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有象無象の同好会室

同好会室に野次馬たちがやってくる

 昼休みの同好会室。そこは魑魅魍魎(ちみもうりょう)――ではなく、有象無象(うぞうむぞう)がたむろする世界だ。


 昨年秋に就任した現生徒会長の手腕で部・同好会の規制緩和がなされた。

 兼部の部員を五人集めるだけで同好会を登録できるようになった。

 それまでは専属部員が最低三人とか活動計画書とかあれこれ条件が必要だったのだが頭数を集めるだけで同好会ができるようになった。


 かくしてどのような活動をするグループなのかわからないミニ同好会が乱立し、そのすべてがこの同好会室――教室二つをぶち抜いた区画に押し込められたのだった。


 スチール棚が大量に持ち込まれ、パーテションがわりに無造作に配置され、さながら迷路のような異空間が出来上がった。


 骨董品収集かと見紛(みまが)うものが陳列された一画(いっかく)、昆虫標本が(うずたか)く積み上げられた一画、いかにも駒が足りないボードゲームが詰め込まれた一画――それらを通り抜けた最果(さいは)てに共用の端末が何台か並ぶ壁に到達する。

 そこは生徒会に提出する活動報告書を作成する場でもあった。


「さて、集まったことだし――ミステリー研究会会議を始める」そう宣言したのはミステリ研会長――高等部二年D組明石透(あかしとおる)だった。


須磨(すま)君は新聞部部室で画像編集しているわ。選別した画像はこの端末で見れるようにしてくれる。もうすぐね」

 高等部二年A組の山縣杏菜(やまがたあんな)と一年A組須磨入鹿(すまいるか)は新聞部部員だ。そちらを主たる活動としているがミステリ研も兼部している。山縣はミステリ研会員としてこの場に参加していた。


「今朝現場にいなかった舞子(まいこ)もいることだし、まずはプレゼンと行こう」


 端末に打ち込む記録者のキーボード操作音が響く。


「現場の様子はすでに山縣(やまがた)が新聞部のSNSサイトで語っている。四月✕日月曜日。八時十分。西側渡り廊下。大量の米がまき散らかされていた」


「大量というほどでもなかったかな」メモを見ながら山縣が口を挟む。

「何をもって大量というか――だ。回収した米の量はどうだったのだろう?」

「そのあたりは後で美化風紀委員に聴くことになるわね」

「うむ。しかし一合二合という量ではなかった印象だ」

「五キロくらいあったのかなあ」

「半径五メートル――いや飛び散った米は十メートル以上離れたところにも落ちていたな」

「その場で落としたというよりもぶち撒けた感じ――ね」

「そう――だからこれは意図してなされた行為だ。我々はその意図を読み取らなければならない」


「お米もそうだけれど鳥の糞が目立っていたわね。掃除しても糞だけ残っていた。今ごろ生徒会と美化風紀委員がブラシでゴシゴシ清掃しているのでしょう」

「現場再見すべきだったな」

「明石君が行くとまた叱られるわよ。松前(まつまえ)さんに」

「いつものことだ」明石は意に介さない。

 天上天下唯我独尊――それが明石透という男だった。


「――これは犯人のメッセージだ。米を使って文字を書いたかとも思ったがそんな様子はなかった。掃いた後の鳥の糞の位置を見ても何の文字も浮かび上がらなかった」

「そうね、でもあの鳥の糞――どれだけ時間が経てばあの量の排泄がなされるのかしら」

「犯行時刻を特定するのに必要な考え方だな。どう思う舞子(まいこ)?」


 明石に問われたのは高等部一年C組舞子実里(まいこみのり)。ボブカットの美少女だ。

「画像を見てないのでなんとも……」舞子は素っ気なく答えた。


「来たわよ――画像」


 記録者が使う端末の隣の端末を山縣は操作していた。


 モニターに須磨(すま)が選集した画像が一覧表示される。

 散乱する米。群がる小鳥の群れ。コンクリート面に付着した小鳥の排泄物。集まった野次馬生徒たち。


「その場にいた生徒たちに訊いてみたけれど――はじめは鳥が(たか)っているので見に来たみたい。そして人がいると何だ何だと人も集まる。かくしてあの状況になったわけ。その情報は校門前で登校生徒のチェックをしていた生徒会役員や美化風紀委員、教職員の耳にも入り現場に駆けつけたということよ」


「現場を仕切っていたのが教師ではなく松前というところがこの学園らしいな」

「ああいう場に松前さんは適任よ。明石君にも立ち向かえるし」山縣が笑う。

「僕はいつも邪魔者扱いだよ」


 クールビューティー舞子が画面を見つめる。


 画面に群がるのはミステリ研メンバーだけではなかった。

 話を聞きつけ――いや聞き耳を立てていた有象無象の集団がここぞとばかりに集まってきた。それこそばら撒かれた米に集る小鳥たちのように。


「何だ何だ? これが今朝の米騒動か?」

「もったいねえ!」

「洗って食えないかな」

「土と(ほこり)まみれだろ」

「こりゃ五キロじゃないな。十キロだろう」

「スズメにドバト――か。ムクドリが来なくて良かったな」


 有象無象の集団の中に米や鳥に知見のある者もいた。


「君たち――知恵を貸してくれないか」明石が不気味な笑みを浮かべた。


 

時:米がばらまかれた日の昼休み

場所:同好会室


ここの登場人物

明石透あかし とおる ミステリー研究会会長

山縣杏菜やまがた あんな 新聞部部員・ミステリー研究会会員

舞子実里まいこ みのり ミステリー研究会会員


その他有象無象の野次馬たち


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