生徒会の堅物
お堅い人は、ときに自分語りをする。下級生はだまって耳を傾けるしかない。
「芦屋君が参加するのね」
松前さんが笑った――ように見えた。
「何で僕?」僕は思わず声に出していた。舞子に向かって。
「明石さんは出席しない。私は中等部の頃総会に出たことがある。そうなると芦屋君が参加するべきだわ。何事も経験よ」
いや、そういう経験をしたいとは思いません。
「総会なのだから、原則参加するべきよ。それが生徒の務め。芦屋君なら良識がありそうで良いわね」
松前さんは満足そうだ。
「最近、同好会が増えて総会参加者も多くなったわ。何だかよくわからない議案を提出するひとも増えたし」松前さんは続けた。「特に校則改定の議案。たいてい――持ち物検査の廃止とか髪染め自由とか、恋愛禁止の撤廃とか。風紀の乱れまっしぐらよ」
「毎回あがる議題ですね」
誰が提案するのだろう。
「黒森会長が自由だから過半数の意見なら何でも通る可能性がある。実際制服はかなり自由度が増したし、髪形も三つ編みばかりではなくなったしね」
その黒森会長は奥にいらっしゃる。
「――でも黒森会長が髪を染めたり恋愛することはないわ」
松前さんは言い切った。かなり自信があるようだ。
「松前さんは今のままで良いとお考えですか?」舞子が訊く。
「私は高等部入学生。中学は公立に通っていたわ」松前さんはなぜかその中学名を口にした。
「もしかしてご近所さんでした?」舞子と僕が公立に通っていたらその中学だっただろう。同じ学区だ。
「そうよ、私はひかり台小。舞子さんはつつじが丘北小だったわね」
「よくご存知で」
「興味があるひとのことは調べるわよ」
僕も舞子と同じ小学校に通ってましたがご存知ないようで。
「とにかく公立中学は何でもありのカオスだった。早くここを逃れたいと思ったものよ」
松前さんは自分語りをする人のようだ。
「中二の頃にこの学園の学校案内を見たの。私が憧れるお嬢様学校の雰囲気」
「お嬢様学校ならつつじが丘学園もすぐ近くに」
「あそこは近すぎるわ」
近いとダメなのか。
「何よりも学校案内に載っていた当時の生徒会長さんのお姿とその言葉に感銘を受けて」
「松前さんが中二なら私たちは中一。生徒会長は白砂さんでしたね」
「そう――そんな名前だったね。まさに清楚清純聡明。それでいて芯の強い高貴な方。黒髪が後光を浴びて輝き銀色に光り……」
この人、実はミーハー? 男装麗人の歌劇団にハマりそうだな。
舞子は黙って聞いていた。僕は存在を消している。
「絶対ここに入ると決めたわ。だから必死に勉強を頑張った。私そんなに出来る方じゃなかったの」
我が校は中等部から入るより高等部から入る方が難しい。僕が高等部を受けて合格できたか自信はない。
「校風に憧れて入ったのに、ちょっと違う。特に一年生は中高一貫生と高等部入学生のクラスが完全に分かれていたから私の周りには校風に合わないような輩ばかり。なんで男子がいるのよ」
それは共学ですから。
男子は数が少ないだけでなく僕みたいなおとなしいのが多いから目立たない。三人に一人はいるはずなのにもっと少なく感じるはずですが。
「同じ中学にいた頭おかしいヤツもいた。わかるでしょう?」
松前さんが舞子の顔を覗き込む。
「わかります」
舞子は言わされたわけではない。すぐに察したからだ。
僕にもわかった。
「あいつもつつじが丘北小だったものね」
「はい」
「あんなのが入ってくるようではこの学園も終わりだわ。なんで退学にならないのかしら」
気持ちはわかりますが少々過激では?
「とにかく私は御堂藤を守ると決めたの。だから良いかしら?」僕の方を向いた。「芦屋君はミステリ研の良心。くれぐれも良識を失わないように」
「はい」僕はかすれた声を絞り出した。
御堂藤の校風に憧れて入ってきた人は高等部入学生であっても保守派だ。
「ミニ同好会が増えて議決権も増えたわ。雰囲気に流されてどんなおかしな議案が通るかわかったものじゃない。この学園のことをよく考えてね」
最後になって僕は松前さんに威圧された。
「あら舞子さん」奥から黒森生徒会長がやって来た。「何だか、お久しぶりね」
「ご無沙汰しております」
「すっかり痩せて……大丈夫なの?」
「ダイエットしまして……それで体調を崩しました」ハハハと舞子は作り笑いをする。
「無理はしないでね」
「最近は芦屋君を頼っています」
「そう――仲が良くて羨ましいわ」
「はい」
そこは適当に否定しろよ。
時:米ばらまきがあった日の三日後――木曜日放課後
場所:生徒会室
ここの登場人物
松前理世 生徒会書記
舞子実里 ミステリー研究会会員
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
黒森麗愛 生徒会長




