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木曜日放課後

とかくライトノベルのしがないモブ主人公は巻き込まれ体質である。そうでないと面白くない。

 その日、六限目が終わると同時に担任の氷室(ひむろ)先生がショートホームルームのために教室に入って来た。

 ありふれた日常だ。


 氷室(ひむろ)先生は二十代後半の女性教師。


 わが御堂藤(みどうふじ)学園は元女子校だったこともあり生徒の六、七割が女子だが、教師の女性比率はさらにそれを上回る。


 高等部は一学年八クラスだが、男性教師が担任を務めているのはどの学年も一、二名だ。とにかく女性教師が多い。しかも若くて美人の。

 中でも氷室先生は高等部一年の担任団の中では一番の美貌だと僕は思っている。


 ただ――笑わない。

 淡々とニュースを読み上げる報道キャスターみたいだ。


 その氷室先生のホームルームは無駄な発言がないからとても短い。だから一年生の中では我がC組が最も早く終わる。

 今日も五分もかからなかった。


「明日は生徒会総会が開かれるため放課後のホームルームはありません」


 そうか――明日は年に三度開かれる総会の一回目だったか。僕は今さらのように思い出した。


 総会は中高そろって参加する一大イベントだったが、三月まで中等部のモブだった僕は参加したことがない。

 だから他人事のように感じていた。


舞子(まいこ)さん、生徒会松前(まつまえ)書記があなたに話があるそうよ。この後、生徒会室へ向かってください」


 ただの連絡事項のように言うと、氷室先生はすぐに退室した。


 立ち上がろうとした僕は舞子に袖を引かれた。



「担任を介して呼び出すなんて……」舞子はぶつぶつ言っている。

 僕は舞子の半歩後ろを小走りに従った。

「お腹がいたいよお……」都合が悪くなると舞子のお腹はいたくなる。


 生徒会室に近づくにつれ、舞子の足取りは重くなり、危うさが増していった。


「保健室に行こうかな」

「今日の担当は霜村(しもむら)伊地知(いじち)だったよ」

 僕が教えると、舞子はため息をついた。


 諦めた舞子は扉をノックし、そのままの勢いで開けた。

 何となくやぶれかぶれに見える。


 中には確かに生徒会役員がたくさんいたが、それに負けず劣らない有象無象がいた。あちこちに散らばって書類を記入している。


「舞子さん、こっちよ」

 松前書記に呼ばれて、舞子と僕は松前さんが待つところへ移動した。


「明日の総会の出欠票に不備があるわ。訂正してくれるかしら」

「ミステリ研のですよね?」

明石(あかし)君が持ってきて、ぽんと置いていったけれど、話にならないわ」


 総会に対して、出席票、議決権行使書、委任状のどれかを提出しなければならないらしい。

 明石会長は欠席と書いて名前だけ記入していた。


 欠席の場合、議決権行使書で議案ごとに賛否を書くか、委任状で他の参加者を代理指名して全面委任するかのどちらかをしなければならないのに、そこは空欄だ。


「よく読んでいない証拠ね。バカにしているのよ」


 新しくできた同好会で初参加のところもあるだろう。ここに集まっているのは書き方がわからなかったとか、質問があってやって来た連中のようだ。


 明石会長は自信満々の様子で書類を置いていったという。

「しかも提出期限を過ぎている」松前さんはそう言いながら、同じように今書類を記入している有象無象の同好会たちを蔑むように見た。


「勉強はできるのに、どうして常識がないのかしら」

「これ――書いて出せば良いのですよね?」舞子はほっとしたような顔をしていた。


 おそらく舞子はどうして松前書記に呼び出されたのか、びくびくしていたに違いない。

 何だかんだ言って、舞子は中高一貫生であり、上下関係をわきまえている。二年生の松前さんには先輩後輩の間柄として接しているし、高等部生徒会役員にも敬意を持っている。

 書類を書くだけで済むなら舞子には全く問題なかった――というわけだ。


 舞子は、議決権行使書にある八つの議案すべて賛成に(まる)をつけた。出欠は明石会長が(まる)をつけた「欠席」のままだ。


「すべて賛成で良いのかしら?」松前さんが覗き込む。「八号議案のその他提案事項なんて、何が飛び出すかわからないのよ」


 八号議案に限らず、ほんとうはよく話を聞かないと賛成も反対もできないものだ。しかし実際のところ、どうでも良いと感じている生徒は多いに違いない。

 一部の者は積極的に賛成し、一部の者は断固として反対する。その他の多数派はおそらくどうでも良い層だろう。だから面倒くさいから全部(まる)だ。


「欠席でも良いの? その他の議案の中にひょっとしたらミステリー研究会の廃会要求が入っているかもしれないわよ」

「そうなんですか?」

 舞子が焦ったような顔をしたぞ。こいつにこんな顔をさせるヤツはそうそういない。


「だって、騒動を起こして生徒たちを惑わすのですもの。良く思っていないひとだっているでしょう」

 確かに――それは松前さんですよね。


「何があるかわからないから、総会には出るべきよ」

「わかりました」

 舞子はそう言って、出席の方に〇をつけ、出席者の欄に「芦屋憲勇」と書いた。


 いや――なんで僕??


時:米ばらまきがあった日の三日後――木曜日放課後

場所:一年C組教室そして生徒会室


ここの登場人物

舞子実里まいこ みのり 高等部一年C組 ミステリー研究会会員

芦屋憲勇あしや けんゆう 高等部一年C組 ミステリー研究会会員 僕 語り手

氷室エレナ(ひむろ えれな) 高等部一年C組担任

松前理世まつまえ りよ 生徒会書記


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