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ボランティア部

ひとつの騒動があった陰で、別のイベントが発生していることがある。そこに因果関係や主従関係はあるのか?

 六限目の体育が終わった。着替えたら下校だ。

 ロッカーに保管していたスマホを開くと、舞子(まいこ)から「ボランティア部にいる」と連絡が来ていた。


 これは「ボランティア部に来い」という意味だ。「◯◯する必要がある」と言って◯◯させる明石(あかし)会長に似ている。


 支配者は配下の者に()()()()()()()()()()()かのような錯覚を覚えさせる。それが支配というものだ。

 配下の者はただただ支配者の命を察しなければならない。これが日本語のロジックだ。


 僕は溜め息をついたが無視することもできずボランティア部室に向かった。



 中には舞子実里(まいこみのり)とその配下の者三人がいた。


「ここで休んでいたよ」舞子は悪びれず言った。


 この部室は使われていない教室で、古い机がいくつも残っている。それを並べてその上に寝ていたようだ――六限目の間ずっと。


「ちーっす」

 いかにもチャラい挨拶を僕に向かってするのが中等部三年生樋笠大地(ひがさだいち)舞子(まいこ)をボスと(あが)める忠実なる飼い犬だ。昨日は家庭科室でクッキーにありついていたな。


「それが先輩に対する態度か!」

 樋笠(ひがさ)の頭をはたいたのは同じく中等部三年生神々廻璃乃(ししばりの)。先日ゴミ(あさ)りを手伝ってくれた美化風紀委員でもある。


「――芦屋(あしや)先輩、お務めご苦労さまです」

 何か――その言い方もふつうではないな。


 舞子の配下はふつうではないヤツばかりだ。そうでなければ舞子の配下など務まらないだろう。僕はとてもふつうだが。


「紅茶です、芦屋さん」


 僕の前に適度な温かさの魅惑の一杯をそっと差し出したのはこのボランティア部の部長前薗純香(まえぞのすみか)だった。


 中等部三年生にして部長。高等部にも部員はいるがほぼ幽霊部員だ。

 ボランティア部は前薗(まえぞの)さんが作った部だった。舞子が「御堂藤(みどうふじ)のプリンセス」と言って寵愛(ちょうあい)する「学園の顔」だった。


 学園案内のパンフレットに載る高等部生は黒森麗愛(くろもりれいあ)会長と矢車漣(やぐるまれん)副会長だが、中等部生の男女は中等部生徒会副会長渋谷恭平(しぶやきょうへい)とこの前薗純香(まえぞのすみか)だった。

 しかも渋谷(しぶや)君と前薗(まえぞの)さんは二年続けて載っている。舞子(まいこ)が中等部を支配していた時もパンフレットのモデル女子は前薗さんだ。


 舞子の方が美人だという声が多いものの、清楚・清純・聡明の校風に最も合致する中等部女子が前薗さんだったのだ。

 御堂藤(みどうふじ)のプリンセスという二つ名は伊達ではない。


 前薗さんがボランティア部を作りたいと宣言した時も協力者はあまた現れた。入試に専念する高等部三年生が複数専属の幽霊部員になったし、多くの中等部生が掛け持ち部員になった。樋笠(ひがさ)もそうだ。

 ただ――神々廻(ししば)さんはボランティア部ではなかったと思うが……。


「美化風紀委員から相談があったのだよ」舞子が僕に言った。


 どうやら神々廻(ししば)さんは依頼主(・・・)のようだ。


「美化風紀委員室に何者かが侵入したらしい」そんな犯罪じみた言い方……。

「しかも月曜日の朝――あの米騒動があった時間帯だ」

 それはさすがに気になる――かな。


「何か()られたの?」

 委員室に個人の荷物を置くとも思えないけれど。


 僕は美化風紀委員室に入ったことはないが占有部屋を持つたいていの委員室は備品の置き場にすぎない。美化風紀委員室の場合、掃除用具とか――だろう。


「盗られたものはない――そうだ」


「土足の足跡がついていたのです」神々廻(ししば)さんが言った。「床を汚すと自分で綺麗にするのが美化風紀委員の務めです。あの騒ぎで慌てて(ほうき)やブラシを取りに行ったりしていましたからつい土足で入り、靴についた土やらを落としたのだと思いますが汚したら綺麗にするのが当たり前です」


「足跡ははっきりとついていたのだな? 気づく程度に」舞子が訊ねた。

「美化風紀委員は常に足元を気にしていますから。まあ――一部雑な委員もいますけれど」

「オレっちは美化風紀委員ではないっす」樋笠(ひがさ)がチャラく手を挙げた。すぐに神々廻(ししば)さんに睨まれる。


「今日気づいたのですが」神々廻さんは神妙な顔つきになる。「脚立(きゃたつ)の位置が違っていたのです。動かされた形跡があります」

「どうなっていた?」舞子が訊ねる。

「いつも部屋の隅に立てているのです。壁にぴったりと。しかし少しずれていました」


「それに気づいたのが今日なのだな?」

「はい」

「月曜日は気づかなかったのだろう? ならば昨日か今日動かされたのでは?」

「かもしれません。だとすれば月曜日に続いてまたしても侵入者があったことになります。しかもそれだけではなく」神々廻さんは僕に向かって顔を向けた。「全館空調の吹き出し口にも触れたようなあとがあったのです」


 おそらくそれらの話は僕がここに来るまでにすでになされていたのだろう。だから僕に向かって説明しているのだ。そうでなければオマケの僕に顔を向けるはずがない。


 それにしても怖いな。下級生なのに神々廻さんの威圧感は半端ではない。どこか舞子に通じるところがある。さすがは舞子の配下だ。


「脚立が何に使われたのか気になって上を見たわけだな」

 舞子が腕組みをした。配下の前でのボス感も凄い。いったいどれがほんとうの舞子なのかといつも思う。


「フィルターをいじったような形跡が……。うっすらと付着した埃に指の痕がわずかに残っていました」

「指紋――とれそうか?」

「さすがにそれは無理かと」

「わかった」


 警察を呼ぶつもりだったのか? 被害もないならそれは無理筋ではないか。

 僕はもちろん口を挟むことはない。


 舞子は小声で独り言を口にした。「いつものやつか……」


時:米ばらまきがあった日の二日目放課後

場所:ボランティア部部室


ここの登場人物

舞子実里まいこ みのり ミステリー研究会会員

芦屋憲勇あしや けんゆう ミステリー研究会会員 僕 語り手

樋笠大地ひがさ だいち 中等部三年生 舞子の配下

神々廻璃乃ししば りの 中等部三年生 舞子の配下 美化風紀委員

前薗純香まえぞの すみか 中等部三年生 御堂藤のプリンセス ボランティア部部長



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