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83話 街道と馬車

「いや~、死人が出る前に到着出来てよかったよ~」


「「「……」」」


一連の騒動が纏まりを見せた後、ボリスさんが話しかけてきた。


ただ、ボリスさんの正体に、自分と胡桃とアズハの3人は戸惑いを隠せず呆然としてしまっていた。


「前に俺たちに名乗っていた、『ビリビン』という姓は……」


「ああ、母の姓だよ。『普通の人』として暮らすときは、そっちの姓をよく使っているんだ!」


「どうりで、どこかで聞いたことがあった名だったはずだ」


その内に、ミハルはボリスさんが以前使っていた偽名について聞いていたのだった。


……。


「ところで、今回もまた迷惑を掛けてしまったね。今度は前回いなかった子が人質にとられちゃっていたし……」


ボリスさんが思い出したように苦笑いしてこちらに話を振ってきた。


「え?今回は僕たちとカラムジンの連中とのいざこざが起点だった話でしたし、ボリスさんは関係ないような……」


胡桃が人質に取られてしまったのは、少なくともボリスさんが来る前だったし。


「いやいや、あの男の脅迫や賄賂を知ったのは確かに偶然だったけど、機会があれば君たちに計画性無く船旅の話を進めてしまってしまった件について謝罪するつもりだったんだ」


「それも家に泊めてもらったことで、相殺でいいのではないんじゃないですか?」


「んー……。これは私が気にする問題だからね。今回は君たちにとって、ちゃんと問題無い話だと思うよ!」


「『問題ない話』?」


「うん!ちょっと待ってて!」


そして突然、ボリスさんは走り出し、どこかへ行ってしまった。


「え、ちょっ……行っちゃった……」


「……変わらないな、あの人は」


「「……」」


そして呆れたように言うミハル、目を丸くして口をポカンと開けていたアズハ、考え事でもしているかのように虚空を見つめていた胡桃と、三者三葉のリアクションをしていたのだった。


……。


更に暫く経ち、時間は人々が朝の支度で外に少しずつ出てくる時間帯になっていた。


それくらいの時間になって、ボリスさんが再び現れた。


「ヒヒーンッ!!!」


……馬車を連れて。


その馬車はパーヴェルが以前乗っていたような豪華なものとは趣向が違い、豪華さなどは感じないが、メンテナンスなどが行き届いていて小綺麗な感じがした。


そして自分たちはいつの間にか、その馬車に乗っていた。


「これで心置きなく、君たちを送り出せるよ!この馬車は車輪部分に特殊な素材とバネが組み込まれているから、他の馬車より揺れが少なくて、多少は快適だと思うよ!」


「え」


「じゃね!いってらっしゃーい!」


バタンッ!!!


馬車の扉は閉じられ、馬車は進み出した。


「ボリスさん、最後にとんでもないコト、言っていませんでした?」


「あ、ああ……」


「……」


「どういうことですか?」


馬車の事情についてあまり知らないアズハだけが、ボリスさんが言った内容についての理解がなく、戸惑っていた。


「馬車っていうのは……」


そして、アズハに説明した。


馬車の揺れを抑えるためのスプリング……、ボリスさんが言うところの「バネ」は、結構高級な馬車にしか使われていないということ。


「あと、車輪部分に『特殊な素材』が組み込まれているとも言っていた。彼の正体からして、最高級の素材で作られていると考えてみていいだろう」


「え、えぇーーー!!?」


馬車の話をしていると、ミハルがその説明の補足をしてくれた。


確かにあの人、港の別宅も、必要最低限くらいのものしかなかったけど、使われているものはこの国の技術の粋を集めた価格も技術力も最高水準のものばかりだった。


ミハルが言うように考えるのは、以って普通のことだろう。


ボリスさんが言っていた通り、この馬車の揺れは、「黒の森の東の村」から「黒曜石の街」に行くときに乗った馬車や、「帝国」から「イズムルド」に戻るときに乗ったグランさんの馬車よりも遥かに小さな揺れしか起こさず進んでいた。


「俺も、長時間座って馬車に乗ることはあまり得意では無かったが、これなら大丈夫そうだ」


ミハルがそんなことを言っていた。


って、おいおい。


ベルクさんの船で言っていたことはどうなんだ。


グランさんでの馬車が大丈夫だったのは、馬車の幌の上で恐らく立っていたから大丈夫だったのか。


「……」


そんなことを考えていると、胡桃がこちらを見つめていた。


「どうしたの、胡桃?」


「え?」


「こっちを見つめて……顔になんかついてる?それとも何か……乗り物酔いとか?」


「あ、ああ、何でもないよ。ごめんね?」


「は、はぁ……。酔ったら気にせず言って」


「うん……、本当に大丈夫だから……」


胡桃がこっちを見ている理由って、何かあったっけ?


なんか、結構なことを忘れているような……。


……忘れるようなことだから、大したことではないのかも知れない。


馬車は快調に進んだ。


「ヘイスト」を掛けて無理やり早く進むような方法よりかは多少遅かったが、普通に歩いて行くよりかは、かなりの早さで。


また、どうやらボリスさんは途中の宿屋の経費も御者に持たせてくれていたようで、ただで泊まることができた。


そして数日が経ち、気づけば「黒曜石の街」が見えてきたのであった。

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