみのり)の家と隣同士だ。舞子(まいこ)とは幼馴染でもある。幼稚園、小学校も同じだった。


 僕は空気みたいな存在だったから、舞子の隣にいてずっと黙っていても誰も気にしない。僕自身も会話がなくて気まずいと思ったことはない。それは舞子も同じだろう。舞子はただ思いついたことを僕に向かって口にするだけだ。


 そんな僕と舞子だから示し合わせて一緒に登校することはない。ただ、家を出てバスに乗り込むあたりで合流することはある。今日もまたそうなった。


 そしてバスが一緒だと電車も一緒になる。わざわざ離れて乗ることもしないから同じ車両に乗り、そして学園最寄り駅に着いて、一緒に下車して改札口を出て、御堂藤(みどうふじ)学園生の波に紛れるころにはバラバラになったりするのが日常だった。


 今日もバラバラになったはずだったが、駅から徒歩十分ほど歩いて学園正門にさしかかった時、僕は舞子に追いついていた。


 正門前の人だかりが少ない。生徒たちを迎える教職員、生徒会、美化風紀委員の数がいつもより明らかに少なかった。そう、米がばらまかれた月曜日の朝と一緒だ。


「何かがあったよ」僕を待っていたかのように舞子がいつもの無表情で振り返った。

「やれやれだぜ」

「村上春樹?」


 僕はジョジョのつもりで言ったのだが、返ってきた舞子のひとことはそれだった。



 僕たちは校内に入り中庭を突っ切ろうとした。その先に先日米バラマキ事件があった西の渡り廊下がある。そこが向かうべき場所だと思い込んだのだった。


 その途中――園芸部が管理している花壇に小鳥が数羽下りていた。近くに女子生徒が多くいても飛び立つ気配がない。

 見るとそこにはばらまかれたように散らかる米粒があった。

 四月だったので色とりどりのチューリップ、パンジーにムスカリの寄せ植えがあり、その隙間の土に米粒が落ちていた。

 それは花々の上――花びらや葉の上にも落ちていて。小鳥たちは容赦なく花や葉をつついていた。


 そしてそこだけが現場だったわけではない。その先にも人が(たか)る。

 前回の現場だった渡り廊下のみならず学校内のあちこちに米がばらまかれていたのだ。


 手袋をして(ほうき)や大きな袋を手にした園芸部そして美化風紀委員が駆け巡る。もちろん生徒会もだ。


「何なのこれは」松前(まつまえ)書記の叫びはもはや定番となった。

「人の仕事を増やしおって! クソ野郎が」三つ編み眼鏡の神々廻(ししば)さんのつぶやきに僕を含めおとなしい男子は凍りついた。

「え! またーーー!!?」沢辺(さわべ)先生の小さな巨体(・・・・・)が駆ける。「舞子さんも手伝って」

「わかりました」

 僕は舞子に手を引かれた。


「同時多発テロかな」いつの間にか矢車(やぐるま)生徒会副会長がいて、そう呟いた。

座敷童子(ざしきわらし)仕業(しわざ)だろう」のんびりと(のたま)ったのは明石(あかし)ミステリ研会長だった。

 学園内でも有名な美貌の男が二人――ここに並び立った。


「あれを撮るのよーーー」

 新聞部山縣(やまがた)さんが写真係の須磨(すま)に矢車副会長と明石さんの写真を撮るように迫った。

 もはやパパラッチではない。単なるストーカーだ。美貌の男たちの方がバラマキ事件より絵になるということだ。


 花壇は園芸部と美化風紀委員たちに任せて、僕たちは最初の現場でもある西の渡り廊下に立った。


 西の渡り廊下にも確かに米がばらまかれていた。意図的にばらまいたかどうか断定はできないが、誰もがばらまいたと思ったはず。

 ふつうの生徒に米を持ち歩く理由はないし、落としたのなら片付けるだろう。だからこれは意図的行為だ。

 そして二度目ともなると、そこにいた者の立ち回りも変わって来る。


「今回は鳥の糞も少ないな」明石会長が呟いた。「ばらまかれてそれほど時間が経過していない?」


 小鳥たちは米を(ついば)んでいたが、大勢の生徒がやって来て、飛び立っていった。他にも餌場はあると言わんばかりに。


「現場の写真を撮りなさい――はやく」松前(まつまえ)さんが写真係に言った。

 並び立つ明石さんと矢車さんにカメラを向けさせる山縣さんを松前さんは軽蔑するような目で見ていた。


「さて――現場検証だな」

「てきぱきと動いて頂戴ね」


 明石さんの動きを松前さんは制しなかった。もはやダメと言っても無駄だろうと諦めている様子だ。むしろ明石さんの思うようにやらせた方が良いと考えたのかもしれない。そこに矢車副会長もいたことだし。


「僕たちも手伝うよ」

 同好会室の有象無象が何人か顔を出していた。もちろん出すのは顔だけではなく口もだ。


「サンプルの回収は慎重にしよう」

「糞やほこりも少ないから、全て回収できるのではないか」

「汚れはついていないが、何となく硬くて古いな」


 花壇に撒かれた米よりかは回収しやすそうだ。花壇のは土にまみれてしまう。


「他の場所のも回収する必要はある」明石さんが言った。「同じ米粒かどうかは検討しなければならない」


 確かにそうだと僕も思うが、よその現場は誰がするのだろう?


 口を動かすだけでは手足は動かない。


時:最初に米ばらまきがあった日の四日後――金曜日早朝

場所:校内


ここの登場人物

舞子実里まいこ みのり ミステリー研究会会員

芦屋憲勇あしや けんゆう ミステリー研究会会員 僕 語り手

松前理世まつまえ りよ 生徒会書記

矢車漣やぐるま れん 生徒会副会長

明石透あかし とおる ミステリー研究会会長

山縣杏菜やまがた あんな 新聞部部員・ミステリー研究会会員


その他集まったものたち:神々廻璃乃、沢辺早妃……等々


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