舞子実里
えてして幼馴染は二面性をもっているものだ。
「遅いわ、芦屋くん。待ちくたびれ――もうけ」
オヤジが転生した公爵令嬢だ。おそれいりやの鬼子母神――のつもりだろうか。
カーテンで囲われ、かなりの露出アンダーの条件にもかかわらず舞子実里の顔はしっかりと浮き上がる。
ああ――ほんとうに綺麗だ。
しかし、まだまだ全快にはほど遠い。
「お米の仕分け回収に手間取って、今になってしまったよ。帰ろうか」
「えええーっ! せっかくベッドがあって良い雰囲気なのに……」
しばいたろか! 半殺しにされるけど。
「隣に聞こえるよ」
僕は隣のベッドの方に顔を向け声を殺した。
「隣の子は中等部一年生よ。私のことなんか知らないし」
「そうか……」それで良いのか。
確かに中等部の新入生はつい三月まで生徒会長をしていた中等部のボスのことは知らないだろう。
今さら中一に何と思われても気にならない。はじめからこういうキャラだと思われるだけだ――と舞子は言いたいらしい。
「とにかく帰ろう」
「歩けない……おうちまでおんぶしていって」
「死ぬだろが。お前――何キロあるんだ?」つい――お前と言ってしまった。だから言い直す。「き、君をおぶって電車に乗りバスに乗りして帰ることはできないよ」
「でも歩けないよお」
駄々っ子だ。
「タクシーを呼んでもらおう。もちろん君が支払うんだ。僕はお金がない」
「しけてるなあ……私――やせたんだよ。一時四十を切って今は少し戻して四十二キロくらい」
身長は百六十手前くらい。五十キロくらいあったはずだがひと月で一気に痩せた。謎の不登校の間に。
「たとえ十キロの米でも僕は持って帰れない」
「ひどいよお……」
目を覆って泣き真似してもだめだ。顔は笑っているじゃないか。
「いつまで遊んでいるんだい」立花先生がしびれを切らした。「とっとと帰りなさい」
「はい」
僕が返事をして舞子をベッドから降ろした。
「荷物はあったのか?」ちゃんと手元に。
「雪菜ちゃんが持ってきてくれた」
「槇村さんと一緒に帰っても良かったのに」
「でも近いじゃん――うちら」
確かに近い。近所だ。すぐ隣の家だ。
僕と舞子実里は幼稚園年少組からの幼馴染だった。もっとも――その関係は対等とはほど遠く、僕は舞子のオマケみたいな存在だった。
「少し顔色はマシになったね」立花先生はほんのいっとき養護教諭になった。
「ダーリンが来ると違うねえ」
「そんなんじゃないです」
「これは執事ですから」舞子はクールに答えた。
「そういうことにしとくよ」
僕たちは立花先生に見送られて保健室をあとにした。
集団下校の時間を外れていたので僕と舞子は二人並んで歩いた。
僕は舞子がイジって来るのではないかとヒヤヒヤしたが舞子は外面のクールビューティーを維持していた。
「米は山縣さんが回収していったよ。調査にまわすのだろう」
「大変だったね」
舞子は最低限のことばを返す。
辛そうにも見えるがほんとうのところはわからない。こいつは昔からそういうやつだった。何を考えているのかまるで分からないのだ。
無表情の時も、一見分かりやすそうな喜怒哀楽が表に出ている時もそれが真実か分からない。ウソで塗り固めるやつだった。
「可能な限り米の鑑定をするのだろうな。違う種類の米が混じっていたようだし」
「ごめんね、芦屋君。生徒会に同行できなくて」
「いや――体調不良は仕方がないよ。それにほとんど山縣さんが交渉したし。だから新聞部が調査するみたいな感じになったかもな。松前さんにそう疑われたけれど黒森会長は理解してくれたと思う」
「会長と書記はいたのね」
「うん、矢車さん以外はだいたい――いたかな」
たくさんいるように見えて生徒会で口を開くのは黒森会長と矢車副会長そして松前書記だけだ。僕の目にはその他の役員がただの取り巻きにしか見えなかった。
「黒森さんが舞子のことを心配していたよ」
「まあ――あのひとは……」
その続きの言葉は待っても出てこなかった。
時:米ばらまきがあった日の放課後
場所:保健室、下校する道
ここの登場人物
舞子実里 ミステリー研究会会員
立花佳恵 年配の養護教諭
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手




