またまた有象無象の同好会室
有象無象の同好会室は物好きの集まりだ。それぞれ専門領域のうんちくを語りたがる。自由にしゃべらせると収拾はつかない。
次の日の昼休み。またまた同好会室の最奥に僕たちミステリ研五人は集まった。
例によって有象無象の目が集まってきている。
昨日家庭科部を訪れた舞子と生物部を訪れた山縣さんが報告を行った。
どちらにも同席していた僕は記録係なので「語らない」。今日も黙々と記録に徹する。
「米はもち米とうるち米が混じっていただけでなく、うるち米の方はさらに新旧入り混じっていたのか?」明石会長が訊いた。「もち米とうるち米の比率は二対八。もち米はほぼ同じ新しさだが、うるち米の方はいろんな時期のが混じっている――というので良いのだな?」
「そうなるわねえ」山縣さんが答えた。
舞子は押し黙ったままだ。何を考えているのかわからない。
「複数の人間がうるち米を持ち寄ったと考えるべきだろうなあ。となると家庭科部? 実際に土曜日に赤飯を作ったと……ん? 待て待て――待てーい!」
明石会長が歌舞伎調になった。
「家庭科部の赤飯はもち米二割なのか?」
「ふつう――もち米の方が多いでしょ」山縣さんが言った。
「そうですね」舞子は無表情で頷く。
「ああ、そうだね」食糧自給を考える会が口を出した。「もち米二に゙対してうるち米一かな」
「地域差があるかもだけれど、だいたいもち米の方が多いかな」別のところから声があがった。
「ん? そちらは何同好会かな」明石会長が訊ねる。
「地域差研究会カッコカリ」
「そんな同好会あったのか?」
「ただいま申請中」それでここにいるんだ?
「多様性研究会に入っているよ」
「ほう」明石会長の目が光った。
「赤飯に限らずポピュラーな料理であっても地域差はある。たとえば正月に食べる雑煮とか」
「丸餅か角餅か、焼き餅か焼かないか、すまし汁か味噌汁か――ってやつだな」
「そう、関東の赤飯はもちろんもち米優位だが豆はささげだ。実は小豆を使う地域の方が多い。関東以外は小豆と言っても良いだろう」
「千葉あたりだと落花生も使うね」別の声がした。
「赤くならないだろ」
「ささげも混ぜるんじゃね」
「ささげも小豆もササゲ属だ。よく似ているが小豆は崩れやすい。おめでたい席に使う赤飯の豆が崩れることを関東は嫌ったと言われている。一つの説だ」
「そういや、うなぎも関東は背から切り開くが関西は腹だったよな。腹を切る――が切腹につながるので関東では嫌われた」
いつものことだが有象無象の集団がいると話がややこしくなる。うんちく祭りだ。
誰が喋っているか僕はついていけない。だから適当に記録だ。
「でも僕の家、関東だけど小豆使ってるよ」
「そのように――地域を越えた人の交流があると地域差はなくなっていく。雑煮にしたって今や地域差というよりはその家のやり方次第になっているな」
「これは一見して、その地域の中でささげだったり小豆だったりと地域内の多様性が生まれたかのように見えるが、全国的に見るとそれぞれの地域の特徴がなくなっていく。日本全国どこも同じになっていくんだ」
「生物の交雑に似ているな」
「ヒトも生物だから同じだよ」
「何にせよ――多数派が勝つ。繁殖力の強い種が全てを支配するんだ」
「するともち米二割うるち米八割というのもいくつかの米が混じり合って多数派のうるち米が勝ったということかな」明石会長が米の話に戻した。
「家庭科部が関係したかもわからない。何者かが何らかのメッセージをこめて何種類かの米をばら撒いた。新しい米もあれば古い米もある。中にはもち米もあった――ということか」
「ふむふむ……」山縣さんは口を挟まずひたすらメモをとっていた。これで次のSNS発信記事は決まりだな。
「家庭科部――関係ないんじゃね?」
「そんなことをする意味もないしな」
「誰がやったかはそのメッセージの意味を考えることでわかるのかな」
「やっぱりグローバリズムだよ」
「エントロピー拡大だよ」
これ――記録しないといけないのかな。
時:米ばらまきがあった日の二日後昼休み
場所:同好会室
ここの登場人物
明石透 ミステリー研究会会長
山縣杏菜 新聞部部員・ミステリー研究会会員
舞子実里 ミステリー研究会会員
須磨入鹿 写真部部員・新聞部部員・ミステリー研究会会員 いちおういるがセリフなし
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
その他有象無象の野次馬たち。食糧自給を考える会、地域差研究会(仮)、多様性研究会など。




