ふたたび有象無象の同好会室
ふたたび同好会室で会議はひらかれる。有象無象たちが集まり、事態は紛糾する。
翌日の昼休み、僕たちは同好会室にいた。
例によって最奥の端末前。明石会長、山縣さん、舞子、写真部・新聞部兼任の須磨そして記録係の僕――芦屋憲勇の五人。ミステリ研全員集合だ。
またまた有象無象の視線を感じる。
山縣さんと舞子がいると僕たちは目立つ。明石さんは目立つけれど関わりたくない人種と皆思っているので明石さんだけなら見られることはない。
しかし常に何らかの情報を収集し拡散する山縣さんと神秘的な美少女舞子がいるとこの同好会室も華やいだ空気になるのだ。
男子の比率四割以下のこの学園において同好会室は八割以上男子の異様なエリアだった。もはやそこはダンジョン。魑魅魍魎が湧いて出る魔窟――秘境だ。
「すると――やはりうるち米にもち米が混じっているのはほんとうのことなのだな?」明石会長が山縣さんに訊いた。
米の回収には僕も参加していたのだが僕には記録係の任務がある。ここでは端末に打ち込むことが最優先され――従って僕はミステリ研会議において空気になっていた。
「いくつかの部、同好会の協力を得てその比率を推定するわ」
「もち米とうるち米を使った料理があると」
「その比率がメニューによって、あるいは料理人の好みによって配合が異なるのよ」
「なるほどね」
「もち米を混ぜるともちもちした感じになる。赤飯や炊き込みご飯などにもち米を混ぜるのだけれど、全体に対して一割とか二割とかそれ以上とかレシピがいろいろあるの」
「料理人によって癖があるのだな」
「そういうこと」
「ならばその比率は犯人を特定する一つの証拠になるのだろうが、決定打ではない」
明石会長にかかれば米をばらまいただけで「犯人」になってしまう。うるち米に加えるもち米の割合で疑われたらたまったものではないな。
「ぱっと見た感じ――二割かな」
「山縣君は米の鑑定ができるのか?」
「ん――何となく」山縣さんは屈託なく笑った。
「どれどれ――僕にも見せて」有象無象の一人が湧いて出た。昨日の食糧自給を考える会――だったかな?――の男子部員だ。
「今、生物部にお願いしている。ほかにも鑑定依頼するつもり――家庭科部とか」
さすがは山縣さんだ。顔が広い。実際は小顔だが。
「米の鑑定方法は?」
「見て判断するだけよ」
「一粒ずつか?」
「そうなるわね」
「気の遠くなるような作業だな。よく生物部が承知したな」
「全部じゃないわよ。一部サンプリングして……」
サンプリングという言葉に反応したのは明石会長だけではなかった。何やら統計学にうるさそうな連中が話に加わってくる。
「一部のサンプルで全体を推測するにはいくつか厳しい条件がある」ランダムサンプリングの話だろう。
「その一部というのはどのように抽出した?」
「生物部や家庭科部の人に見てもらうのだから綺麗な米に決まっているじゃない」お願いするのだからそのくらいの配慮は必要だろう。
「綺麗な米の定義とは?」
「傷んでいなくて、透明度が比較的わかりやすい粒ね」
「それを直観的に選り分けていると?」
「まあ――そうなるわね」長さや重さで分けられるものでもなさそうだし。
「うるち米ともち米に傷みやすさの違いはないものなのか? たとえばうるち米の方が早く水分を吸ってふやけるとか?」
「どうでしょうね。実験しないと分からないわね」
「もち米の方が硬くて鮮度を保っているとしたらサンプリングすると実際よりもち米の比率が高くなる可能性があるな」明石会長はいちいち細かい。
「どちらとも言えない判定不能の粒も出てくるだろうね」別のところから声が上がった。統計にうるさそうなやつだ。「判定不能は比率計算する時に含めないのだろう? 判定可能な米粒と判定不能の米粒においてうるち米ともち米の比率は変わらないという前提がなければだめだね」
「そもそもその判定は確かなのか? ひよこのオス・メスを鑑別する名人並みに選り分けができるのか?」
「ひよこのオス・メスの方が簡単そうだな」別のところから無責任な声が上がる。
もうどうしょうもない。とかく理屈屋は「正論」を述べるがそれでは何もできない。
頭を空っぽにして手を動かすことも必要だ――という僕の心の声が表に出ることはない。
探偵助手は「語らない」のだ。
時:米ばらまきがあった日の翌日昼休み
場所:同好会室
ここの登場人物
明石透 ミステリー研究会会長
山縣杏菜 新聞部部員・ミステリー研究会会員
舞子実里 ミステリー研究会会員
須磨入鹿 写真部部員・新聞部部員・ミステリー研究会会員
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
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