84話 別れ
「黒曜石の街」に立ち寄った。
目的は勿論、「イズムルド電力研究所」で、コモリ所長に挨拶をするためだ。
「挨拶するために、態々こんなところに寄ったのかい?君たちもある種のお人よしといったものかな?」
コモリ所長は朗らかに出迎えてくれた。
「いえ、コモリ所長には色々とお世話になりましたし、これくらいはしないとと思いまして。いるかどうかは分かりませんが、これはほんの気持ちです」
そう言って、小さめの麻袋をコモリ所長に手渡した。
「これって……」
「『炎の飛竜の鱗』です。偶然、多く採れることになりまして。希少なモノだと聞いたので、渡す価値はあるかなと」
「ありがとう。研究に使わせてもらうよ」
「最後の挨拶とは別に、お願い事があるんですが……」
「こんなに多くの鱗を頂いたから、多少は聞くけど……」
頼みの内容とは、グライダーを貰うことだ。
使うのは自分じゃない。
ミハルとアズハが再び「帝国」へ向けて越境するために、選択肢を増やすためだ。
「ああ、分かったよ。彼らはまたこっちに戻ってくるんだっけ?」
「う~ん……そこは少し、分からないです……」
2人は「帝国」に行くことは決まっているけど、こっちに来るかは分からない。
アズハが再び来る理由は無いし、ミハルはイズムルド出身だけど、彼に家族はいないし、おそらく実家もないだろうから、こればっかりは。
あと、以前「帝国」から「イズムルド」に戻った際は、国家間の緊張が高まっていて、そもそも戻れるかどうかも怪しい。
紛争程度であっても、数年程度は行き来が難しくなるだろう。
ミハルに視線を飛ばして訊いてみたけど、本人も「情勢を見て決める」と言っていた。
「ああ、確実に戻ってこないなら、手紙でグライダーの使い心地を伝えてくれたらいいよ。出来ればまた会って聞いてみたいと思っていただけだから。じゃ、用意するから、『帝国』に着いたら手紙をよろしく頼むよ」
そんなこんなで、コモリ所長との話をつけて、「黒曜石の街」を出た。
●
「黒曜石の街」から1日、「黒の森の東の村」に到着した。
やはりあの馬車は他の馬車よりも早いのか、前回は大体1日半ほど掛かっていたのが、「黒曜石の街」を出発して次の日の同時刻よりも早い時間に到着できた。
馬車を降りたのは荷物を預けていたあの女将さんのいる宿屋だ。
最初に「黒の森の東の村」に来てから、1年ほどが経っていた。
自分たちの用意したモノ以外に準備すべきものは、明日までにイドリス村長が用意してくれるらしいので、このまま進んで越境するミハルとアズハは、ここでお別れだ。
「今まで、色々とありがとうございました」
「礼を言うのはこっちだ。俺の因縁……いや、ただの我儘に付き合ってくれて」
「あの時は、状況がただそうさせただけですよ。僕が僕自身の意志だけでしたことではないはずです」
「……そうか。ナオトは……、そう言うだろうな」
「ハハ、なんですかそれ」
「ほら」
ミハルが、腕を差し出した。
「……はい」
それに腕を合わせる。
前は火傷の影響がまだ残っていて、ミハルが大声を出して痛がっていたけど、今度こそはそんなことなく、黙って腕を交えることができた。
「ナオト!私も、ありがとう!おかげでお母さんを助けることができそうだよ!」
「そこまで手助けになった気はしないけど……、アズハが嬉しそうで良かったよ」
アズハとも別れの挨拶を交わした。
そして、胡桃も越境する2人と、それぞれ別れを告げていた。
……。
「行っちゃったね、2人とも」
「そう、だね」
宿屋の前で見送って、2人が森の青さに消えるまで手を振り続けた。
「「……」」
その後、特に何かを言い合うでもなく、無言の時が流れた。
「部屋で、明日の用意しよっか」
「……うん」
女将さんに既に取ってもらっていた部屋に行き、明日の準備に取り掛かった。
……。
「旅、長かったようで、短かったね」
「そうだね……始めは本当に、どうしようかと思った」
明日使う帰還用転送魔法用の素材や道具、この宿屋や村長に返すもの、この世界に来た時に持っていて、この宿に預けることになっていた荷物など。
それらを整理しながら、これまでの旅の話をしていた。
「あ」
「うん?」
するとそのときに、胡桃が突飛な声を上げた。
「これ……、どうしよう?」
そこあったのは、「連合の府」で自分たちがそれぞれ、「飛竜の巣」と「香り花の山」に行く前に渡した、カイロとその袋だった。
「あー……。それ、ここで処分できそうなところとか無さそうだし、僕が預かるよ。元は僕のだったし」
「……」
ジト目の胡桃。
「えと……何か変なコト言ったかな?」
「それ、一応女子2人が付けてたカイロなんだけど……?」
「あ、そっか」
「てっきり“変なコト”でも考えているのかと思った」
「使い終わったカイロで“変なコト”は高度過ぎない……?」
「うっ……」
揚げ足取りはさておき。
「ただのゴミだと思うけど……胡桃が持っとく?」
「あ、いや、大丈夫……」
大丈夫そうです。
すぐに捨てやすいように、持っているカバンの中で最も底の浅いショルダーバッグに仕舞った。
「ま、帰るときのこともあるし、それぞれが持っていたものは元々持っていた人が持ち帰った方が良いよね」
「そのことなんだけど」
胡桃は言うきっかけを得たといった感じで、その言葉を口に出した。
「私、改めて尚人君の世界に行こうと思う」
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