表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/58

誰が得をする?

状況証拠を検証する一方で、動機に関する考察を行うことも必要だ。ただし、やりすぎると友達を失いかねない。

「メッセージ性についての検討はしばらく棚上(たなあ)げしよう」

 明石(あかし)会長が言った。要するに行き詰まりだ。


 そもそも見立てやメッセージ性は犯行現場に意味不明なものがディスプレイされた時に考えるもので、ただ米粒が多量に落ちていただけで考えるものではない――のではないかと僕は思ったがもちろん口には出さない。


 これはミステリー研究会という同好会の「雑談会」だ。余計なことを言うのは野暮(やぼ)というものだろう。


「そうなると犯行動機を考えるべきだな」明石会長は続ける。「この犯行によって誰が得をするか。要するに動機だ」


「誰が?」「得をする?」声は有象無象からあがる。


 ミステリ研の会員は黙って聞いている。これがはたして犯行なのか?とは口にしない。


「怨恨か金銭目当てか――はたまた快楽殺人か」

「これ――殺人じゃないのだけれど」

 僕の代わりに山縣(やまがた)さんが代弁してくれる。さすがに殺人まで言われてはね。


「得をするヤツなんているのか?」

「処分に困った米を廃棄しただけじゃ……」


「確かに――」と明石会長。「――廃棄説も捨てがたい。古米も混じっていたようだし」

「もったいねえ……」


「しかしまっとうなやり方の廃棄はできなかったのかよ」という声もあがる。

「できない理由があったのかもな」

「やむにやまれぬ事情――な」


「それはさておき――」と明石会長。さておくんだ? 言いたいことが言えないから路線をもとに戻したのだな。「――誰が得をするか?を検討してみよう」


 ここで「あの説」を披露するのか。


「この騒ぎで得をする者は誰か」

「新聞部じゃね!?」そっちが先に来たか。

「たしかに――新聞部にネタができるな」

「それを新聞部が記事にして書き続ける」

「そして捜査と称してあちこちで嗅ぎ廻る」

「まさに自作自演――だ」


 笑い声があちこちであがり、山縣さんは珍しく冷静さを失って「な、なんてこと言うのよー」と叫んだ。


 半分当たっている。騒ぎを大きくして喜ぶのは山縣さんの常套手段だ。


「新聞部犯行説は否めないな」明石会長まで笑っている。


「ミステリ研もだな」という声が出るのは当然だろう。


 明石会長は余裕の笑みだ。これを楽しんでいる。


「探偵が犯人というのはミステリーではままあることだな」これはミステリーではないのですけれど。

「新聞部およびミステリ研犯行説は甘んじて受け入れよう。それを覆すためにも真犯人はつきとめねばならないな」

「できるのか?」という声があがる一方で「期待しているぞ」の声もあがる。

 いやいや――のせてどうするのか。


「なお自作自演の話だが、それはきみたちあまた(・・・)の同好会にも言える」

 明石会長のひと言で有象無象が静かになる。


「この事件の解決のために各所から意見をうかがい、それらも記事になっている。ミニ同好会の貴重な意見――その中にはとてもためになる専門的な意見もあるが――それが記事に出る。同好会の存在感が校内全域に伝わるのだ」


 いや――興味があるひとばかりじゃないでしょ。

 実際――山縣さんのSNS記事に対する「イイネ」が減少傾向らしい。すでに興味は失われつつあるのだ。

 米騒動の旬は過ぎた。賑わっているのは同好会室だけだ。


「俺たちの中に犯人がいるってか?」

「鳥に関する意見や、米に関する意見、そしてグローバリズムなどなど、ミニ同好会の名がたくさん挙がっているしな」

「基本的に、さる筋の意見と書いてもインパクトがないからソースを明かすためにも同好会名は記載する方針なの」山縣さんが言った。


「誰だ?」

「やったのは?」


 みな顔を見合わせるが笑っている。やはり現実感はない。ただ面白いから参加している単なる茶番だった。


「だから――疑われる覚悟を持った上で意見を述べてくれたまえ」

 そう明石会長は言ったのだが、それで腰が引ける有象無象ではなかった。


「新聞部犯行説を言ったのは俺たちだからな」「自作自演もな」と山縣さんに載せてくれるよう迫っていた。


 何だかな。懲りない面々だ。




 それで昼休みの会合は終わり、僕は舞子とともに教室に戻る経路にいた。


「調子はどうなの?」僕は舞子に訊いた。

「あまり良くない。これから保健室に行こうと思う。体育だし」

「お大事に――ね」と言うしかない。


 あいもかわらず僕は気の利いたことが言えない。それでも僕と舞子は長い付き合いだからこの関係は成り立っている。


「午後の授業が終わったら――」舞子が僕の耳元に口を寄せる。「迎えに来てくれるよね?」

「保健室は一時間で退室させられるだろ?」だから六時間目になったら帰るべきだ。

「ケチ――」

 

 それは保健室に言ってくれ。


時:米ばらまきがあった日の二日後昼休み

場所:同好会室


ここの登場人物

明石透あかし とおる ミステリー研究会会長

山縣杏菜やまがた あんな 新聞部部員・ミステリー研究会会員

舞子実里まいこ みのり ミステリー研究会会員

芦屋憲勇あしや けんゆう ミステリー研究会会員 僕 語り手


その他有象無象の野次馬たち

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ